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魚採りの仕掛けビンドウの喪失

夏休みに3歳下の従姉妹が遊びに来た。当時私が10歳くらいだった。二人で魚採りに行こうとなった。いつもなら魚採り名人の兄と一緒に行ってもらうのだが、その日は兄も姉もいなかった。我々二人で魚採りに行っても多分1匹も捕まえることが出来ないと思った私の頭にあるアイデアが浮かんだ。我が家にビンドウという魚を採る道具があった。以前透明のビンドウに餌を入れ、川に仕掛けるとたくさん魚が入ったことを思い出した。ビンドウに入った魚は2度と外には出ることができない。

私は納屋からビンドウを取り出し従姉妹と川へ出かけた。近所の浅い川では魚が少ない。どんどん川奥へ向かった。大きな岩の間を川の水が流れる場所に辿り着いた。大きな岩の上に立ち、深い川底を覗きこむとたくさんの魚が泳いでいるのが見えた。ここにビンドウを仕掛けようと思った。従姉妹と2人でワクワクしながらビンドウに水を入れ川に沈めた。しばらくするとビンドウの中に小さな魚が入っていた。その時私は気づいた。ビンドウを引き上げる方法がないことを。その後の記憶は定かでないが、私は従姉妹と家に帰り母に事情を話したのだろう。ひどく叱られたり大笑いされたりした記憶がある。母は深い川底に私達が落ち込まなかったことを感謝しながら、二度とそんな危ない場所に行かないよう叱り続けていた。父はビンドウに紐も付けず深い川底に放り込んだ私達の幼さに爆笑していた。

私自身はその場所が危険だとは思わなかったし、笑える話でもないと思っていたので少し憮然とした思いをしながら、皆から大笑いされていた。

今も岩から覗き込んだ時に見えた緑色の川底とビンドウと魚達の情景が目に浮かぶ。今度帰省したらビンドウを探しに探検してみよう。

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