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手のひらについた奇妙な物体

その日、私は自転車で職場に向かっていた。前方から猛スピードの自転車が向かってきた。左側に避けようとした。自転車はバランスを崩した。自転車と私は歩道脇にあった植え込みに突入した。

植え込みから起き上がり自分の身体を確認した。左手のひらに黒い物体が引っ付いていた。すぐに自転車に乗り職場へ向かった。職場のトイレで手を洗ったが、左手のひらの黒く硬い物体が取り除けない。諦めて仕事を始めた。

午後になり黒い物体の周りの皮膚が赤くなってきた。何か有害物質かもしれない?と少し恐くなってきた。同僚に説明し時間休をとり、早めに職場を出た。向かった先は木下皮膚科。木下医師も「これは何だろう?」と不思議そうな顔で黒い物体を取り除こうとした。しかし黒い物体は私の左手のひらに引っ付いて離れない。

困った木下医師は隣の部屋にいた息子の木下医師に助けを求めた。優しそうな息子が私の左手のひらから黒い物体を剥がし始めた。「麻酔しないから痛いですよね。すみません。」と優しく声かけしながら、ガリガリと黒い物体を剥がし続けた。痛みに耐えながら剥がしているうちに診察時間が終わった。看護師さんに先帰るように優しい息子さんが声をかけていた。マジで優しい息子さんだ。18:30位に私の左手のひらからほとんどの黒い物体が消えた。「少し残ってますが、自然に排出されてなくなりますよ」と優しく話してくれた。

父親である木下医師は嬉しそうに「息子はわしより外科的な処置が上手いんじゃ」と言った。

次の日、私が自転車で突っ込んだ植え込みを確認したが、黒い物体は見つけることが出来なかった。あの黒い物体は何だったのだろうか?今も謎のままだ。

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