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生涯で一番美味しかった雑炊の思い出

6年前の3月、突然空を見上げると黒い丸い物体が見えた。キョロキョロ目玉を動かすと黒い物体も一緒に動く。これは私の目に原因があると思った。すぐに眼底出血や網膜剥離という恐い病気が思い浮かんだ。楽天的な私だが目の前を動き回る黒い物体に恐れをなして仕事を休み自転車で眼科へ向かった。医者に症状を説明した。まず瞳孔を開く目薬を入れ、景色がぼんやりした。医者は瞳孔が開いた私の目を検査した。「中心性漿液性脈絡網膜症」という診断だった。網膜に水が溜まる病気らしい。発病の原因はストレスらしく、働き盛りの男性に多いらしい。仕事が忙しくなる年度末によく発症するから年度末病とも呼ばれてますよと医者は笑いながら言った。そこまで悪い病気ではないが、特効薬がないこと、再発しやすいこと、長期間水が溜まると視力が落ちる可能性があることなど説明を受けた。完治する為にはレーザー手術をして水が漏れている網膜の穴を塞ぐしかないと言われた。

その後ビタミン剤を飲みながら、治っては再発することを繰り返した。なかなか完治しないので、1年半後徳島大学病院で診察してもらった。造影剤を入れて本格的な検査をした。結局レーザー手術をするかどうかの判断になったがリスクが高かったので手術は断念した。

病院から帰宅後、造影剤の副作用なのか吐き気が酷くリビングで寝転んでいた。すると学校から帰った高校生の次男が雑炊を作ってくれた。ふたりで一緒に雑炊を食べた。優しい味と次男の優しい気持ちに身体も心も癒された。生涯で一番嬉しかった雑炊だった。

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