いぬだらけ

橋本絵莉子

家にたぬきちが来てから、近所に知り合いが増えた。
散歩中に会ったら挨拶をする、「犬友」だ。
これが絶妙な距離感で心地良い。道端でばったり会って、ちょいちょいっと挨拶する、この一見ライトだけど大切なものが同じという感じが、素晴らしい。
お互い犬にピントが合っていればいいのだ。

家のすぐ近くに、たぬきちのことが大好きな犬がいる。たぬきちを見つけたら一目散に走り寄ってきて匂いを嗅ぐ。毎回飼い主のお父さんに「こらこら、あんまりしつこくしたらたぬきちくんに嫌われますよ」と言われてる。
その二軒隣に、家からなかなか出られない犬がいる。散歩に行ったことがないままおとなになって、その状態で引き取られてきたらしい。最近は、玄関から出てる瞬間をたびたび目撃できて、外の世界に慣れてきたんやなあと嬉しく思う。
たぬきちにそっくりな犬もいる。色も、出身地も、境遇も同じで、もしかしたらたぬきちの親戚なんじゃないかと思ってる。この飼い主さんは犬に話しかける時だけ声が2オクターブ上がる。
ちょっとだけたぬきちに似てる犬もいる。この飼い主さんは顔が広く、動物病院やドッグランの情報を教えてくれる貴重な存在。
たぬきちよりも私の方が大好きな犬もいる。まだ若い柴犬で、会えて嬉しいはずみで甘噛みと本気噛みの中間より本気噛み寄りの痛さで噛んでくるが、かわいいのでよしとしてる。この子に近づく時はまず前腕を差し出すようにしてる。

よくすれ違うけど、特に挨拶しない犬もいる。それもまたよし。
かわいい〜と言いながら近寄ってくる子どもや、にこにこ笑いながらたぬきちを見つめるおじいちゃんおばあちゃん。
数年前ビギンを東京で預かっていた時は、散歩中に「ちょっとすみません」と声をかけられて、立ち止まると「私も黒柴を飼っていたんです。そっくり…この間亡くなってしまったんですけど…」と涙目でビギンをなでた人がいた。その時私は何も言えなくて、リードをにぎってじっと横に立ってた。

今年のお正月。
1月1日、朝7時過ぎの初挨拶も、犬友とだった。
「あけましておめでとうございます」
おめでとうございます。
「寒いですね」
ねー、寒いですね。
「ご実家には帰られないのですか?」
はい、今はまだやめとこうかなあって。
「そうか、コロナがね」
はい。
「こらこら、あんまりしつこくしたらたぬきちくんに嫌われますよ、それじゃ今年もよろしくお願いします」

うん。
犬はいい。

画像1

たぬきちの匂いが完全に消えるまで2ヶ月間ソファーに上がらなかったビギンを添えて。(たぬきちのことめっちゃ嫌いやん! かわいい)