よしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」

マンガ・小説に造詣の深い友人に勧められて迷わず購入して読んだのだが、あまりに、あまりに感動して、しばらく感想の言葉すら浮かんでこなかった。余韻に浸る時間が必要だった。なぜ今までの人生、よしながふみをスルーしてきたのだろう。オレの馬鹿! そしてサブカルな友人(たち)! もっと早く教えてくれよ!(綺麗な逆ギレ)

たとえば引用したこの一コマをご覧ください。これっていわゆる、誰だって一度は思う「あるあるネタ」だと思うんですけど(そうじゃない人もいるかもしんないけど)、それにしては上質だと思わないですか? 上質ってのはつまり、ただの「あるある」じゃなくて、非常に多くのことを学べる「あるある」、ということは人によって学ぶことが違うであろう「あるある」、ということはこのシーンで何を思うかによってその人の価値観まで計れてこのシーン一つでいろいろ話が膨らませることができるという、マンガを楽しむ以上の楽しみも増えるというひと粒で二度おいしい「あるある」なわけです。

「あるあるネタ」と言われてオレなんかがパッと思いつくのは、お笑いコンビ《レギュラー》のあるある探検隊(古っ!)の「ぶさいく~なのにいい匂い!」とか、《いつもここから》の悲しい時(古っ!)の「手を出してるのにマットにおつりを置かれた時~」とかですよ。まあそれはそれでその場では「あははは」と笑って楽しめるんですが、このマンガの一コマみたいにハッとすることはない。この一コマは「ハッ」とするんです。どんな風に?

(ということは、年収100億円あって美形の恋人30人くらいいても死にたくなることってあるのかもなあ。逆に毎日雑草とか雨水しか口にできない生活でも幸せになれるのかもなあ。ってことは、物理的な環境や所有量と幸福度は比例しないのかもなあ、いやでも待てよ、年収100億あったらさすがにこの女子高生が抱えるような人間関係の悩みは一瞬で解決されるかも……そもそも速攻で高校なんて辞めるか? いやでもそれは本当の「解決」なのか? いやそんな飛躍した発想よりも、まずここには「死にたくなる」という感情と、その感情を抱くことにまた「死にたくなる」という二重の自己批判が描かれていて、この子のうつ的な意味で危険な兆候が——)

とかいろいろ考えてしまってマンガを読むのがなかなか先に進みません。でも、ずっと最後の最後まで面白かった! しかも後半になればなるほど! 全3巻の、一年間の高校生活という短い期間を描いていますが、圧倒的なクオリティです。すべてのコマがこのレベルの「あるある」なんです。そして物語がカチッと収まる。常に、予想外の方向に。いやあ、素晴らしかった。

よしながふみ全部読みたい。「大奥」も完全にスル—してたもんなあ。「トランスジェンダーものは物語になりやすくてズルい」という先入観のせいかな。

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