社会人Dやっていた時の話とDを取ってからの話

こちらは社会人学生Advent Calendar 2020の10日目の記事です。

hasegawa_k35ともうします.現在は某外資系企業の研究所でエンジニアをやっています.2016年に社会人ドクターとして博士号を取りました.
他の記事では社会人としてドクターをやっていてどうなのかや入る前にどうだったかという話が多いようなので,ここではそれらにプラスして取った後どうだったかの話も少し書きたいと思います.


きっかけ


もともと学生時代から博士を取るなら一度外に出て色々と経験した上で社会人ドクター,と考えていました.で,入社して4年目あたりで仕事もプライベートもひと段落着いたので,じゃあこの機会にやってみようか,と思い立って準備を始めた次第です.
 

取っていた時の話


生活サイクル
大学には週2,3回(平日終業後1,2日+週末1日)という形で通い,そのほかの日は家で研究を進めていました.専攻が情報系(ビジョン関係)なので最悪PC1台あれば研究を進められる,家-職場-大学がすべて近い,当時はほとんど残業できなかった,という環境のおかげで,ほぼほぼ無理なく生活できていました.
経過
・0年目
はい,0年目が存在します.
最初に教授(修士の時と同じところに行きました)に社会人ドクター取りたい,と相談に行った際に,本業の業務とは独立したテーマで取るつもりだったので「いきなり入るよりも,まず個人で研究を進めて論文になりそうな成果が出たら入るようにした方がいい」とアドバイスされ,それに従い1年弱大学に入らず研究を進めました.教授からはいつでもディスカッションや進捗報告に来ていいといわれていたので,大体月1くらいでミーティングに行ってフィードバック貰って進める,の繰り返しです.おかげで12月頃には成果の目途が立ったので,急いで必要書類収集と願書作成を行い,4月入学の試験に応募.教授の事前承認が出ていれば書類審査だけでOKだったので,特に口頭試問や筆記試験をすることなく合格です.
・1年目
当初の計画通り,1本目の論文を入学早々に執筆して投稿.条件付きではありましたが無事アクセプトされました.同時にいくつか国内/国際会議に投稿していました.ただ,そちらの準備や執筆に結構時間を取られてしまったこともあって研究自体はあまり進まず.方針ミスったのもありましたが,年末に投稿した学会はリジェクトされてしまいました.
・2年目
気を取り直して研究継続.投稿が一段落したこともあって研究自体に時間をかけて実績作りを狙いに行きました.ある程度ターゲットを絞ったことも功を奏し,国内/国際会議に複数投稿することに成功.これをベースに2本目の論文を投稿し,無事アクセプトされました.私がいた専攻の修了要件は査読付き論文2本+国際会議発表1回だったので,これで満たせました.
・3年目
ということで3年目の頭から博士論文執筆に入ります.このペースなら春学期修了できそう,と思ったものの大苦戦.まあ,原因は英語で博士論文を書くことにしたせいなのですが.加えてこの頃から本業の方が少し忙しくなってきたため,前2年よりも時間を取りにくくなっていたのも一因です.それでも何とか書き上げ,春学期修了の期限ギリギリで公聴会⇒論文提出し,無事(在籍は)2.5年で修了することができました.
・感想
なんやかんやで2.5(+1)年で学位を取ることができましたが,正直運と環境が良かったおかげだと思っています.
   ・社会人ドクターに理解のある研究室で
   ・悪くない研究テーマを選べて
   ・残業があまりできなったおかげで時間が少なからず取れて
   ・職場や家族の理解が得られて
というそれぞれの要素がなければここまで順調にはいかなかったでしょう.なので,子供がいたり本業が忙しい状態でドクターを取ろうとしている方々は本当に尊敬します.正直子供がいる今の状態では,少なくとも当時と同じペースで進めるのは自分には無理です・・・.ちなみに4つ目の職場と家族の理解ですが,職場は当時の上司も社会人ドクター経験者だったので後押ししてくれた,妻(当時はまだ子供がいなかったので家族は妻のみ)に相談したときは「いいんじゃない」の一言で了承されたという何の障害もない状態.この4つ目が壁になる方も少なからずいると思うので,そういう点ではトップクラスに恵まれてました.

取った後の話

会社で
本業そのものにはほとんど影響がありませんでした.まあ,これは最初から分かっていた話(当時勤めていた会社では特に博士を優遇するという明確なルールはなかった)なので,特に不満はないのですが.
海外の研究所に行った話
博士を取って得をした話①
博士を取った翌年辺りから,当時の勤務先と某外資系企業との共同研究プロジェクトが始まりました.そのプロジェクトの一環で,何人かその企業の海外研究所に行くことができたのですが,その一人に選んでもらえて1年弱アメリカの研究所に滞在して研究をすることができました.選ばれた後に知ったのですが,どうやら派遣候補者は博士持ちか管理職クラス等の役職者、あるいは海外勤務経験者に限定していたようなので,博士を取ったことが活きた形になります.そう簡単に行ける場所でもなかったので,博士を取ったおかげで非常に貴重な経験を得ることができました.
転職
博士を取って得をした話②
今年の前半に今の会社に転職しました.退職エントリではないので詳細は割愛しますが,もともと入社してある程度の年数たったら転職を視野に入れようと考えていたこと,前職の会社方針がだんだんと変わってきてやりたいことがやりにくくなっていたことから転職することにしました.
で,転職活動をしたわけですが,こちらが思っている以上に博士を持っているかをエージェントや企業の採用担当者は見てくれているようで(前職が上記の通りだったから余計にそう感じたのかも),悪くない条件でのお話を少なからず頂けました.その中から職務内容や待遇等が自分の希望に合っていた今の会社に決まったという形です.博士がなかったら,という条件で話を聞いたことがないので明確には分からないですが,少なからず苦労したり条件は悪かったのでは,と活動中は感じました.

全体を通して

博士に通っていたときはそこまで大変だとは感じなかったのですが,上にも書いた通り環境に恵まれていたというのがやはり大きかったと思います.周りの学生も少なからずそう感じていたのか,その後研究室で社会人ドクターをとろうという動きが前よりも活発になりました.が,これは嬉しいと同時に若干の罪悪感も・・・.研究室とテーマはいいとしても,周りの理解とか時間が取れるかはその人次第なので.
あと,博士取得とその後を通じ学会に行ったり転職したりして人脈が広がったり他組織の様子を知る機会が増えるにつれ,博士を持っていることの重要性を感じることが多くなりました.現職では研究系の人だと博士持ちが少なくない(特に国外)ですし,前職時代に行ったアメリカの研究所では,上に行きたければ博士を持っていないとダメというのがはっきりしていました.やはり持っていると選択肢が大きく広がるというのは間違いないです.

ということで,興味があって周りの環境的に問題ない←これ重要)方は是非とも博士課程に進むことをお勧めします.


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