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【読書感想】最果てのパラディン/柳野かなた

異世界転生!流行ってますよね~~。TLでも異世界転生を題材にした様々なアニメや小説の感想や宣伝が流れてくるのを多く見かけます。

…いやまぁ、なんでこうも曖昧な表現なのかといえば「なんか食指が動かぬままジャンルに触れないでいたらもう二周も三周も遅れた感があって今更手を出せないな…」みたいな感じで、ブームに乗り損ねて二の足を踏んでいたからなのですが。もう2021年やぞ。

そんな折、某フリゲをプレイしたのをきっかけに「最果てのパラディン」を知り、来秋にはアニメ化もするということで丁度いい機会だと読んでみたら、これがまた面白かった…!

情景が容易に浮かぶ読みやすい表現から、ある時は激しく躍動的に、またある時は美しく詩的に語られる文章。後悔と停滞の中で一度死したからこそ「ちゃんと生きる」と決めた主人公、ウィリアムの胸を打つ真っすぐさや、彼に感化され生きる道を見定める登場人物の心情。神話や物語の息吹が身近に感じられるほどに構成された世界観。作者の柳野かなた氏がTRPGを嗜まれているためか、どことなくその趣を感じる描写の数々。

そういえば俺、ファンタジー作品好きだったんだよなぁ…という懐かしい興奮を呼び起こすほどに没頭したのでした。



各巻感想

Ⅰ.死者の街の少年

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まさか1冊まるまる使って再生と蜜月の日々、そして別離を描くとは…。異世界転生ジャンルにおける物語のスピード感については完全に門外漢なものの、まさか1巻でモブキャラすら出ないとは思わなかった。

しかし、それゆえにウィリアムの日々の成長が世界観の説明と共にゆっくりと染みわたるように描かれていき、そしてブラッドやマリー、ガスたち三人の家族と愛を育み、その姿に情愛と憧憬を抱くことで「よく生きる」信念を確固たるものに鍛錬されていく過程が物凄く心地良い…。

15の誕生日に自らの守護神を選ぶ風習や、神々の対立構造が仄めかされるなど、神話を通して作中世界の文化背景に想いを馳せる要素が散りばめられているほか、これ以降の作品でもそれらの設定が顔を覗かせるのが、世界の輪郭をより鮮明にしていて好きですね。


俗に言う「転生チート」はないものの、再び生れ落ちたことこそが恩寵であると言わんばかりに、強烈に脳裏を張り付く前世の後悔を振り切るように鍛錬や学習、祈りに明け暮れる精神性の一途さが眩しい。そして不死神スタグネイトが抱く「死によって脅かされることのない、優しい世界を作りたい」という誘惑じみた慈悲を前にしても、「きちんと生きるなら、きちんと死にたい」と三人の家族として誇りある生を全うしようとする決意の輝かしさに胸を打たれるようで、この時点でいやぁいいものを見たな…と清々しい読後感がありました。


Ⅱ.獣の森の射手

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やったッ!白髪のエルフだ!!

いいですよね、白髪で美麗なエルフ族。まぁ実際はハーフエルフだしそれは置いといて。外界に出て登場人物が増えることで、世界に向ける視野が加速度的に広がっていくのが良いんですよね。悪魔たちによって大幅に後退した人類の生存圏や、彼方の大陸に多様な種族とファンタジー世界のディテールがより鮮明になっていくのが、冒険のロマンを思わせて心が躍る。
また、家族以外の他者と関わる中でウィルの蛮族じみた大胆な発想と、それを実現するパワーの頼もしさが存分に描かれるのが、親元から離れることで真っすぐな人間性が更に「流儀」として変化していく様に思わず目を惹かれるものがあった。鍛え抜かれた筋力による暴力はたいていの問題を解決するんだ!!

個性的な登場人物が増え世界が広がっていく中で、それでもウィルの心情というミクロな要素に焦点が当たるのも「生き方」を常に問う作品のテーマに沿っていて思わず唸る。
精霊と交信して搦め手を扱うメネルの技を初見で見切り、獰猛な獣たちが彼を恐れ戦き、街を襲うワイバーンを素手で倒す。およそ人外の域に達しつつある技量を持ちながら一歩引いた態度を繰り返すウィルには、過ぎた謙遜は嫌味に映るぜェ~~~~~!?なんて思いもありましたが、それすら終盤で「自分がこの世界で強すぎることに薄々気付きながらも、力ゆえに並び立つものがいなくなる孤独を恐れて無意識に目を背けていた」と、強くなった肉体に対して未熟な精神という側面として回収されるのは思わずやられた!となったものでした。ウィルが己の弱さと向き合ったのが1巻ならば、逆に己の強さに対峙したのが2巻といったところでしょうか。
そこからメネルと本気でぶつかり合い、一度は苦汁を舐めさせられたキマイラとの雪辱戦の迫力がまさに鮮烈だった。いくらウィルが強力な力を持っていてもそれは多面的な戦場における一要素でしかなく、どこかの要素が劣っていても様々な個性をもつものたちの流れで勝敗の天秤が傾くことの心強さ、頼もしさが強固な説得力をもって胸に落ちるのが最高だ…と思った。


余談だけど、戦いを終えてメネルが吟遊詩人のビィに「メネルの二つ名は《麗し》のメネルドールとかにしようかしら!」と言われて「それ絶対に『実は女だった!』とかされる流れだろ!」と言い返していたのが、この世界に英雄譚、物語が隣り合って息づいていることを思わせて細かいながらも好きな描写でした。でもメネルはわざわざ女体化させられなくても後世の歴史家たちの間でウィルとぬとぬとした関係だったことにされてると思うよ。


Ⅲ.鉄錆の山の王<上・下>


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現在刊行中の全5巻において、トップクラスに面白かったのは間違いなくこのエピソード。随所に神話、民話的なエピソードを挟んで世界観に華を添え、彩りをより鮮やかにしてきた本作においてまさに白眉といえる展開だったと言っても過言ではないでしょう。

かつて「くろがね山脈」においてその魂を燃やしてきたドワーフ族が悪魔との戦いで滅んだことで「鉄錆山脈」と呼称されるまでになり、残った一部の民は惨めにも流浪の道を選ぶこととなった悲劇の悲壮さ。そして、絶望的な戦であっても誇り高き生き様を日輪のように輝かせたアウルヴァングル王の気高さが語られる一連のシーンのなんと熱く叙情的なことだろう。
また、先王の血を継ぐルゥが、ウィルに師事するなかでその在り方に照らされ、王たる器を開花させていく流れがエピソードのひとつずつ丁寧に描写されていて、こちらもまたかつての王の姿を想起するようで思わず感嘆の声が漏れるようだった。

邪竜「ヴァラキアカ」戦も例に漏れず手に汗握る戦いだった。戦いの前に神々から勝ち目がないことを告げられながらも、知恵を絞り、死力を尽くしても手が届かない相手に一歩も引かず、宿敵の神までをも動かした果てに魂を燃やし尽くして勝利をおさめる激闘は、そりゃ心が昂るというもの。強大な力を持ちながらも神代から生きるトリックスターじみた狡猾さを見せ、かと思えば本性を現し「瘴毒は殺し、害し、溶岩は煮え、滾ってこその生よ!」と己の邪悪を高らかに祝福するなど、格の高さにおいてもこれまでの敵と一歩も引けを取らないのが素晴らしい。クライマックスの流れも、ウィルの「生きる意志」最後の最後で勝利をもぎ取ったのが読み取れて興奮してしまった。
そのまぁ鎧武のザック並みに急にキャラ変わったなというかどの面下げてヒロインレースに参入してんだお前!??みたいな人とかありもしましたが、悪魔に蹂躙された鉄錆の山がグレイスフィールの火によって「黒鉄」の在り方を取り戻す終盤のシーンは、滅びをもたらす邪竜の狂熱に対して穏やかで柔らかな熱思わせ、絵的な迫力の「上手さ」もあってやり切った感が強いのも見どころというか。

話のスケールが大きくなりつつも、ウィルがさらに人として大成していく姿がまた見物というもの。2巻ラストで辺境の領主に担ぎ上げられられてから2年が経過し、それなりに場数を踏んだことでより広い視野を得たことの他、やはりルゥを従者にして鍛えていく日常のパートがなかなか好みだったなぁと。
ルゥを鍛えるうちに、人に物を教えていくことの難しさと同時に日々頼もしさを感じ、時に影で励まされながら「もしかしてブラッドも、こんな気持ちになることがあったのかな?」と思い返すシーンはまさに先達としてより人間性が高みに進んだことを思わせるし、このエピソードに限らず街の発展や維持のために苦悩したり様々な人物と関わる中で親たちの教えをより強く実感するのが、離れているからこそより身近に故人を感じる温かさが染み入るようだった…。

そんな肉体、精神の成長の締めくくりとして、これまで共に長い時を過ごし幾度となく危機を救いつつも槍としての寿命を迎えた<おぼろ月>から削り出した短剣を、「最果てのパラディン」の旅路とともに若き冒険者に託すラスト。どこか寂寥感をはらみつつも穏やかで心地の良い充足感は、物語の一つの結実として爽やかな余韻を残すのでした。


Ⅳ.灯火の港の群像

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サブエピソード集だ!!竜対峙のその後の顛末や、レイストフにビィといったキャラに触れる幕間的な話の数々でシンプルに面白かった。強大な竜を倒して巨万の財宝を得ても、世の中ままならないという世知辛さがより世界の解像度を深めて良い感じ。というか男連中で集まった飲み会でこれまでそんなになかった下ネタが飛び出すの笑ってしまった。なにがつらぬきだ馬鹿者!!!

あ、長らく女っ気がないな…ってなってた本作で、改めてヒロインが誰なのか明言されていいものでしたね。そりゃ生まれた時から見守り続けてきただけでなく要所要所でジェラシーを発揮するんだからヒロイン格も頷けるというものですよ。というか今更だけどアニメ公式サイトのトップページが主張凄いな!???



改めて、アニメ始まる前に読み込めてよかったなぁ。最近は書籍から離れ気味だったけど、読みだすとするするとページをめくる手が止まらず、ひたすらにファンタジーの世界に没頭するいい読書体験でした。秋にはアニメ始まるし、気になる作品に触れつつ新エピソードもゆっくりと待ちたいですね(作者さんのTwitter見てからコナンザグレートとかが気になる今日この頃)。











余談の余談


・最初のネームドモブが「トム」と「ジョン」

・不死者と化した村人たち

脳内に溢れだした光景↓

スクリーンショット (1226)

繋がったぜスタグネイトさん…!!

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