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アスラ・ファエルが降りてくる【ベアルファレス】

いきなり自分語りから始まるのですが、私は割と設定マニアなので物語の舞台や世界観の設定が濃密な作品に出会うとものすごく嬉しくなってしまうところがあります。
この性癖は特にファンタジー作品において顕著で、作中世界の文化や国家の背景が綿密に語られれば語られるほど、作品や物語への没入感が高まっていく快感のようなものを味わえるんですよね。

で、そういう世界観が凝ってるゲームに浸りたいな~~~と思ってたところで知った「ベアルファレス」をプレイしたんですが、これこそ求めていた以上のものだ!!!と感激してしまった。重厚な世界観やそれをもとに形成されたキャラクター像、そしてそれらが渾然一体となったシナリオがとにかく秀逸で、アクションパートの妙に高い難易度とかやや洗練されてないバランスなどの難を差し引いても傑作といって過言ではない面白さでした。

…いやでも冷静に考えると青の羨道とか無限湧きするニフキーが序盤に出てくる面とか序盤の難易度が妙に高いのおかしくない!??って気もしますが。序盤の金策がキツすぎるんじゃ!!

プレステのゲームなので入手の敷居が高い感がありますが、ゲームアーカイブスで600円と冗談みたいな安さで購入できますよ!え?PS3とかVitaを持ってない?おかしい…VitaはGBASPと並んで我が家の現役ハードなのだが…。


物語の舞台とその外側のはなし

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そもそも「ベアルファレス」がどういったストーリーなのか?ということであらすじをまとめます。

時は後世の歴史家から「黄昏の時代」と呼ばれる一時代の幕開け。
二大国、アスロイト王国とバイレステ共和国の国境線を大地震が襲い、その跡地で奇妙な石が発見された。それは怪我や病気を癒し不老不死を授ける、まさしく神話や伝説に描かれる至宝「アザレの石」そのもの。
大国の指導者たちは発掘を命じ、伝説の太陽帝国の首都・アスラ・ファエルが一万年の時を超え姿を現す。
アザレの石は発見されなかったものの巨万の富が溢れる遺跡は国を潤したが、ある日異形の怪物が遺跡から出現して軍隊を壊滅させる。大国はこれに怯え遺跡の入り口を封印したが、それでも地下遺跡を目指す冒険者は絶えず、遺跡を囲む城壁の中に小さな町が出来ていた。
ある者は富と名声のため、ある者は至宝「アザレの石」のため、それぞれの思惑を抱えて地下遺跡に赴くのだった…

長々と書きましたが、大まかに言えば地下遺跡とそれを取り囲む冒険者の町「カルス・バスティード(通称カルスの棺桶)」が舞台であり、この中で物語は進行し完結していきます。

それはそうと、取扱説明書の4.5ページ目がこちら

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これでもかってくらい濃厚~~~~~~~~!!!
キャラクターやゲームの内容より前面に押し出される広大な世界観説明!周辺国に行くことは一切ありませんし、ゲーム上でこれらの国が直接関わるのはキャラメイクで出身地を設定する時くらいですが「俺たちがやりたいのはこれや」と言わんばかりの圧、もとい熱を感じます。
説明書で書かれてる諸国の説明はほんの一部。遺跡学者クムランの家には更に深くこれらの設定を掘り下げた書物があります。以下に二大国の一つ、アスロイト王国の説明のうち前半部分のスクショを乗っけておきます。

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もうここまでくると一種の「畏れ」じみたものを感じざるを得ないほどまでに、緻密に組み上げられ凄まじい熱量が込められていることが察せられる舞台設定。アスロイトは二大国の片割れなので説明文も長く、ほかの国はここまでではないですがそれでも各国につき3~4ページ分の情報量があります。これが合計12か国分!初見プレイでは書物を読むだけでそこそこの時間が溶かされる幸せを噛み締めることができますね。

ちなみに私が好きなのはアスロイト王国から独立した背景を持つ「ファコルツ公国」です。腹黒ショタが王から掠め取った土地とかいう王国の汚点がヤバすぎるし、現在に至るまで国家間の関係が悪いの納得しかなくて笑うんだよな。

さらに、預言者アイノアと彼に従う十三聖者が広めた「アイノア教」(5000年前に成立し現在では99%の人々から信仰されている)についても同様に、成り立ちや「物質世界・精神世界が融合し全てが一つになる世界がいつか訪れる」といった教義だけでなく、ほかの土着信仰をどう吸収していったかなどの歴史をもうかがえます。

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「いうてゲームに関わらないなら意味ないやんけ~~」という意見もあるかもしれませんがとんでもない!これらがあることで物語からなんならシステム面に至るまでに強い「納得」が生まれるんです。

アスロイトの説明を見ただけでも貴族や騎士といった上流階級の腐敗に眩暈がしますが、対立するバイレステ共和国も同様に財政の逼迫とか格差による民衆の不満が爆発寸前など落日を迎えつつあるし、それらに搾取される周辺の国々はさらに困窮し独立運動で死傷者が出ている始末。
さらにはアイノア教の総本山である「レノス教皇領」では利権争いで暗殺や謀略がはびこってるし、聖職者が裏で不義の子を何人もつくっている。おまけに魔女狩りじみた密告社会を作り大量に死者をだした「神聖裁判」なる負の遺産など、各国の歴史や実態を紐解いていくごとに爆笑すること請け合いです。どの国も支配階級が終わってんじゃねーか!

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そんなわけで、大前提としてこの世界において民衆を搾取する貴族や金で地位を買ったような騎士などの上流階級はひたすらに嫌悪されています。
ここでまず感嘆とした部分なんですが、このゲームは最初に町の顔役であるオイゲンからの質問に答えていく体でキャラメイクするパートがあり、選んだ「出身」「身分」「ここに来た目的」によって初期ステータスや使用武器、仲間との相性が決まります。
しかし、ここで上級貴族や騎士を選ぶようなものならさっきまで普通に話してたオイゲンから「お前誰にもそれを言うんじゃないぞ」と警告される上に、目的を金稼ぎにすると「没落貴族か。言っちゃなんだがいい気味だな」とか1000%私怨の嫌味を言われる!挙句の果てに最初からある程度の所持金がある代わりに大半の仲間からの好感度がやんわり低い状態でスタートするとかいうデメリットつき!!

↓身分を聖職者にしたとき

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↓身分を貴族or騎士にしたとき

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これ、初見では「は???????」となる点なんですが、歴史の背景を紐解いていくと納得しかないんですよね。
というか閉鎖空間であるこの町の住人は大半が金を稼ぎに来た荒くれ者で、貴族に虐げられた者だって多いでしょう。そんな中に貴族の若者が転がっていったらいい餌にしかなりません。嫌味まじりではあるものの、後になるとオイゲンの優しさと配慮が身に染みるんだぜ…。このほか、国々の設定やキャラクターの生い立ち、カルスに来た理由などで語られるエピソードを読むほどに貴族の最悪エピソードがまろびでるので「これは…第一印象が最悪でも仕方ないですね…」と沈痛な面持ちが追いついてくる親切設計。
身分に限らず、各国の微妙な力関係や風土などのバックボーンが物語や会話の端々にさりげなく挿入されるのも良い。まぁ設定を読み込まなくても、仲間たちとの会話だけでもプレイするのに支障がない程度には世界観の輪郭を掴めますしね。
諸国の近況はストーリーが進むごとに酒場の壁新聞で知らされるんですが、最初は説明書の地図を片手に見ていた情報がやがて「あの国が!?」みたいに理解できるようになっていくのが魅力的ですね~!ちょうどアクションに慣れてプレイヤーと主人公が溶け合っていくように感じられた頃だったのもあって、よりストーリーへ深く傾倒していくのでした。

貴族への風当たりが強いシリーズ

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また、町にはアスロイトとバイレステの出身者が分かれて身を寄せる宿舎があるのですが(地域で仲が悪いのではなく上京した先で同じ地元の人間が集まるくらいな感触)、とある事件が起こった際に各宿舎での会話を見ると問題に対する向き合い方の傾向が微妙に異なっており、当たり前ながら生まれが違えば価値観も違うんだよな…と感心した覚えがあります。

外側に広がる世界という、画面に映らない部分までもが尋常ならざる密度で構成されているからこそ、物語の舞台がどれだけ小さな町であっても窮屈さを感じさせない匠の技でしたね…。


キャラクター達と価値観の話

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カルス・バスティードを囲む世界の骨子がこれだけ強固だと、仲間たちの人間性や価値観にも一貫性が生まれますね。仲間になる冒険者は同年代の若者13人で、もちろん生まれも胸に秘めた目的も異なります。
人々を救うためにアザレの石を求める由緒正しい騎士のアーサー、父殺しの罪を犯し追手から逃げて来た上級貴族のエレアノール、孤児院の経営を助けたいサラ、なんだか面白そうだから町に足を踏み入れたイヴなど、そのどれもが個性的。

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町には時間の概念があり、それによる行動の変化がまた個性を際立たせます。例えば前述のアーサーは早朝になると教会で祈りを捧げているし、エレアノールの部屋を深夜に訪れると「誰!?」と瞬時に飛び起きる(逃亡生活が長かったんだろうな…)、サラはばりいい子なので夕方は酒場で料理を手伝っているなどの描写の数々が、生い立ちなどの設定と相まってキャラに深みを与えるんだよな…。
また、回復は教会にいる司祭ティアラにしてもらうんですが、一部のキャラは「男に媚び売ってるみたいであの子苦手だわ」「神の助けなど必要ない」とか言い出して教会から出るまでパーティから外れるという手の込みよう。ここは全員RP力高すぎ卓か?

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また、キャラのドットなんですが、これも非常によく動く!照れて持ってるハタキをめちゃめちゃ振り回したり、壁にもたれかかったりと人物のクセを掴んだ表現が素敵です。
ゲーム開始直後に新人が集められて町の説明を受けるシーンでも、これ二週目じゃないと気づかないだろ!?ってレベルのさり気なさでキャラの個性が垣間見えますね。ノエルはクムランへまっさきに挨拶してるし、解散時にオルフェウスとサラがなにやら話してる→サラが顔を真っ赤にして出ていくので「あ、口説かれたんだな」と気付くみたいな。

さてこのゲーム、結構な頻度でキャラ同士が話し合いをします。何か事件が起こる→新人冒険者の宿舎にそれが持ち込まれる→皆で方針を相談するというのがよくある流れですね。

そしてこれが毎度まぁまぁ紛糾する!!例を挙げると序盤、仲間の一人アッシュの妹の病状が悪化し早急に薬の材料を調達しなければならないが、どう頑張っても1カ月はかかってしまう…というイベントです。
「仲間のためだ、皆で協力しよう!」「なんで仕切られなきゃいけないんですか?」「村が貧しいからひと月足止めをくらうのは痛いけど手伝うよ」「薬を作っても送るまでに生きてる保証あるの?」「面白そうだし手伝うわ」etcetc…。
モラルに基づいた意見を言う者、公の利益を尊重する者、心の赴くままに介入する者、場を引っ掻き回したいだけの者など各キャラクターの立ちっぷりがみられるのが楽しいし、何より面白いのはこれらが全会一致の結論で終わることはほぼないこと。人種や生い立ちが違えば思想が違って当たり前という事実に対して真摯さをも感じるし、それでいてストーリーを進めていくと一人一人が自分の意見を言う場面でも相手の価値観を「ああ、こいつはこういうやつだもんな」とある種の線引きをして許容していくようになっていくのが、どういう形であれ関係性が深めていってるのが分かって本当に楽しい!!最終的にプレイヤーの方針は自分で決めますが、これによって仲間から得られる反応(理解にしろ拒絶にしろ)から、さらに人間性が垣間見えてこう、助かる…(?)

ちなみに先のアッシュ妹を助けるイベントは協力を断ることが可能で、その際は急にBGMが止まり全員から視線が注がれる上に一部のキャラから非難されるまさに空気が凍る様を味わえます。シンプルにドキッとするからやめろ。
しかし貧困を経験している者が多いのもあって、開始時にプレイヤーの目的を金稼ぎに設定していると「事情が事情だししょうがないか…」とやや気まずい空気になる(選択肢そのものの文面すら変わる)なんとも芸の細かい一コマも。

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余談ですが、好感度を「最高」まで上げたキャラとは終盤で告白イベントが発生し、同性でも異性でもペアエンディングを迎えることが可能かつ主人公の性別が男女どちらかによって差異が生まれる場合まであるのも魅力。なんというカプ厨に優しくて福利厚生に手厚いゲームなんだ!!

初期好感度はプレイヤーの出身、目的、身分で上下し、(かなり大雑把に言えば)同郷だったり同じ身分だったりすると好感度が上がりやすい傾向にあります。ここに妙なリアリティを感じるというか、右も左もわからない土地に来て、同じ場所を故郷としたり同じ身分で苦楽を共有できる相手がいたらそりゃ良い印象をもつよな…という納得感。しかし、それだけに収まらないのがベアルファレス!

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これは女性を口説くのとリュートをひくのが趣味のオルフェウス。上記のような自己紹介をしますが、彼は逆に出身をバイレステ、身分を貴族にすると好感度が「悪い」からスタートする例外みたいなキャラクター。彼に限ったことではないですが、好きなものや嫌いなものといった情報から人物像を想像したり相手の心に秘めたものを探っていく内に、気付けば過去に触れるイベントを経て助けてオイゲンさん、俺この子のこと好きになっちまう…みたいなこともしばしば。「こいつツンケンしてるけど好感度の上がり方が早いな…」「信心や善性を唾棄してるっぽいけど信仰への解像度が高すぎる人おる…」「サラこんな純真無垢かつ童顔で17歳とかやばすぎでしょ気が狂うわ」みたいなね。

ちなみに僕の1週目はジェシカとのエンドになりました。序盤からなんとなくパーティに入れていたんですが、依頼の報酬を交渉する手際の鮮やかさだったり、割と好き勝手にズケズケ言ったりするものの意外と他人を慮っている優しさや仲間を助ける選択を躊躇しない義理堅さ、快活に周囲を引っ張る様が可愛くて好きになっていってしまいました。
告白イベントもいじらしくて悶絶したし、エンディングでの「世界で一番迷惑な…」が良すぎたし、お前一番女の子してんの…反則。
とにかくジェシカいいよねかわいい…。

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プレイアブルではないものの、新入りを温かく見守る町最強の剣士バルデスや無料で回復してくれる司祭ティアラ、不老不死になったことで貴族から苛烈な拷問をうけ心が壊れたナーダとファトゥムの姉弟など、ネームドキャラそれぞれに出身や町に来た理由が設定されているあたりも細かくて好き。最初は生い立ちを聞いても「自分の話なんて面白くないから」とやんわり断られるけど、終盤になると己の人生の物語を明かしてくれるようになったりとかもいいよね…。

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ティアラは命のひとつひとつに深く献身を捧げる慈愛が美しいのと、悲惨な生い立ちに負けない強さがあること、人々の生き死にを目の当たりにし続けたためか敬虔な信徒でありながら信仰に盲目なだけではないなど、多面的な造形とそこから発せられる台詞のひとつひとつが好きなキャラですね。大聖女ティアラちゃん様を崇めよ。あと攻略させてくれ。



シナリオの構成がめちゃめちゃ素晴らしかったよねって話がしたい


ここからはもうネタバレ多めどころかネタバレしかないパートになります。改めて思い返してみても、世界観の骨子やキャラクターの立ち位置を踏まえたシナリオがほんっっっと~~~に面白かった!!!!







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序盤は「太陽の宝玉」という一人前の冒険者と認められるための証(これがないと町から銀貨一枚もちだすことができない)を手に入れるため紆余曲折がありつつも遺跡を攻略していくことになるんですが、やっとの思いで宝玉を手に入れたかと思ったら「突然目の前に紫の剣が現れる→画面暗転→そこには剣に操られて人々を斬り付ける主人公たちの姿が!→数ヶ月後、意識を失っていた主人公が目を覚ます」と怒涛の勢いでイベントが進行する急転直下の展開!!

ここでシナリオへ一気に目を奪われる。さらに主人公が使った紫の剣は「かすり傷でもこの剣につけられた傷は癒えず徐々に麻痺と激痛が進行し、やがて心臓発作で死ぬ」という特級呪物みたいな説明がなされるのと同時に、意識がなかったとはいえ主人公パーティはこれで恩人を含め多くの冒険者を殺し傷つけたと明かされる始末。俺なにかやっちゃいました?
時を同じくして外からの供給が完全に途絶し、かなりの期間をおいてやっと届いた情報は「これまで遺跡にしかいなかった魔物が世界中に溢れ、多くの国が消え人々が死んだ」という絶望的なニュース。そしてなにより、主人公が目を覚ました日と魔物が出現した日付が一致するという暗示じみた不穏さ…。

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これ上手いな~~~と思ったのが、それまで今年のルーキーくらいな立ち位置だった主人公が、イベントを経て町の半数からは同情され残る半数からは激烈な憎悪を向けられる、町で知らない者はいない中心人物になるんです。人々から向けられる怨恨の一切が逆恨みなどではないからこそ、町や酒場に行く際に否応なく生まれる緊張感や遺跡探索へ駆り立てる使命感などの感情が刺激され続けていく。
更には町での出来事がトリガーとなり外界へ甚大な影響を及ぼすことで、辺境の遺跡が世界を巻き込む異変の爆心地へと意味合いを変え、話のスケールが外へ外へと急速に拡大する展開。壁新聞で逐一知らされる各国の情勢が、これまでギリギリのところで保たれていた世界から悪意が爆発し坂を転げ落ちるように「終末」へ向かっていく絶望は、綿密に組み上げられた世界観の設定によって町から一歩も出ていないにも関わらず圧倒的な臨場感をもって胸に伝わります。
もうプレイヤーは一介の冒険者ではなく、この遺跡から、そして世界から逃げることの許されない「物語の中心たる主人公」へと押し上げられるこの変遷がたまらない…!


また、プレイヤーが負う決断の重みも加速度的に増していきます。これまでも「~~を助けるのを手伝うか」「人探しをするか・その際に報酬をもらうか」など、新人冒険者たちは直面する問題に対して議論しプレイヤーは何かを選び取っていきました。
それが中盤以降は「仲間の命と数十万もの顔も知らない人々の命どちらをとるか?」「使命に殉じようとする仲間を説得するか、殺すか?」など、何かを選ぶことは何かを切り捨てることに他ならないと認識させるかのように、よりプレイヤーにとって痛みを伴う選択を迫られていくのがストーリーをより鮮やかに彩ります。

もちろんここでもキャラクター達は各々の信念に基づいて話し合いを深めていくし、仮に冷酷な選択をしたとしても「でも、それだって間違いではないんじゃないか」と声を上げる者がいる辺りも価値観の相違という序盤からのテーマが生き続けるのを思わせてよい…。


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遺跡の謎が明かされていく終盤の展開も素晴らしい。聖書の内容と符合する内部構造、図ったかのように重なる世界の地獄絵図と黙示録の描写、神話や絵本に至るまで様々な書物の怪物と一致した姿の魔物…。

これらの情報から「遺跡は人類の欲望や恐怖などの集合無意識によって形成されたもの」と仮定し、そこから「人類の無意識から生まれるなら…99%の人々から信仰されているアイノア教の教義である『物質世界と精神世界が融合して、やがて人類は一つになる』が現実になる…ってコト!??」と導きだされるスケールのブチ上げ方!!!
そして聖書の一節一節を紐解いて反撃の手立てを模索したり、逆に裏をかかれたり…と激化していく人類vs神話の構図!今までは悪魔じみた造形の魔物と戦っていたのが、終盤になると「人類史に連綿と根を張り続けた信仰」によって強化された天使が敵として現れるロマン!!

いやこれよくないですか!?これまで姿がみえなかった敵が1万年という時の遥か彼方から画策し、5千年前から「信仰」を人々に伝播させ支配していった果てしなさにクラクラしてしまう。なによりフレーバーテキスト程度の意味合いしかなかったアイノア教や聖書に連なるものの全てが「倒すべき黒幕の陰謀」であり「攻略の糸口」に転じていき、世界という盤面で死力を尽くしていくことでやがてこの世界の真の姿を知るストーリー。
遺跡が世界の中心になったことで横に広がった世界が、さらに上下へと深く高く拡張されていく見事さは本当に一つの町しかフィールドのない作品とは思えないほどの充実感なんですよ…!!

フィールドが一つの町だからこそ育まれる文脈もあるのがまた粋なところ。中盤からは主人公がほかの冒険者からヘイトを向けられますが、傷つきながらも遺跡の探索や戦闘を誰より率先した終盤になると周囲からの見る目が変化して、やがて「お前たちが世界の希望だ!」とエールを送られるのも一種の爽快感があったなぁ。


黒幕がもたらそうとする「人々が一つに~」という理想はまぁ王道、ともすれば手垢のついたベタに感じがちなんですが、これまでキャラクター達の価値観が統一されてなかったことが敵の思想そのものの対比となる構造が上手かったから盛り上がりが削がれることはなかったですね。そして、それらの概念が最も反映されたステージ「第6層 精神の海」がもう好きで好きで…。

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センスが迸りすぎてるマップ画面

最も絆を深めたパートナーと二人きりでしか入れないダンジョンなのですが、仲間には懐かしい街並みが見えているのにプレイヤーからは不気味に蠢く紫の壁が見えており、「どれだけ愛しあっていても同じ世界を共有できはしない」と突き付けられているようにも錯覚します。
さらに「精神の虚像」という形でキャラの深層心理が実体化して「お前は本当の俺を知ってるつもりか?」と揺さぶりをかけてくるなど、ステージ名にふさわしい展開で心が躍…らないよ!

ちなみに最深部のイベントはもうこれどうしたらいいの!!???とコントローラーを持つ手が震え、石のように固い息を呑む最高の緊張感を覚えました。あの選択肢!!「お前の〇〇〇〇〇〇〇」じゃないんだよなぁ!??いやでもよかったでしょあれと言われたらまぁはい…としか言い返せない業の深さというか…。

他人の全てを理解できない恐怖や不信感をちらつかることで全てが溶け合った世界の素晴らしさを説く敵に対し、主人公と仲間たちが突き返したのが序盤からずっと描かれ続けていた光景である「価値観が違って当たり前」という回答なのが最高~~~~~!!となる。
生まれや育ちを違える者たちの意見は常に全員で一致することはなく、幾度となく互いの信念をぶつけ合ってきました。だからこそ、最善の道なんてなくても最良を目指していこうと歩み寄り、ある時は拒絶しまたある時は許容し、その過程で相手の人格や心情に触れることで互いに想いを深めてきた。
他者の気持ちや想いを理解なんて出来ないからこそ理解したいと真剣に考え、そしてそれが通じるから楽しいんだ。自分と他人が違うから面白いんだと啖呵を飛ばすクライマックスは、人々の集合無意識で作られた遺跡の物語の終着点としてはこれ以上のものはなかったなぁ…。


エンディングの質感も非常に良かった。「諸悪の根源を倒したからって生きとし生ける人間が変わったわけじゃねぇんだから世界が良くなるわけねーだろ!!」と嘲笑うように、大国が崩壊し力あるものが民草を虐げ、人々が拠り所としていた信仰が空虚に堕ちた神無き世界が語られるモノローグ。
しかしそんな地獄を主人公とパートナーは力強く生きている。ある者は人々に慈愛を与え、またある者は穏やかな陽だまりをもたらし、中には思うがままに面白おかしく生きることで人々の希望となっていった人生もあった。
神が描いた物語は終わり、人々が仮初の平和から脱して自らの善性によって世界をつくっていく幼年期の終わり。神話から連なる世界はここからまた始まっていくのだと、「ベアルファレス」という作品のエピローグでありながら人類史における新しいプロローグを描くエンディングは心が温かく満たされていくようで、このゲームをやってよかったなぁ…と思わせるのに十分でした。





終わりに

超ドハマりした作品なのもあって気が付いたら文字数がかつてないほどに膨れ上がってしまいましたが、これだけ好きなところを語っても語りつくせないのがベアルファレスの恐ろしいところ。正直wikiを参照してもイベントが追いきれなくて、これ台詞のコンプとか無理なのでは…?とか錯覚しちゃいますね。好感度を最大にした状態でパーティに入れず特定のキャラと一緒に話しかけるとかいう特殊会話の発生条件なに!?

プレイ時間は、初回は書物をじっくり読んだりストーリーが進行するごとに会話しまくったり、あとアクションに慣れるまで時間がかかったため20時間くらいでしたが、慣れれば6〜7時間でクリア出来るのも手頃で良いですね。キャラメイクの貴族は冒頭で割とデメリットを強調したものの使用武器の二刀流が最強クラスに強いのでこれを選ぶとサクサク進めるかもです。仲間との好感度を上げるイベントは多いからそこまで相性に執心しなくても狙ったキャラとのエンディングは迎えられますしね(一部を除く)。この世界に触れるプレイヤーがどんどん増えていって、いつかどこかのメーカーに版権を買い取ってもらってあわよくばsteam配信やリマスター、リメイクなんて…みたいな祈りがじわじわと鎌首をもたげてしまうぜ。


というかZealsoftはティアラと添い遂げるエンドを用意してくれ!!!!!!


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