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【最果てを目指す】さぁ、最果てをはじめましょう

ソクラテスが「ロボットになって少女を守りながら世界を旅してぇ~~!」と言ったことで死刑を言い渡されてから2500年が経ちました。嘘です。でもそういうシチュエーションから発せられるロマンは過去から現代に渡って他では代替できないものがあります。そうですよね?

そんなわけで、TLに流れてきた情報に惹かれてフリーゲーム「最果てを目指す」をDLしたんですが、このゲームとにかくシステムや世界観、テキストの一つ一つから上記の性癖への突き詰め方とその融合の完成度が常軌を逸してるんですよ!大体3時間くらいでクリアできるよなんて聞いたから気軽に始めたものの気が付けばどっぷりとハマってしまい、なんならプレイしてから15分くらいで「これ良すぎる…」「俺はこの作品に会いたかったんだ」「ツキ(ヒロインの名前)…最高だ…」と呻きながら少女を守る不審ロボットと化してしまいました。
と、いうわけで今更ながらプレイしたわけで、感想をつらつら書いていきたいと思います。


「最果てを目指す」とは

(ダウンロードはこちら→https://freegame-mugen.jp/cms/mt-cp.fcgi?__mode=view&blog_id=1&id=6206)

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・あらすじ
 あなたはツキという少女に生み出されたロボットです。
 彼女は最果てという場所に辿り着くため、あなたの存在を求めました。
 どうか助力し、その望みを共に果たしてください。
(Readmeより引用)

世界の最果てに焦がれる少女「ツキ」によって作られたロボットとして彼女を守りながら世界を旅していく、ジャンルはノンフィールドRPGです。冒険が始まってからは「進行」ボタンをクリックしていくことで進み、一定の進行度に応じて戦闘やイベントが発生。ボスを倒しそのエリアをクリアすることで次のエリアを選択可能となります。

初見だと覚えることが多い…と感じて身構えてしまいますが、チュートリアルが親切だしやっていく内に体で覚えられるスタイルなので小難しい第一印象とは裏腹にシンプルなシステムといった印象に変わっていきました。


「意思」の力

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まず語りたいのは「意思」の要素です。このゲームはステージ毎に敵の攻撃傾向が異なり、「速さが低いが火力が高い」「攻撃が必中・防御無視」など癖のある属性をもってプレイヤーに立ちはだかります。レベルアップによってステータスを振り分けることで対策は可能なものの、それでも一手、二手足りず機体を破壊されることもしばしば。

しかし、少女を守るロボットには、たとえ力及ばず地に伏しても「意思」の力がある!!

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画面左上にあるハートが意思の残量です。プレイヤーの体力が0になると「機体損害」の表示と共に機械の駆動音が響くのですが、ここで表示を連打すると……

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「再起動」の表示とともに復活する!!!鋼の肉体を支え、その魂を燃え上がらせるのは最果てを渇望する意思なのだとゲームシステムとシナリオがリンクするかのような演出のロマン!!この再起動シークエンスにクリック連打というプレイヤー側のアクションを挟む秀逸さですよ…!
ゲームを紹介されたときに要素は薄っすらと聞いてはいたものの、実際に体験するとまた違った熱量を感じさせました。この再起動後にひび割れるSEとともにハートが欠損するのもため息が出るほどアツい…
意思自体はイベントなどで割と多めに補充できるので積極的に使用できるのもありがたいですね。


溢れ出るテキストのセンス

プレイして目を奪われたのは様々な説明テキストです。
このゲームは探索によってアイテムを入手し、それをツキが加工する「クラフト」によって荷物の所持数を増やしたり戦闘の補助アイテムなど道具を作り出すことが重要となります。
それゆえに積載容量などとにらめっこしながらアイテムを取捨選択していくのですが、例えば石や木材など素材一つとっても説明文が凝ってる!

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なんだこの説明文のセンス!??再度言いますがただの素材アイテムに対してもこのセンス。アイテム探索はワンクリックで済む作業で、素材の破棄なんかも同様に一瞬で終わります。にも関わらずここまで細部にわたって作り込まれていることで、新しいステージでアイテムを探すだけの作業に「もっと色々な文章を読みたい!」と興味がわき、さながら最果てを目指すツキに呼応するが如く世界への没入感が否応なく高まります。

また、素材と同様にツキが作ったアイテムにもテキストが付きますが、こちらはさらに制作や使用した背景などが語られます。

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ゲーム内でも様々な会話によってツキの人となりや旅路の様子はいかんなく語られるものの、こうしたアイテム一つ一つに対してもその幕間を覗き込むことができます。それらがプレイヤーとツキが歩く旅の軌跡を、更にはっきりとした輪郭を伴って脳裏に像を結ぶ。語られることのない旅路の余白を満たすのです。必要以上に多くの情報を語らずとも二人の旅を描きつつその先の展開を期待させるような作りが本当にセンスいいんですよね…。


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ちなみに旅の中で「心装」という攻撃や防御を変化させるプレイヤーの装備的なものも登場しますが、こちらはイベントを経由して入手し、二人の間に芽生えた感情が力になったような展開になっているのも面白い。
最初の内は理不尽にも思える敵の強さによって簡単にゲームオーバーにされるものの心装は引き継げるため、己の知識を加えて前の周回で道半ばに倒れたステージを踏破する喜びは無上のものがありました。聞いてるか!雪山とか火山!お前らのことだぞ!!(保護外套を叩きつける)


ツキという少女

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このゲームはシナリオやシステム上ツキを守って旅をすることに作品としての重点が置かれていますが、これってかなり繊細なバランスが求められることだと思うんですよ。
作中でツキ自身も言っていることですが、「守る者と守られる者」では前者に大きなアドバンテージがあります。力ある側が庇護するという状況は、どう取り繕っても相手の命をその手の平に乗せる宿痾から逃れることはできない。いわば守られる側に「守ってあげたくなる」なにか―残酷な表現をすればメリットがないと破綻どころか成立すらできない関係性なんですよね。

その点において、この作品はまずツキを魅力的に描くことにまず成功しています。ゲーム内で進行度やステージ、所持アイテムに応じてツキの台詞が表示されるのですが、草原や廃墟といった初めて見る世界を全身で味わい、時に不安を零しながらも希望を抱く姿がとにかく可愛らしい。

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そして、随所で挿入されるイベント会話でそのキャラクター性はさらに補完されます。素直で明るくも時にちゃっかりしている可愛げや、慣れぬ旅路で傷ついたり血を流しても「最果て」を諦めることなく前を見続ける精神性。時に自身の肉体を損壊させる選択に強いられても二人の安全のために冷徹な判断を下せるなど、単に「守られるだけ」ではなく共に旅をする相棒としての存在感は常に薄れることがない。

また、戦闘をするのはプレイヤーですが、「少女の祈り」などのアイテムを使用することで一時的に強力なバフがかかるのもツキの夢や願いを乗せて戦っているという文脈をより強固にしてるのがまたニクい。プレイヤーだけが戦うのではなく、二人で戦っているからこそ強敵とも立ち向かえることをこれでもかと強調するからこそ、プレイヤー側からも自然とツキを守る意志が芽生えるというのが上手い。そう、いつしかこちらの採算を度外視してツキを守り、共に旅をしたいと思わせる思いがごく自然かつ押しつけがましくないほどに少しずつ蓄積されていくんです。

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私がツキのキャラクター性で好きなのはもちろん前述の輝かしいまでの最果てへの渇望などが挙げられますが、最も心に刺さったのは己のエゴに自覚的な点です。
そもそもこの旅はツキの意思で始めたものでありながら、そこの生きるための必要性はなかったりします。故郷となる場所では栄養価の高い缶詰が豊富にあり、外敵からの安全も確保されています。それゆえに、ツキの欲望は誰かを傷つけることに他ならない。素材を採取するために自然を切り倒し、食事のために動物を殺し、なにより戦闘の矢面に立つプレイヤーはツキの盾になって傷を負い多くの命を殺めていく。
それらが孕む罪科に対してツキはどこまでも真正面から相対しており、その一面が垣間見えるイベントの一幕があります。朽ちた船を発見し、探索することにした二人の会話です。

ツキ「それじゃあ張り切って空き巣しましょー」
言い方、言い方!
ツキ「…誰も使ってなくても、空き巣、略奪。
生きるための殺戮も、結局は殺しに過ぎないよ」
確かにそうだが、敢えて直視する理由はないはずだ。
ツキ「無視する理由も、今の私達にはないよ」
不意に、今まで辿ってきた足跡を思い出す。
…そうかもしれない。もう、すっかり慣れてしまった。

イベント後で入手するのはありふれた食材の缶詰ですが、だからこそツキが旅路で得たものやそれ以上に奪ってきた多くのものへの責任と、それを全て背負ってもなお最果てを諦める気はないという力強さを感じて好きな会話です。
またあるイベントでは「襲ってくるから、飢えたくないから、敵を倒…殺す」とわざわざ「殺す」と言い直す場面があり、この辺りもまたどこか彼女の清廉さと、己の辿った全てから目を背けないとでも言うかのようなほんの少しの不器用さを漂わせてまた違った味わいを感じさせます。

こうしたツキの魅力が最大限に発揮され、そして旅路を鮮やかに彩るテキストが過酷な旅へ背を押していく、ゲーム性を尽くして世界に没入させる仕組みは本当に目を見張るものがあります。


過酷すぎる最果てへの道


それでこのゲームの難易度なんですが、これがま~~~~難しい!!基本的にはリソース管理ゲーとなるものの、これが辿るルートによっては本当にきついんですよ…。
画面には様々なステータスが表示されていますが、とりわけ重要なのは「EP」「満腹度」「生命力」の三つです。

「EP」…プレイヤー(ロボ)の体力。戦闘や探索で減少し休息やステージ進行で回復
「満腹度」…ツキの空腹の度合い。ステージ進行や休息で減少し食べ物の摂取で回復
「生命力」…ツキの生命力。高温や極寒など悪路の進行で減少し休息で回復

ほとんどのステージで、ロボの体力であるEPは自然に回復します。敵の攻撃で削れることはあっても休息と併用することで割と余裕をもって進むことが出来るんですが、重要なのは休息するとツキの満腹度が大きく減少する点です。食料が潤沢にあるならいいものの、そうでなければこの判断一つとっても命取りになります。
更に食料や素材を見つける「探索」コマンドは逆にEPを消費する上、(ある程度割合を偏らせることは出来るものの)食料と素材のどちらが出るかはランダム。さらには敵から逃げると満腹度が一定の値を消費するため、状況によっては敵から逃げることもままならない。

このあたりの選択が後半になるにつれて厳しくなる上に、アイテムも容量・重量の値を超過してはならないので、今の時点でなにを捨てるか?も重要となります。この先で別の素材を入手すればアイテムが作れるが今この食料を捨てるわけにはいかない、逆も然り…といった場面に何度も直面し、そのたびに葛藤が訪れる容赦のなさ。

そして、なによりこれが旅の緊張感を大いに高めてくれました。例えば生命力を回復させる「万能薬」は石と野菜の合成で作れますが、この石が重量、容量ともに大きいからかさばると真っ先に捨ててしまうという罠!捨てるほど持っていたはずの石が、ツキの生命を繋ぎ止めるために万能薬を作ろうと思った時にいくら探しても道具欄に見当たらなかった時は思わず馬鹿!!と過去の自分を罵ること必至です。


食料が尽き、探索をしようにもEPが足りない。もちろんツキにも休息するだけの余裕はない。そんな状況で出会った敵が「肉」を落とす可能性が高い獣だった時の、縋るような気持ちで攻撃ボタンにカーソルを合わせた瞬間に喉がヒリつくように痙攣する緊張感。
EPが豊富にあり、どうあっても敵に負けないくらいの強さを持っているのに、どれだけ探索しても食料も回復アイテムの素材も入手できないことからただただ弱っていくツキを眺めることしかできなかった時の、脳から血液が抜けていくほどの無力感。
これらの絶望的な感情は筆舌に尽くしがたいものがあり、それゆえにその状況を打開した瞬間の歓喜や、逆になにも出来ずツキを死なせてしまった際に己に感じる失望感は凄まじい。初めてゲームオーバーになったときなんかは俺を信頼し命と運命の全てを委ねてくれた少女一人守れずになにがロボットだよーーーーーッ!!!!と大暴れしてしまいました。

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みんな大好き「幸せな幻に囚われる」シチュもあるぞ!!
僕は[ずっと一緒にいよう]を選んだ時の反応が一番好きです。


「少女を守って旅をする」ことはあまりに過酷であり、時に諦めかけてしまうこともありました。しかし、ツキとのイベントや会話において彼女は決して視線を最果てから逸らさず、たとえ生命力がなくなりかけても前を目指し続ける。その姿が萎えかけた自分の意思に火を点け、私も折れることなく足を前へ前へと進ませた。
命を守っていた少女から心を救われたのだと気づいた瞬間。あれがツキと自分が「相棒」となった時だったのかもしれません。この旅は二人だったから始まり、そして二人だったからこそ続けていくことが出来たのだと心で実感した瞬間でした。


どんな果てしない旅であっても、目的地がある以上はいつか終着を迎える。このゲームのラストバトルは、このゲームを名作として表するのに十分すぎると言っていいほどのものでした。
アイテムや心装がこれまでの旅で得たものならばステータスだってこれまでの旅で培った軌跡であり、それらと意思の全て動員するあの展開はまさしくこのゲームにおける総決算を飾るに相応しいものだったでしょう。
素晴らしい。本当に素晴らしい旅だった……!


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初クリア時のデータです。なんでかんで2週目でクリアできました。エリア1はオーパーツの素材欲しさに森林を選んでますが、ステージ選択は左を選んでいけば比較的安全にクリアできるような気がしますね。
個人的に辛かったのは雪山かなぁ…。食料(野菜)と石が探索で入手しやすいから生命力の回復もしやすいはずなんだけど、気付いたらEPも満腹度も不足して立ち往生しかける場面が何度もあって割とトラウマに(サンタイベントがなかったら詰んでた)。逆に砂漠や深海あたりは装備が整ってるとあっさりとクリアできる印象がありますね。

えっ、アイテムやスキルを揃えても敵が強い?ステルスLv3にして逃げるんだよォォォ──────ッ

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