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【ユグドラ・ユニオン感想】金髪王女は覇王の夢を見るか?

Twitterでもゲームの感想などは呟いているのですが、たまにはテーマを絞りつつ長文を書きたいなぁ、ということで改めてnoteのアカウントを取るなどしてみました。
さて、タイトルにもした「ユグドラ・ユニオン」についてです。
その昔「Riviera ~約束の地リヴィエラ~」をプレイしていたのもあってユグドラの存在も知ってはいたのですが長年プレイする機会に恵まれず、2020年にswitchへ移植された際も買ってからほかのゲームとともにズルズルと積むこと賽の河原のごとしといった感じではあったのですがつい最近クリアしまして。

とりあえず、いやぁこれやりやがったな!!と。ストーリーがハード路線というのはおぼろげに聞いていたのですが、可愛らしい絵柄に反して戦記ものかくやといった硬派なストーリーにどんどん夢中になってしまいました。


プレイ中は、陣形を組み替えて大勢が手を取り敵と戦う「ユニオン」のシステムが面白いとか、各キャラ毎に設定された戦闘BGMをはじめとして曲がめちゃめちゃ良いとか、装備したアイテムが外せない上にステージ進行で消滅するとかリヴィエラの不満点をより強化しやがってみたいなことについてザックリ書こうとも思ってたのですが、エンディングに到達してそれらが全部吹き飛んでしまいましたね。

(※ストーリーに関するネタバレが含まれますのでご注意ください)


「ユグドラ・ユニオン」について

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きゆづきさとこ先生のイラストがめちゃめちゃ可愛い。みんな天使。


本作の主人公であるユグドラは「ファンタジニア王国」の王女として日々を過ごしていたが、焔帝ガルカーサ率いる「新生ブロンキア帝国」により国土の大部分を侵略され、やがて城が陥落するとともに父王も落命。ユグドラは王家に伝わる聖剣「グラン・センチュリオ」だけを手に逃げ延び、逃亡先で出会った者たちとともに祖国奪還を目指していく…というのがあらすじとなります。

そう、祖国奪還ものなんですよ!!個人的にFEは「紋章の謎」が好きだからこれはもう燃える。もうひとりの主人公であり盗賊団の頭目「ミラノ」や王国騎士団の生き残り「デュラン」をはじめとした仲間たちが運命に導かれるように集結し、小さな反抗の火種がやがて大陸を巻き込み帝国に牙をむく業火となっていくスケールは戦記物の醍醐味とも言えますし、そこに至るまでの盛り上がりも素晴らしいものです。


なのですがこのゲーム、とにかくユグドラに突きつけられる現実がハード。
序盤、僅かな希望を胸にウンディーネが治める同盟国に助けを求めるのですが、既に帝国の策略により反人間の機運が高まっており「汚ねえ人類は滅びろ!」と言わんばかりに武器を向けられます。

次に向かった領ではこれまた帝国の策略により二つの貴族同士が内乱を繰り広げており、お互いが所持する超兵器により領土が荒らされる危険性に直面。説得を試みるも貴族たちは止まらず、最終的にどちらかをプレイヤーが選んで葬ることに
このゲーム、ほかのSRPGの例に漏れずフィールド上の村や都市を訪問することで住民と会話したりアイテムをもらえたりするのですが、上記イベントの際に打ち倒すほうの領にある村を訪問すると「ほかに方法が無いの。ごめんなさい……」と謝罪する会話が(それも全キャラクター差分あり)発生します。

しかも肝心な超兵器は帝国に奪われ、まるでユグドラの無力を嘲笑うかのようにその後も山賊や賞金稼ぎに命を狙われ続けます。力による支配と謀略がはびこる世界において、ユグドラが立つ現実はあまりにも非情です。

そんな危機を幾度も乗り越え、時には拉致されるといった憂き目にあうも中盤でようやくユグドラは祖国を奪還。そして占い師から「聖剣の真の力を解放するためには正式に王位を継承する必要がある」とのお告げを聞き、聖地にて戴冠の儀を執り行います。
解放された聖剣の力、その名は「ジハード」。運命に翻弄された少女はもうそこにおらず、そこには聖剣の意志を体現し正義を振るう王であり聖女が君臨する。このイベントを契機にユグドラ自身も強化され、聖戦の名を冠する力が指し示すかのように更なる戦いに赴いていきます。


正直、ここまでのストーリーはかなり王道であり、並み居る帝国の武将に対して時に正面からぶつかり合い、時にかく乱して徐々に反撃のチャンスをうかがっていくジャイアントキリング的な痛快さが心地よく、前述のハードな展開は逆に快進撃のカタルシスに華を添えていたとすら言えるでしょう。背負った命の重みに報いるかのように、悲劇に打ちひしがれることなく「正義は聖剣のもとにあり!」と自らを鼓舞するユグドラの姿はまさしく高潔で美しい素敵なものでした。
ですが「ここまでが導入ですよ」と言わんばかりに、物語は新たな牙をむいていくわけで…


侵略戦争、もといユグドラ曇らせ編

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祖国を奪還し帝国を追い出したユグドラは、後顧の憂いを絶つがごとく帝国への遠征に踏み出します。かつての帝国がしたような侵略戦争に対して苦言を呈する仲間もいるにはいるのですが、聖剣の正義と民への責任を果たすためにユグドラ武力を行使していく……。まぁこの辺は帝国がしてきた所業が所業のため、なぁなぁにするのも違うよなとも思ってはいるのですが、王位を継いだとはいえ少女がするには重い決意に背筋が震える思いでした。

そしてこのゲーム、ここから序盤の展開とはまた違った「嫌な」重さが発揮されていくんですよね。
城塞都市を攻略する際、都市の上流に位置する水門を破壊して鉄砲水を起こす作戦を敢行するのですが、城壁を破壊して町に乗り込むと市民たちが犠牲になった様をまざまざと見せつけられます。

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戴冠してティアラを付けたユグドラが可愛い(現実逃避)

かつては強大な帝国にわずかな戦力で戦っていたユグドラもとい王国軍ですが、今となっては帝国に比肩する武力を以て領土や民を蹂躙しているということを突きつけられる嫌すぎる展開。祖国解放の際は村を訪問すると「王女様が来てくれた!」「仲間の仇を頼みます!」と激励されていたのが、ことここに至っては「王国軍が来たぞ!」「殺される!!」と石もて忌み嫌われる反転の構図が生み出すエグさ。

更に決定的なのは40面「バルドーの丘」。ここでは王国軍に対抗するため民が結成した義勇軍と戦うのですが、敵ユニットが驚くべきほど弱い。前の面の敵がレベル14~15(このゲームの最大レベルは20)だったのがこの面では7~10程度しかなく、さらに敵が密集していることから適当に突っ込んでも勝ててしまう。
訓練されてない民兵が手当たり次第に突っ込んできて、しかもそれを殺さざるをえないという、SRPGにおいて「簡単なステージ」がここまで嫌なことはあったか?と天を仰がずにはいられないほどに戦争の質感が悲惨。テキストだけでなくゲームシステムまで使ってこちらの鳩尾を殴りかかってくるのが性格悪すぎる……。

このステージにも帝国の武将が乱入する展開があるから一概に楽なだけではないですが、「もう許さない!」と激昂する敵に対して「こっちも帝国に攻められた恨みがあるんだ!」と返すことしかできない戦闘前の会話も、血で血を洗う戦争の凄惨さを加速させて胃もたれどころか消化器系が機能不全を起こしかねないレベル。

余談ですが、終盤である都市に訪問すると「要塞の鉄砲水で両親を失い」「義勇兵に志願した婚約者を殺された」女性から罵倒されるイベントがあります。なんぼなんでもそこまでする?????


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それでも、ユグドラは仲間に一切の弱音を吐かず、心の内に流血と軋みをかかえるかのように前へ進んでいきます。これがとにかく痛々しくて見ていられない。このシリアスさはそもそもゲーム中にキャラ同士の日常会話がほぼないことにも起因するのですが、それにしたって、こう、さぁ…


少し話題がそれますが、「ユグドラ・ユニオン」における王の在り方は主人公であるユグドラと宿敵ガルカーサの専用タクティクスカード(必殺技の発動やそのターンの移動歩数を決定する戦略のようなもの)から紐解くことが出来るようにも思います。

ユグドラの専用カード「ジハード」は「自分以外のユニットが全員倒れた時に発動し、敵のリーダーを消滅させる(実質的な勝利)」。
一方でガルカーサの「ジェノサイド」は「自分以外のユニットを消滅させ、ステータスを超強化する」効果をもっています。

このゲームはユニット同士が陣形を組むことで大軍や強敵に立ち向かっていくという戦闘システムになっているのに、二人の王が立つ地平には敵どころか味方の姿もありません。

聖戦と虐殺。どちらも戦争における一側面を表したカードであり、それぞれ突出した能力を持ちながら発動後は戦場にただ一人佇むキャラの姿が描かれる様は、勝利の喜びも敗北の痛みも敵味方すべての生死すらを背負って立つ孤高な王の苦しみを訴えかけるようでした。

多くの屍を越え、時に仲間の死に直面したユグドラは、ついに宿敵ガルカーサと相対し「争いのない世界」を作ることを誓います。そして――



バトル・オン・ザ・レクイエム


※以下はストーリー最終盤、エンディングのネタバレが含まれます。









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終盤で明かされる聖剣・グランセンチュリオの正体。それは神界から堕天し封印された天使が、己の戒めを解くべく下界に降ろした神造兵器。そして人の怨念を吸うことで強化するその聖剣を鍛えるため、堕天使は地上に戦乱を引き起こしていたことが語られます。今までユグドラが信じてきた聖剣の正義は、上位存在によって仕組まれただけのものだったというえげつなさ。(多分この辺はリヴィエラをやっておくと楽しめるかな、とも)


最終的にそれも倒したユグドラの前に天使が現れ、二つの選択肢を明示します。聖剣を封印するか、神々に反旗を翻すか――


聖剣を封印すればそのままエンディング。力ではなく叡智を以て世界をすべたユグドラの姿が語られ物語は幕を閉じますが、そもそもこれまでの戦争はお前ら神々が原因じゃねえかと憤るプレイヤーに道を手向けるがごとく天使を攻撃すると戦闘開始。このユグドラが最も好きなことは自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ…。

天が授け、人の恨みを吸い、そして聖女であり王となったユグドラが振るう聖剣が放つ「ジハード」を以て天使との戦いは終結。しかし、散り際に「これは神界に対する挑戦…あなたは神に刃を向けるというのですね」と不穏な言葉を残されます。
これまでユグドラ、ひいてはプレイヤーに選択肢を提示してきたミラノの「これでよかったのか?」という困惑の言葉に対し、ユグドラは迷いなく答えます。



ユグドラ「聖剣の下にこそ正義はある…
聖剣が導き出した結果こそが正義であり、そして法となる
それが聖剣が存在するこの世界の理
たとえ、神々といえどもその理からは逃れられないわ
そもそも、私たちの世界が乱れたのは神々が原因…
地上に害をなすものを打ち倒すのが聖剣の役目だとすれば…
それを生み出す元凶も断ち切る必要があります
相手が何者であろうと…
行きましょう。聖剣の導きに従って
私たちの世界に害を成すものを排除するために…」



俺は何を見せられているんだ!?!??!?

物語の結末は俺が決めるとでも言うかのように、神に挑むユグドラとミラノの背中が映されてエンディング。聖剣を封印する方では他の仲間も「これから忙しくなりそうですね!」「魔法の勉強をしなおさなくっちゃ!」と和気藹々な雰囲気の仲間たちもこっちのルートでは「………」と終始無言。表情差分がなくともドン引きしてるのがありありと伝わりますね。


優しい心を持ち、そして誰よりも戦争の痛みを孤独に抱え続けてきたユグドラが、争いを止めるためにガルカーサのように地上を統べるのではなく、真の意味で「世界を背負う王」になった瞬間。このラストをもって物語は「世界に真の平和をもたらすべく全てに抗うことを決意した覇王」の前日譚と姿を変えて終わる。

一見ちゃぶ台返しともとれる結末ですが、あの世界そのものに喧嘩を売るかのような雄姿はある種のカリスマすら感じさせ、思わずやりやがったな~~!!!と唸ることしきり。

エンディングが尻切れトンボだったり因縁が消化不良といった批判も確かにわかりますが、このエッジが効きすぎて触るものみな傷つける尖り切ったラストのカタルシスはどこか晴れやかな心持ちすら感じさせて、いや~~めちゃめちゃ好きになってしまいました。まぁ批判点も的外れではないですし、個人的には穏当なルートではその後のユグドラたち一人一人の行く末が語られるとかがあれば受ける印象もまた違ったのかもなぁ…と思いますが。

実際このゲームは結構不親切な点が多くて、いきなり敵ターンから始まり殴られるのを耐える面がいくつかあったり、戦闘開始前の画面で敵の種類が分からなかったりユニットの位置入れ替えが出来ないなどSRPGとしては看過しきれない点も散見されるのですが、それを差し引いてもなお奥深い戦略要素やシナリオで魅せられてしまいました。諸手を挙げて賞賛はできずとも、独自の味わいが駄菓子屋のスルメのごとく染みわたる良いゲームでしたね。


それにしても久しぶりにSRPGやって、疲れた半面やっぱり楽しかったですね。次は何のゲームしようかな………



えっ!?ユグドラ・ユニオンの前日譚があるんですか!!???




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