少子化対策の切り札は新型コロナ?

なかなか切り札が見つからない少子化対策

厚生労働省は6月5日、2019年の人口動態統計を発表しました。1人の女性が生涯にわたって産む子供の数を示す合計特殊出生率は1.36です。

合計特殊出生率が最低を記録したのは2005年の1.26で、それ以降は徐々に上昇を続けていましたが、2015年に1.45に達した後は年々低下しています。

出生数は2016年に100万人の大台を割り込みましたが、その後も出生数は減少を続け、昨年(2019年)の出生数は90万人台をあっさり下回り、86万人になってしまいました。

当noteでは、これまでにも少子化対策についてあれこれ考えてきました。

少子化対策は自己肯定感の高さ

「便利すぎる時代」に加速する少子化

少子化対策として自己肯定感を高める理由としては、
・自己肯定感を高めることによって恋愛しやすい状態をつくる 
→結婚しやすい状態をつくる
→少子化につなげる
という考え方です。

また、便利すぎるほど少子化が加速してしまう、ということも考えました。

その理由は
・便利な社会であるほど恋愛や子育てがリスクに感じてしまう
→恋愛や子育てから遠ざかる人が増えてしまう
→少子化の加速

もちろん、恋愛を経て結婚し、子供を作りたいと考えている人も十分にいることでしょう。しかし、一昔前のようにほとんど全ての人が結婚して子供を育てる時代ではなくなってしまいました。

少子化対策の方法を考えても、抜本的な方法が見つからず堂々めぐりの状況でした。少なくとも昨年(2019年)までは。

今年(2020年)は新型コロナウイルスの感染拡大によって、昨年とは社会の状況が一変してしまいましたが、少し見方を変えると、少子化対策の切り札は「新型コロナウイルス」ではないかと思うのです。

不安だからこそ恋人が欲しい、結婚したい

少子化対策と新型コロナウイルスとの関連性を見た場合、注目すべきポイントは、多くの人たちが不安な気持ちに包まれてしまうことです。

不安な気持ちに包まれるほど少子化対策につながる理由は「不安な時代こそ二人で乗り切りたい」という気持ちになりやすいからです。

「新型コロナウイルスに感染するかもしれない」という不安を抱えていたり、「ステイホームで家の中ばかりにいると不満がたまりすぎてイライラする」と感じたりする人も多いことでしょう。

人間は、不安な気持ちに包まれるほど人恋しいと感じるものです。

つまり、人恋しいと感じる時ほど恋人が欲しい、結婚したいと思うようになるものです。そこで、結婚した数を示す「婚姻数」はデータで見てみましょう。

データで見る婚姻数

婚姻数をグラフでチェック

データを見ると、今年に入ってからの婚姻数は昨年(2019年)と比べると増加しています。

以下の画像は、厚生労働省 人口動態統計速報(令和2年3月分)から引用したものです。

以下のグラフには、出生数、死亡数、婚姻件数、離婚件数が載っています。

婚姻件数のグラフは赤枠で囲みましたが、2月だけ急激に上昇しており、2月単月で7万件を突破しています。

婚姻数グラフ2

日本で新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは1月16日のことですが、その後は世界中に感染が徐々に広まり、日本では2月に入るとクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」の船内で感染が拡大します。

そして、2月13日には日本で初めて新型コロナウイルスの死者が発生し、さらに、2月27日には全国の小中高を3月2日より臨時休校にするという発表がありました。

このように、2月は新型コロナウイルスによる不安が一気に拡大した時期といえますが、それとリンクするかのように婚姻件数が一気に増加しています。

なお、3月に入ると婚姻件数は減少に転じましたが、2月に急増した分の反動が生じたこと、そして3月以降は外出自粛ムードが広がってきたことが要因ではないかと考えています。

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婚姻数を数値でチェック

以下の表は、厚生労働省 人口動態統計速報(令和2年3月分)から引用したものです。

以下の表には、出生数、死亡数、自然増減数、死産数、婚姻数、離婚数が載っています。

青線の部分には2019年3月と2020年3月の婚姻数が載っていますが、2020年3月の婚姻数は昨年3月と比べると約1万件減っています。

また、赤枠の中は2020年1月から3月までの累計が載っていますが、婚姻数を見ると昨年よりも約1万3000件増加していることが分かります。

さらに、オレンジの線の部分には令和元年度(2019年4月~2020年3月)の婚姻数が載っていますが、前年と比べると4万件以上増加しており、年間の婚姻数は62万9000件となっています。

昨年度の婚姻数が増加したのは、2019年5月に元号が令和に変わったときに「令和婚」をした人が増えたこと、そして、今年の2月に婚姻件数が前年同月を大きく上回って7万件に達したことが要因と考えられます。

婚姻数 赤線2

上記のグラフと表の引用:
厚生労働省 人口動態統計速報(令和2年3月分)結果の概要

今後の婚姻数は増加と予測

婚姻数を数値で見ることができるのは今年(2020年)の3月までとなっています(2020年6月時点)。

それでは、今後の婚姻数はどうなるのか、ということを予測してみますが、以下のツイートが参考になりました。

新型コロナウイルスに関連する緊急事態宣言は5月25日に解除されましたが、それを機に外出する人も徐々に増えている傾向です。

高級の宝飾品を販売している「銀座カルティエ」の前には、カップルと思われる人たちが行列を成している様子がうかがえます。

社会的に不安な空気に包まれるときほど、一人で生きるよりも二人で生きていきたい、という気持ちが強まるのは自然の流れといえるのではないでしょうか。

2020年4月以降の婚姻数は、2020年6月の段階ではまだ発表されていませんが、この雰囲気だと婚姻数は昨年を上回るのではないかと私は予想しています。

命の危機に直面すると子供を産みたい気持ちが強まる

ここで疑問に思うのは「婚姻数が増えれば出生数は増えるの?」という点ではないでしょうか。

結婚して子供を授かる夫婦がある一方で、「子育ては負担だし、子供は特に欲しくない」と考える夫婦もいれば、「子供はそんなに多くなくてもいい」と考える夫婦もいることでしょう。

実際、婚姻数が増えても出生数が増えなければ少子化は改善しません。

しかし、ある条件が整うと「子供が欲しい」という気持ちが強まるのです。それは「命の危機に直面したとき」です。

厚生労働省の「人口動態統計」を参照すると、日本の合計特殊出生率のデータは1947年(昭和22年)以降のものを調べられますが、合計特殊出生率が最も高かったのは1947年の4.54です。

1947年は終戦を迎えた1945年からみると2年後にあたりますが、戦争という命の危険を乗り越えてきた人たちは、戦争が終わった安堵感とともに、命の大切さを身にしみて感じたからこそ「次の世代に命を託したい」という気持ちが強かったのでしょう。

もう一つ、命の危険にさらされた出来事といえば、2011年に発生した東日本大震災があります。

合計特殊出生率は年々下がっている印象がありますが、2010年代前半はむしろ合計特殊出生率が上昇傾向にあったのです。

以下に、日本における2010年から2015年までの合計特殊出生率を示します。

2010年:1.39
2011年:1.39
2012年:1.41
2013年:1.43
2014年:1.42
2015年:1.45
(引用:厚生労働省 人口動態統計)

また、立教大学社会学部 社会調査グループは2017年3月「生活と防災についての社会意識調査 報告書」を作成しました。

同報告書の中には「大規模災害が出生世代女性の意識に及ぼす影響についての素描」という内容があり、福島市における2010年から2015年までの合計特殊出生率のデータが掲載されています。

東日本大震災が発生した際、福島市では震度6弱の揺れに見舞われ、その後も震度5弱~5強の余震が連続しておきました。

以下、福島市における出生率に関するデータの引用です。

2010年:1.37
2011年:1.32
2012年:1.27
2013年:1.48
2014年:1.50
2015年:1.54
(引用:立教大学社会学部 社会調査グループ 生活と防災についての社会意識調査 報告書
大規模災害が出生世代女性の意識に及ぼす影響についての素描)

東日本大震災の翌年は、前年である2011年に震災が発生したために福島市の出生率は低下していますが、2013年以降は出生率が急激に伸び、2015年になると福島市の出生率は1.54となります。

上記のデータより、命の危機に直面したときほど、出生率は回復することが分かります。

まとめ

命の危機に直面するほど出生率が高くなることが分かりましたが、逆の見方をすれば、平和な時代ほど出生率は低くなるといえそうです。

平和な時代はさまざまな娯楽が充実していることもあり、苦労してまで子育てする必要はない、と考える人が増えるのもある意味自然な流れといえます。

しかし、今年(2020年)に新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、昨年までとは社会の流れが一変しました。

日本における新型コロナウイルスの死者数は、NHKの調べによると6月9日の時点で920人となっています。

現状、新型コロナウイルスによって命の危機にさらされている人の数はさほど多くない状況ですが、新型コロナウイルスがもたらした不安感は非常に大きかったといえるでしょう。

これからの時代は、一人で生きていくよりも、二人で生きていくことの方が安心感があります。そして、不安の真っ只中を生きているときほど、命を次の世代に託すことの重要性が徐々に理解できるようになってくるはずです。

そのような観点からみると、今後は婚姻数が増えることが予想でき、そして出生数も少しずつではあるけれど改善の方向へ向かっていくのではないかと考えます。

少なくとも、今後は出生数の減少は抑えられるのではないかと予想します。

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