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童話習作『ひとつぶの雪』

 外は雨が降っています。窓を少しだけ開けてみると、北風のびゅーびゅーという音も聞こえました。
 たかし君は窓を閉めると、玄関に走っていって、表に飛び出していきました。ママはびっくり。あわててジャンパーを持って、あとを追いかけます。
 ママが外に出てみると、たかし君は手の平をおわんの形にして、あちら、こちらと走りながら、雨を受けとめていました。
「カゼひくでしょ」と、ママはたかし君にジャンパーをはおると、家の中につれて入りました。
 ぬれた頭をタオルでふいてもらいながら、たかし君は自分の手の平を広げて、ママに言いました。
「雨、冷たかったよ」
「当たり前でしょ。何であんなことをしたの」
「寒いのに、どうして雪にならないのかなぁ?」
「雪の降るところは、もっともっと寒いのよ」
「そうか。だからおじいちゃんは、こんなにぶ厚い服を着てるんだね」と、たかし君は昨日届いたおじいちゃんからの絵ハガキを見つめました。
 写真のおじいちゃんは毛糸のセーターの上に、たくさんの綿が入ったジャケットを着て、毛糸の帽子を耳の上まで隠れるようにかぶっています。家の屋根も、庭も、庭の木にもたくさんの雪が積もって、まっ白です。
 去年の冬、たかし君がおじいちゃんの家に行った時も、たくさん雪が積もっていました。そのたくさんの雪で、たかし君はおじいちゃんと雪遊びをしました。雪玉を作って投げたり、南天の赤い実と緑の葉っぱを使って雪うさぎを作ったり、冷たくなった手に息を吹きかけて温めながら遊んだのです。たかし君もおじいちゃんも楽しくて、たくさん笑いました。
「ママ。写真のおじいちゃん、雪だるま、作ってるのかな?」
「どうして?」
「だってスコップ持ってるもの」
「これはね、雪かきをしてるのよ。おうちの前みたいによく通る所の雪を別の場所にのけるの」
「雪かきって楽しい? ぼくにもできるかな?」
「まだ無理ね。雪は重いから。ママも昔手伝ったけど、大変よ」
「でもおじいちゃん、笑ってるよ。雪遊びした時とおんなじ顔だよ」
「そうねぇ……」とママはしばらく考えて、電話をかけました。
「あ、お父さん、たかしがちょっと聞きたいことがあるんだって。今、代わるね」
 大変な雪かきをしながら、どうして笑ってるの?
 話が終わり、電話を切ったたかし君は、また表に飛び出しました。
 雨は雪に変わっていました。雪と言っても水の多い、べっとりした溶けかけのかき氷のようなものです。
「ママ! ママ! 早く写真撮って」
 たかし君は走り回りながら雪の粒を手で受けています。手の平にのった雪はすぐに融けて水になります。
「ぼくが受けたらすぐ撮ってね。融けてしまうんだ」
 何度か挑戦して撮った写真の手の平には、確かに一粒の雪がありました。たかし君もとても嬉しそうに笑っています。
「絵ハガキ作ってね、ママ」
 おじいちゃんが雪かきしながら笑顔を浮かべていたのは、寒くても元気で頑張っているよっていう、たかし君へのメッセージだったのです。だからたかし君も顔いっぱいの笑顔で、
「ぼくも元気だよ」と、おじいちゃんに伝えたいのです。
                              〈了〉

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