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童話

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自作童話ですが、習作です。上手くなるためには書くしかなく、投稿生活を乗り切るための土台となる作品を集めました。未熟なものもありますが、ご一読いただければ嬉しいです。
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#童話作家を目指す日々

童話『春の音楽会』最終話

三、春の音楽会  春になりました。暖かい太陽の光は、町も、山も、野原もきらきらと輝かせました。春風が、野原の草をそよそよと揺らしながら通ります。  野原のまん中を通る一本道の傍で、白いきれいな花が咲きました。春風は花の周りをくるくると回りました。  旅人が 楽団に入ってから 一か月が経っています。その間、風は野原にいました。花のつぼみが開くのを待っていたのです。 「花さん、きれいだねぇ。ぼく、うっとりしたよ」 「北風さんも、すっかり暖かくなったわね」 「うん。だからぼく、も

童話『春の音楽会』第二話

二、旅の音楽会 「旅人さんが来たかった町は、ここかい?」  小さな町なので、北風は少しがっかりしていました。たくさんの人に音楽を聞いてほしくても、広場に人がいないのです。歩いている人はみんな、ぶ厚いコートの襟を立てて、足早に通り過ぎていきます。 「旅人さん、別の町に行った方がいいと思うな。ぼく、どこか人の多い町があるか探してくるよ」  北風は空に浮かび上がると、ぴゅうっと飛んでいきました。  旅人は、北風が飛んでいった空を見上げながら、ほほえんでいました。旅人は町から町へと

童話『春の音楽会』第一話

作品について 2022年『小川未明文学賞』短編部門に応募した作品です。原稿用紙20~30枚の規定です。全部で6600文字ほどになりますので、三回に分けて公開しようと思います。短編部門は小学校低学年が対象のため、応募原稿では小学二年までの漢字のみを使い、ひらがな表記の文節間に空白を入れる、分かち書きをしていましたが、公開にあたり表記を改めています。 では、本編です。 一、夜の音楽会  暗い夜空の下で、一人の旅人がたき火をしていました。  朝からずっと歩いてきましたが、町につ

童話『風の岬の小さな灯台』後編

 森が静かに眠りについた時、ろうそくが言いました。 「さっきはありがとう。でも、なぜ一緒にお願いしてくれたの?」 「自分でも分からないけど、よかったね」  山風は本当は分かっていたのです。ろうそくの火があんまりきれいだから、ずっと見ていたかったのです。 「そうだ。ちょっと待ってて」  山風は森を抜け、野原の花畑の上を通り過ぎて戻ってきました。 「なんだかいいにおいがする」 「うん。花のにおいを集めてきたんだ」 「じゃあ、お礼にいいものを見せてあげる」  山風はろうそくに近づい

童話『風の岬の小さな灯台』前編

作品について 2022年『日産 童話と絵本のグランプリ』童話の部に応募した作品です。400字詰め原稿用紙5~10枚の規定のところ、10枚フルに使いました。一度に公開すると長いですから、前後編に分けます。よろしくお願いします。  海に面した岬に灯台がありました。昔はこの灯台の光が船の目印になったのですが、別の場所に新しい灯台ができてから、光が灯ることはなくなりました。今ではもう古くなり、ひっそりと立っています。  人間は知らないことですが、灯台の場所が変わってから困ったことが

童話『おたまじゃくしの歌』

『第34回新美南吉童話賞』に応募した作品です。 少し長いので目次つけました。 前半  水の張られた田んぼに雨が降ってきました。おたまじゃくしのおたまは、落ちてきた雨粒がたくさんの丸を描くのを、水の中から見上げています。  ざざー。雨が強くなってきました。するとカエルが次々に歌い始めます。 歌は田んぼ中に広がり、夜空高く、遠くまで響きます。おたまも水から顏を出して、大きく息を吸い込みました。尻尾はまだあるけれど、足は四本生えてきました。水から出て外で暮らす日も近いようです。

童話習作『こん太と赤いバラ』前編

 森に春が来ました。木々も草も緑です。晴れた空をゆるやかに風が通り抜けます。きつねのこん太は巣穴から出てきて、大きくのびをしました。 「ああ、春の匂いだなぁ」  鳥たちの歌が聞こえます。こん太は散歩することにしました。気持ちがいいので、巣穴でじっとなんかしていられません。  冬の間は遠くまで出かけることはなかったので、森に来てまだ日の浅いこん太は奥の方まで探検しようと思いました。 「へぇ、こんな素敵な場所があったんだ」  木々の間を抜けてパッと視界が広がり、まぶしい太陽の光が

童話習作『こん太のクリスマス』

 キツネのこん太は、巣穴から顏を出しました。 「うわぁ、たくさん降ったんだな。どうりで寒かったはずだよ」  森の木も、地面もまっ白な雪に覆われています。森に来て初めての冬です。  白い雪の上を、まっ黒な動物が歩いてきます。きょろきょろと何かを探しているようです。 「あっ、くま太くんだ。おーい」  こん太は巣穴から出て走っていきました。 「やぁ、こん太くん。どうかしたの?」 「雪がたくさん積もってるから、一緒に遊ぼうと思って」 「もうすぐ冬眠するから、たくさん食べておかないとい