散文1

目線の子

こうしたらいいよ、と知っていた。
少しだけ長くこの世界にいるから。だから相手のことを必要に導いていきたいと思っている。
折り紙の折り方を知っているように。
ここでの過ごしかたを知っている。

あなたは私がなにを気にしてるか、ようく知っているでしょ。
朝ごはんはパンとマーガリンであった。マーガリンのビニールをカリカリといじっている。

イライラしているなと思った。

彼女のルーティンは毎日正しく繰り返されていて、
そこには間違いがあってはならないという確固たる気持ちがあった。

大きく、悲しく、そして愛されているのだ。
その中のルーティンが崩れている。現在進行形で。
それは今日がわたしにとってイレギュラーなうごきがあるからだ。

今日は昇級の試験がある。彼女以外の目の前でそれを披露する必要があったから。
ルーティンは崩れていくのだ。
気持ちがないし、出来ないこともあるし、世界がなにかもないわからない。
けれど、閉じた世界が開いていくのだ。

どうしてきもちがわからないの
どうしてしんじてくれないの
どうしてあきらめるの
そうやって、あなたの世界が開くことで、できなくなると
どうしてしんじてくれなかったの。
その絶望を知っている。
その絶望を持っているからこそ
、連絡が出来ずにいたのだ。
彼女の願いは、閉じた場所でいること。
それがあたり前の世界にいたのだ。

わたし自身もまたそれが、彼女にとって良いことだろうと
沢山沢山思っていたのだ。
だからこそ、
今日のことが、とても大きなことのように思えた。

タカオがいうの。相手のことが分からないときは聞きなさいと。
うん。
いたいことがないんだ。わたしにとって。
理想も、理解も。
全部全部が壊れてく気がする。
でも、当たり前なの。それが。
と、彼女は感情のない顔でそういった。
何度も夢を見て、何度もみたいと願って、それでも叶えられずにいたの。
わたしはこの家で生まれて、ここで死ぬのだわ。
ねえ、そうでしょう。
わたしはそう言われていることが、わかった。
わたしは彼女になにをいえることもなく、
パンを食べる彼女のその指を眺めていた。

片付けをしながら、その話をすれば、
強さだよそれは。
とタカオさんがいう。
彼女にとってとても信用のある1人なのだ。
優しく、知見にも溢れているそんな人。
彼女の受け入れた世界は、自分でどうにかできるものは、この家の中だけにするという、1つの覚悟なのだと思うよ。
それで生きていくことができている、ということは、ひとつの強さだね。
どうしたらいいかなっておもった。
そうだね。
かのじょを連れ出したいよ。っておもったの。
だって
それは、あなたのことをいつか離れていく人とおもわれていたことがかなしかったからでしょう。
タカオさんは容赦がない。
自分の心を見透かされてとても恥ずかしく思った。
大嫌いだって言われたら、そうれはしかたないよ。でもそうじゃないでしょう。
じぶんが、しかたない、しょうがないひとって思われてることが悲しかっただけでしょう。
ああ、そうだ。それはとても長くはいれないとおもったのだ。
どうしたいかは、あなた次第だけど、違う道に行くことを、あなたは望んでいるのなら、それは自然なことだよ。
ポンと頭を撫でられて、笑ってもらえたことが、とてもうれしく思った。

世界は開くもの。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?