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Loki 'n' Roll

 寿司はいろいろと食べ歩いた。
 小樽、築地、金沢、アナハイム、ニューヨーク。どれも忘れ難い思い出だ。
 しかし地元ニューポートの寿司屋、松原ほどの店はこの地球上に存在しない。特にメキシコ風の揚げ寿司は絶品だ。考えた奴はモールスやベルよりクリエイティブであり、特許を取るべき発明である。他方日本ではアロエ寿司に特許があるようだが、革新に疎く伝統を重んじる国ならではの保守的な特許である。

 さておき、今日はロキと共に松原へ来た。ヒューマノイドロボットのロキは実にいい男だ。筋骨隆々で見目麗しい。する必要が全くないのにダンベル上げをする姿は圧巻で神々しさすら感じさせる。リース料だけで寂しい懐を食い散らかすが、老後の一人暮らしを彩り豊かなものにする相棒であり、宝物である。

 ロキの日頃の労に報いるべく寿司屋へ来たのだが、どうにも解せない。私が普段30分は掛けて味わう寿司をロキはわずか数秒で平らげた。侘び寂びのなさを注意せねばと思った矢先、入り口の引き戸がドンと開いた。

 「全員動くな、移民局だ。不法滞在で逮捕する。家に帰る時間だ」

 最悪だ。この店なら来ないと踏んでいたのにこのザマだ。ふらっと不法滞在を始めてはや36年。待ち受けるのは過酷な労働と強制帰国。しかしまあ、あれだ。ロキと最後にこうやって過ごせて幸せな人生だったのかもしれない。須臾の間に想いを巡らせていると、ロキが白い歯を見せてニカッと笑った。

 「大丈夫です。任せてください」

 そう呟くとロキは全身から白いスモークを大量に噴き出し、何も見えなくなった。悲鳴と怒声の中、目の前でガチャガチャと金属音が鳴る。そしてスモークが薄れ姿を現す。

 そこには、寿司、いやこれは金属製のスマートなT-Rex。右腕に金属Sushi Rollの盾、左手に散弾銃、弾倉はやはり金属Sushi Rollだ。しかも背中が大きく開いている。

 躊躇することなく私は寿司T-Rexの中に入った。


《続く》