あなたの隣に
*これは一歩 前後編の後日談となっております。まだ読まれていなくても問題ありませんが、読んでいない方は先にそちらをお読みになるとより理解が深まると思われます
「え?新しいブレスレット?」
彼がキョトンとした顔で俺を見ている
「そう。説明したけど、君が本来付けてたサンストーンのブレスレットはあいつに壊されちゃっただろ?どうせなら新しいブレスレットを買いたいと思ってな」
それに勝手に俺が借りたせいで壊れたという責任もある。今、彼の左腕には俺が前まで付けていたサファイアのブレスレットが付けられている。あの入院していた日から彼は大切に付けてくれていた
「まあずっと二人でお揃いだったもんね。うん、新しいの買いに行こっか。デートだね!」
彼が笑顔で立ち上がった。なんだかルンルンとしているように見える
「はは、そうだな。なんだ?嬉しそうだな」
「もちろん!久しぶりだからね!そういう君だって凄く嬉しそう。ニコニコしてるもん」
バレていたか、まあ隠す気など更々無いがな。なんせ、二人で一緒に何かをするのは色々重なって年明け以降初めてだからだ。そりゃあ浮かれもするだろう。はやる気持ちを抑えながら服を着替え始めた
ここは近くの商店街にある大きなショッピングモール。その中にこのサファイアのブレスレットとサンストーンのブレスレットを買ったお店がある
ここには彼の友人に連れられて、彼の誕生日プレゼントを買いにやってきた事がある。その際にパワーストーンや誕生石の事を聞いたのだ
「ここだ、君の友人と来た店はな。パワーストーンとかに詳しい君なら知ってたんじゃないか?」
前にここに来た際にも思った事を尋ねてみた
「へ〜、こんなお店があったんだ。僕は知らなかったよ」
「知らなかったんかーい」
「うん。僕は別にそこまで詳しい訳じゃないよ?友人が詳しいから少し知ってるだけ。ほら、僕頭悪いから」
「頭悪いからはちょっとわかんないけどまあいいや、なんか探してみようぜ」
「うん!どれも綺麗でいいね〜」
彼は少しウキウキした様子で、目を輝かせながら店内に入っていった。俺も石言葉とやらは知らないからなんとなくで選んでしまおうか
俺も彼に続いて店内に飾られているブレスレットを眺め始めた
しばらくして、いくつか彼と共にいろんなブレスレットを見てみたがどれもしっくりこないと思って別の店に行こうかとも考えていた時
「お?」
店の隅に飾られている黄色い石のついたブレスレットを見つけた。透明な黄色の石が照明に照らされてとても綺麗だった
「これ、中々いいな。なんてやつなんだろ」
「お客さん、このブレスレットに興味が出たのかい?」
彼に見せようと思っていると、しばらくウロチョロしていたのを見ていた店員が話しかけてきた
「あ、はい。これ、なんて石なんですか?」
「これはシトリンという宝石だね。透明感のある黄色い石で、これを付けていると金運や仕事運がアップするよ」
「へ〜。あ、石言葉ってのがあるんですよね?そちらの意味とかはご存知だったりしますか?」
「おお、お客さんかなり細かい事知ってるね。でもごめんね、流石にそこまではわからないかな。よかったら調べてみるといい」
「わかりました、ありがとうございます」
とりあえず彼に見せてみよう。まあきっと似合うと言ってくれそうだが
「お〜!いいね、これ。シトリンって言うんだ〜」
「なんか気になったんだよな。俺、これにしてみようかな」
「いいと思うよ!僕とまたお揃いだね!」
「ん、まあそう言うと思ってた。それじゃあ買ってくる」
「はーい!」
帰り道、早速俺の右腕にはシトリンのブレスレットが付けられている。ずっとブレスレットを付けていたせいか、無くなった時には違和感があったがこれで戻ってきた
話題は引越しの事についてだ。あいつにあの家の住所を知られている以上、釈放となった後またトラブルになっても困る。そのため、今いる場所から引っ越そうという話になっていた
「今度はどこにしようか〜。頑張ってお金貯められれば一軒家とかでもいいんだろうけどね」
「それは流石に難しそうだ。またいいマンションを探そうぜ」
「うん!僕は君と一緒に過ごせるならどんな所でもいいからね!」
彼のその発言に俺の心にあった僅かな不安が顔を出した。不意に足を止めて下を向いた俺を見て、彼も足を止めて振り向いた
「.....君が、こうしてまた俺の隣にいてくれる事は本当に幸せだ。だが.....君はそれで本当に大丈夫か?俺はまた...いや、何度も君を傷付けるかもしれない。それでもいいのか?」
あの時、彼の幸せを作らせてくれと言っておいて今更何をと思うが、どうしても確認しておきたかったのだ
「いいよ」
「!?なんで....」
まるで悩む様子もなくサラリと彼は答えた
「確かに君の言う通り、この先君と歩く道は幸せよりも傷付く事やつらい事の方が多いかもしれない。でも、それでもいいよ。
僕は君の隣にいたいから。たとえ傷付いても僕のいる場所はここ」
そう言って彼は俺の手を取った。この前と同じ優しい彼の体温が、想いが伝わってくる。あの日繋げなかった手は、今後こそ振り払われずにキュッと握り返された
「何度でも戻ってくるよ。心配しないで、君を一人にさせないから」
ああ、彼はなんて逞しい。俺が彼を包んで守ってあげたいと思うように、彼も俺を包んで守ろうとしてくれている。そんな愛しき彼を愛する事の出来る幸せ。もう二度とあんな間違いをしてなるものか。深く心に刻み込んだ
「ありがとう。もう傷付ける事はしたくないけど、もし傷付けたらまたゆっくり話し合おう。二人で一緒にさ」
「うん!きっと分かり合えるよ、僕と君なら!何度でも!」
「変な事質問して悪かった。君の覚悟に俺も見習わないとな。ずっと大好きだぞ」
「うん!僕もずっとずっと大好き!」
二人で優しく笑い合いながら道を歩く。これが当たり前だと思っていた幸せを再び味わえる奇跡と出会いの巡りに感謝を込めて
俺達の歩く道の先に光あらん事を
シトリンの石言葉→愛する喜び
サファイアの石言葉→固く結ばれた絆
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