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夕日の想い出

*このお話は夕日の約束と一緒になっております。共に読む事で理解が深まりますのでそちらも是非お読みください



「また!俺達会えるかな!」

「」

指切りげんまんをした小学生のあの日、それが誰だったのかは俺はもう覚えていない


はずだった




世界が橙色に染まる時間。どこかノスタルジックな風景の中、俺と彼は一緒に散歩をしながら買い物から帰る途中だった

近道と思い、小さな道に入り坂道を登ろうとすると彼が突然声を出した

「あ」

「どした?」

彼は道の真ん中でキョロキョロと見渡している。何かあったのだろうか

「….ここ、前に来た事ある。僕が小さい頃」

なんだって

「ここに?でも君、ここには引っ越してきたはずじゃあなかったか?それもわざわざこんな特に何もない道に」

「なんでだったんだっけ。確か、ここら辺で僕が迷子になったんだよ」

彼はうんうんと唸り始めたが、俺の中ではそう言われてある出来事を思い起こしていた。小学生の頃、俺もここである迷子の男の子と出会っていたからだ。確かあの時も、こんな綺麗な茜色の世界だった



友達と遊び疲れて一人で家に帰る途中、俺の前に見た事ない俺と同い年くらいか、それより小さいくらいの男の子が困ったような泣きそうな顔でキョロキョロと周りを見渡しながら歩いているのを見つけた

「(迷子か?見た事ない子だしな)」

声をかけようとその男の子を追いかける

「ねえ、君」

「」

俺の声に男の子が振り返る。幼い顔に既に少し泣いたのだろうか、赤くなった目元と鼻水が垂れそうになっていた

「」

「迷子になったの?」

知らない人と話すのに慣れてないのか、オドオドした様子だったため、ゆっくり近づいて背中に手を当てて優しく話す。そうすると男の子は少し落ち着いてきた

「」

「川の所….か。ここからどうやって行けるかな」

「」

「….大丈夫。俺と一緒に探そう」

そう言って俺は少し強引に男の子の手を取り、男の子の前を歩き始めた

それ以降男の子は黙って俺に付いてきてくれた。静かな空間だったが、それでも後ろを振り返ると男の子と目が合って少し優しく笑う顔が可愛いと思った。男の子と繋いだ手の温もりはとても心地よかった

そうやって歩いていくと、坂道へ到着した。ここを上がれば川が見えるのではないだろうか

「ここの坂道を上がるぞ」

「」

「ああ。この時間なら、俺のお気に入りのいい景色が見られる。特別だぞ」

「」

男の子と一緒に坂道を上がっていく。高くなる度にどんどんと先が見えてくる

「」

大きな夕日が街に落ちていきそうだ。暗くなってきた紫の空と橙色の夕焼けがグラデーションを描いて、世界に新たな彩りを足していく

「いい景色だろ?ここならいろいろ見渡せるし、お気に入りなんだ」

「」

「お、君も好きになってくれたか?よかった」

男の子の顔を見ると、キラキラとした顔で景色を眺めており、小さな目にも夕日が映り込みまた新しい橙色の世界が生み出されている

「」

「…うん。あ!あれの事かな?川の所にある公園って!」

「」

咄嗟に川のある方向を指して話をそらす。それだけ男の子の目を見つめてしまいそうになったからだ

「」

男の子は安心したのか走って俺と一緒にそこまで走り出した。そうだった、早くこの子を返してあげないとな


そうして川の方に着くと

「」

男の子はここまでずっと繋いできた手を離して走り去ろうとしていた

「ま、待って!」

「」

俺の呼び止める声に振り向いてくれた。まだどこか名残惜しくて呼びかけてしまった。僅かだったとはいえ、穏やかな時間を過ごせた。どこの誰かわからないが、会えるならまた

「また!会えるよな!」

「」

男の子は嬉しそうに笑って指切りをしてくれた



彼からも同じ内容を聞かされ、しばらく硬直した。こんな奇跡があるのかと感動すら覚えてしまう

あの男の子は君だったんだな

彼は忘れてしまっているようだが、彼の話を聞いて俺はそう確信した

「…..ふ〜ん、相手の言った事覚えてないのか」

「うん、もうずっと前の記憶だからね。顔も名前も声も覚えてない」

「…….その約束、叶ってるといいな」

「うん。どんなのだったか覚えてないし、叶えられてなかったら申し訳ないけど、叶ってると嬉しいな」

遠くを懐かしむような彼にも教えようかと悩んだが、これはそっと俺の秘密だけにしておこう。あの日の俺の気持ちと一緒にして

ぎゅっ

あの日と同じようにして、彼の手を優しく握った。あれから随分とお互い変わって大きくなってもここは変わらない

「ふふ、どうしたの?」

「君のその思い出の男の子との約束はわからないけど、代わりに今の俺と約束しようぜ。

ずっと一緒に幸せに暮らしていくって」

「…..ふふふ、うん。じゃあ約束だね。僕も君と一緒。最期の時までこの手を離さないよ」

あの日と同じ指切りをする。この約束も叶えてみせるんだ、そう静かに誓った


カシャリ

カメラの音が無機質に鳴る

「これで記念がまた増えたね」

もうアルバムに入らないほどの写真もまたこうしてどんどん増えていく

「いいじゃないか。どんどん残していこうぜ、俺達の足跡をな」

撮った写真には夕日を背景に指切りをする俺と彼の手が映っていた



繋いだこの手も幾重の写真に負けない想い出


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