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夕日の約束

*このお話は夕日の想い出と一緒になっております。共に読む事で理解が深まりますのでそちらも是非お読みください



「あ」

「どした?」

二人揃っての休日、穏やかな春の気候の中、散歩しながら買い物をしてきた帰り道。高く昇っていた陽は落ちそうになっており、世界がオレンジに染まっていた

そこで通りかかったある坂道。その道端で僕は唐突に声を出した

「….ここ、前に来た事ある。僕が小さい頃」

周りをキョロキョロと見回してあの日と同じ場所である事を確認する

昔、もうあまり覚えていないけれど、小学生くらいの時。僕は"誰か"と約束をした

「ここに?だって君、ここには引っ越してきたはずじゃあなかったか?それもわざわざこんな特に何もない道に」

「なんでだったんだっけ」

立ち止まってゆっくり思い返してみる。確かあの時も、こんな綺麗な茜色の世界だった



「迷っちゃった….」

僕はこの日、お父さんとお母さんと一緒に遠く離れた場所へ車で買い物にやってきた。休憩で河川敷にある公園の駐車場に止まり、少しそこで遊んでいるといつの間にか公園の外に出てしまっていた

不安になって周りをキョロキョロと見回すが人の姿は見当たらない

「どうしよう…」

「」

「え?」

突然声をかけられて振り返ると、そこには僕と同い歳か少し上くらいの男の子が立っていた。身長は僕より大きく、不思議そうな顔で僕を見ていた

「あの…えっと」

「」

「うん….。えっと、川の所にある公園に行きたくて…お父さんとお母さんが待ってる」

「」

「君もわかんないの?どうしよう…」

「」

男の子は僕の手を取って、一緒に探し回ってくれた。少し大きな手が、僕の小さな手を包み込む安心感が不安な僕の心を強くしてくれた

「ありがとう」

男の子は照れたように少し笑うとそのまま歩き始めた。まだ慣れない僕は、あまり話す事もせず黙って男の子と一緒に歩いていた

茜色の中、静かな無口の空間が広がっていると、突然男の子が何かを思いついたように声をかけてきた

「」

「この坂道通るの?」

「」

「いい景色?」

目の前にあった坂道を男の子と一緒に上がっていく。坂道を登っていくと

「わぁ….」

大きな夕日が街に飲み込まれていきそうだ。夕日の光が街に反射してキラキラと世界が輝いている

「」

「お気に入りなんだ。僕もこの景色好き」

「」

男の子の笑った顔が眩しかったのは覚えている。どれだけいい笑顔をしていたかな

「声かけてくれてありがとう」

「」

「あ!本当だ、あっちに川が見える!」

彼が指す方向に川が見えた。川も夕日でオレンジに染まり、宝石が流れているようにキラキラと光っている

「あっちにお父さんとお母さんいるかも!一緒に行こ!」


そうして川の方に着くと

「ここまで連れてきてくれてありがとう」

ここまでずっと繋いできた手を離して、走っていく

「」

「え?」

男の子の呼びかけに振り返る

「」

「うん!約束!」

男の子と指切りをしてそのまま互いに手を振って別れていった



「…..ふ〜ん、相手の言った事覚えてないのか」

「うん、もうずっと前の記憶だからね。顔も名前も声も覚えてない」

「…….その約束、叶ってるといいな」

「うん。どんなのだったか覚えてないし、叶えられてなかったら申し訳ないけど、叶ってると嬉しいな」

あの日と同じ夕日を見て、遠いあの日を想う。あの子は今、どうしているのだろうか。あの日僕を助けてくれた僕のヒーローは


ぎゅっ

彼が僕の手を優しく握った。ふと、僕より大きな彼の手がまるであの男の子のようだと感じた。そう、まるでこんな感じに優しく包み込んでくれた

「ふふ、どうしたの?」

「君のその思い出の男の子との約束はわからないけど、代わりに俺と約束しようぜ。

ずっと一緒に幸せに暮らしていくって」

「…..ふふふ、うん。じゃあ約束だね。僕も君と一緒。最期の時までこの手を離さないよ」

あの日と同じ指切りをする。この約束は忘れない、絶対叶えてみせるんだ


繋いだこの手はどんなに重ねた言葉にも負けない約束


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