飾りに願いを
クリスマスまであと数日。外の街並みもイルミネーションだけでなく、赤や緑、白といった色の旗や装飾が多く見られるようになった
「クーリスマスが今年もやってくる〜♪」
鼻歌を口ずさみながら僕は一人、家でクリスマスツリーの飾り付けをしていた。この時期になると僕達の家でもクリスマスモードになる
いや、僕が勝手にしているが正しい。彼もよく手伝ってくれるが、恐らく彼の性格上僕がやらなければツリーやリースは出さないだろう
「最近仕事が忙しくてちょっと出すのが遅くなったけどなんとかクリスマスには間に合いそうだな、よかった」
リビングの所にツリーを立て、机や床にはオーナメントやリースなどの飾りがたくさん置いてある。今からこれをどんどんツリーや壁にかけていく。僕はこういうのをしているのが結構好きだ
「本当なら彼が帰ってきてからでもよかったんだけど...」
チラリと時計を見ると時間は夜の20時を過ぎている。最近、彼が帰ってくるのが前より遅くなった。電車でも混んでいるのかと思ったが連日ともなると少し不安になる
「いや、彼なら大丈夫。信じなきゃね、よし!飾り付けするぞー!おー!」
僅かに感じた不安な心をかき消すように少し大袈裟に盛り上げていく。いくつも外に広がるツリーの枝にオーナメントやキャンディ、サンタなど様々な飾りを付けていく
「こうやってどんどん緑だけの木がカラフルになっていくのが好きなんだよね〜」
この声に返事してくれる人はいないが僕はよくこうして一人でも話している。無音な空間が少し苦手なため、昔からよくやっていたのだ
ガチャ
玄関を開く音がした。彼が帰ってきた!
「ただいま〜。ごめん、また遅くなった」
「おかえり〜」
玄関に顔を出すと彼のコートや持っている傘には雪がついている
「え、外雪降ってるの?」
「そう、結構降ってきた。傘持っててよかった。これからまた寒くなるから君もしっかり温まらないとだぞ」
「は〜い。あ、見て〜。今年もクリスマスツリー出したよ」
「おお、やっぱり出すのか。クリスマスもうすぐだもんな。待ってて、着替えたら俺も手伝う」
少しして部屋着姿となった彼と共にクリスマスツリーの飾り付けを再開した
「昔、子どもの時やった事あったけどいつの間にかしなくなってたんだよな、こういうの。君といると毎年イベントがある事を気付かされるよ」
「こういうイベント楽しいからね!どんどんやっていかなくちゃ!」
「俺は楽しそうな君を見てるだけでも充分だけどな。まあこの飾り付けは少し楽しいよ。なんか二人だけのクリスマスツリーって感じがする。装飾を飾る場所なんて覚えてないから、きっと毎年事に違うクリスマスツリーになってるんだよな」
彼が楽しそうに微笑みながらそう言った。彼からしたら何気ない一言だろうが、僕からしたらかなり心に響く言葉になった
「確かに...。いいね、そういうの。今年の僕達だけのクリスマスツリーだ。毎年が記念になるね!」
「ははは、クリスマスはもうキリストの記念日なんだけどな」
「じゃあ僕達だけの記念にしちゃえばいいよ。毎年祝おう」
「やれやれ。どうせお祝いして騒ぎたいだけだろ?」
「あ、バレた。だめ?」
「全然。楽しそうだから俺も賛成」
やっぱり。彼はきっと反対しないと思っていた。へへ、と笑顔を見せると彼も同じく僕に笑顔を返してくれる。何気ないこの瞬間、彼と気持ちが一つになった気がして大好きだ
「よし!後はこの電飾とモールを付けて、上にスターを付けたら終わり!」
「途中からだったからわりと速く感じる。もう少し早く帰れればよかったよ」
「まあまあ。手伝ってくれただけ嬉しいから」
電飾とモールをグルグルと囲うように付ける。最後にてっぺんにスターをつける。これがなければクリスマスツリーとは言えないだろう
「また来年もクリスマスを彼と過ごせますようにっと。完成!」
「それ毎年やってるけど願い事する意味あるのか?」
「願掛けみたいなものだから気にしないで」
「口に出さなくてもいいとは思うけどな。まあいいや、後はリースとかステッカーだな」
「うん!えっと、リースは」
言葉を言いかけていた時、足下にあったリースを踏んでしまった
「あ!」
ガタン!
「いだい!」
バサァ!
リースを踏んで思いっきり滑った僕は出来上がったクリスマスツリーに倒れかかりツリーを倒してしまった。せっかく飾り付けたものが殆ど落ちてしまった。スターも外れてしまい、またはめ直さないといけなくなった
「うぅ....せっかく出来たのにー!あ!リースまで!」
踏んづけたせいもあり、丸いリースが折れてちぎれてしまった
「うわぁ、重なるように悪い事起こっちゃったな。とりあえず怪我はないか?」
「うん、ツリーで止まったから怪我はない。でも...」
「まあリースは残念だったけど、ツリーはもう一度作り直せば大丈夫だから。ほら、もう一回やろうぜ。俺も何度だって手伝うからさ」
「ありがとう〜。ごめんね」
彼の手を取り立ち上がる。ちょっと悲しい気持ちになったが彼がいてくれるなら早く終わりそうだ
「大丈夫。まああんな派手な転び方は中々見ないけどな」
「そういうのは言わなくていいの!」
「はは、ごめんごめん。そう怒るなって、ケーキの予約してきたから」
「そうなの!?そんな大事なのはもっと早く言ってよ」
「チョコケーキでいいんだろ?」
「うん!あと」
「「ホールケーキ」」
二人同時に同じ言葉を出した。綺麗に重なって少し面白くなる
「あ、わかってた」
「当たり前だろ。俺はお前の事結構わかってるから」
「ふふふ、助かるよ。ありがとう」
「クリスマス楽しみだな」
「うん!」
間近に迫るクリスマス、今年も楽しく過ごせそうだ。クリスマスツリーの光が、温かな部屋で僕達二人を優しく照らしてくれるだろう
「あ、どうせなら壊れたリースも直そうか。あっちにボンドとかあったはず。探してくる」
「ありがとう、お願いするね」
「おう」
先程荷物を置いたベッドの部屋へと戻る。ふと荷物があった方へと近寄り、俺達の家の前に"落ちていた紙"をもう一度読む
「......ごめんな。あの約束、守れそうにねえわ」
静かな部屋に俺のボソリと呟いた声がやたらと響いたように聞こえた
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