個人的な「君に届け」風早評

最近、Netflixオリジナルドラマにて椎名軽穂先生の「君に届け」が実写化された。

原作の長年のファンであり、また最近完結した外伝的作品である「運命の人」にドはまりしていた私ももちろん視聴したが、個人的にはかなり好印象を覚えた。好きな漫画の実写化とは難しいもので、受け入れられないことの方が多いが、本作は珍しくかなり気に入った実写化作品となった。

しかしレビューなどを見てみると、そこまで評価が高くないことに驚いた。よくよく読んでみると、その多くが2010年の実写映画との比較によるものであった。

結論から述べると、本ドラマを否定的に捉えている人の多くは「実写映画」の視聴者であって、「原作漫画」の読者ではないのではなかろうか

なぜなら、「原作漫画」の実写化という点で見れば、本ドラマの方が忠実に再現されていると感じる部分も多かったからだ。

そしてレビューの中で最も取り沙汰されており、私個人としても最も注目していたのが「風早翔太」の実写化である。

そこで本稿では、「君に届け」のヒーローである「風早翔太」について、自分の考えを書きたいと思う。

まず、「君に届け」のメディアミックスはアニメ(年)、実写映画(2010年)、そして今回の実写ドラマ(2023年)の3作品があるが、それぞれ風早役は声優の浪川大輔さん、俳優の三浦春馬さん、そして鈴鹿央士さんとなっている。

それぞれの風早の印象(個人の感想ですが)は以下の通りである。

- 浪川大輔さん(アニメ版)

経験豊富な浪川さんによる、極めて爽やかな風早。こってこての少女漫画ヒーローを上手く体現されている。爽やか好青年すぎてたまに怖い(私だけ?) 怒ったり焦ったり、比較的表情は豊か。

- 三浦春馬さん(実写映画版)

顔がいい。確かにこんな人クラスにいたらモテるしみんな大好きになるだろう、という存在。でも顔がよすぎて陰キャな私は目が見れない。笑顔がまぶしい。爽やかすぎて何考えているか分からなくてもはや怖い(私だけ?)

- 鈴鹿央士さん(実写ドラマ版)

そこらへんにいそう。でも優しくて明るくてみんながなんとなく好きになる感じがわかる。特に怒ったときの、まっすぐな演技が一番しっくりくる(ご本人のイメージかも)

浪川さんと三浦さんの風早は、突き抜けて爽やかで少女漫画然としていた一方で、鈴鹿さんの風早は「その辺にいそうだな」という印象が大きかった

では原作の風早はどんなキャラクターなのか。

これも私個人の考えだが、風早は大衆のイメージよりもはるかに人間臭く描かれているように思う。

序盤の、爽子ちゃん目線の描写が多い段階では、爽子ちゃんの見る(少々過大評価した)爽やかで分け隔てなく、明るく優しい風早が印象的である。

しかし風早が実は爽子ちゃんに片思いをしていることが明らかになったあたりから、嫉妬していたり、勝手に突っ走って勘違いしたり、ムッツリであったり、どんどん人間味にあふれたキャラクターとなっていく。

特に実家の描写、そして幼い弟と病弱な母の存在、父との確執、野球を諦めたこと、将来について、などが描かれると、風早にも当たり前に過去があり、家族がいて、悩みがあることがわかる。「等身大の男子高生」としての風早が見えてくるのだ。

そして「君の届け」は後半はもはや、他のメインキャラクターの恋愛や、各キャラクター(特に爽子ちゃんとくるみちゃん)の進路、将来への悩みなどがメインテーマとなる。風早と爽子ちゃんの恋愛については、進路が分かれてしまってどうしよう、というのが主軸となり、2人の間の関係性がどうのこうのという話ではなくなっていく。

原作を読了した私の風早の印象は、もはや明るく爽やかで人気者の男の子ではなく、とにかく彼女のことが大好きで、まっすぐで、悩みながらもやりたいことを見つけて、頑張っている男の子である。実際、あやねちゃんやちづちゃんをはじめ、多くの登場キャラクターは風早に幻想を抱いていないような描写が多い。爽やかで良くできた人ではあるが、あくまで等身大の同級生と捉えていると思う。

それを踏まえると、私個人の印象としては、鈴鹿風早はすごくしっくりきたのである。

もちろん、アニメは爽子と風早が付き合いだして初めてデートをするあたり、映画に至ってはまだ付き合ってすらいないところまでしか描いていないなかで、ドラマ版では一応最終巻まで走り抜いたという大きな違いはあるだろう。

それなら例えば映画版の(物語の中での)到達点までで考慮したとしても、私の意見は大きくは変わらないと思われる。

今回の「君に届け」ドラマ版での鈴鹿央士くんを批評する人々は、多くが原作読者ではないのだろうと思う。そして、映画版の三浦春馬さんを好んだ人なのではなかろうか。

確かに三浦春馬さんの風早は爽やかでカッコよくて、クラスの中心!といった説得力があったし、あの映画は稀に見る成功実写化だと思う。

しかし、あくまで原作「君に届け」に対する実写化としてみると、私個人はドラマ版の方がしっくりきた。

思うに、「君に届け」の風早翔太というキャラクターは、三浦春馬さん、そして浪川大輔さんの、その爽やかすぎるとも言える演技によって、大衆の中にてある意味で虚構化されたのではなかろうか。

すなわち、少女漫画の完全無欠のヒーローとしてのイメージが、メディアミックスによって定着していたのではなかろうかと思う。

そしてそんな背景を当然知っていただろうに、極めて原作に忠実に、風早翔太を再構築し演じ切った鈴鹿央士くんは素晴らしいと感じた。

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