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痛みを乗り越えた先にあるもの

自分の書いている小説がやたらと「痛い」と言われて、本人的には何がどう痛いのかさっぱりわからないのだけれど、「まあ、痛いと言われるからには痛いんだろう」と思っていた。
確かに物理的に痛い描写があるお話はある。
受けが殴られたり、蹴られたり、モブにレ●プされたり、あげくに手の指を折られたりとか。
これをフルコンプされたのが『無明の華』(B-PRINCE文庫)の狭山亮。『愛は金なり』(クロスノベルス)の桜井湊もけっこう酷い目に遭っている。
『愛は裏切らない』(リリ文庫/カクテルキスノベルス)の奥村友希もストーカー刺青師に入れ墨入れられたり、監禁されたり……
同人誌に至っては撃たれて輪姦されて拷問されて刺されて死にかけた『哂う月の夜』の大崎誠人という受けがいる。
列挙してみれば確かに痛い。いや、痛すぎるだろう……あかんやろ、自分……

でもそれ以外はそんなに痛い内容はないと思うのだけれども。
『永劫の束縛』(リリ文庫/カクテルキスノベルス)もかなり痛いといわれているが、これは娼館の話だしこんなもんだろうと。
でも、攻めは受けに対して暴力を振るったりしない。快楽責めにはするけど。
やや変態ぎみの変人攻めが多いものの受けに対してはいたって紳士……じゃないのが一人いた。

『HYPER BLACK』(B-PRINCE文庫)の仁科。こいつは受けをレイプしかけて死ぬほど嫌われるという最悪なスタートラインに立った攻めだった。
あ。もうアホが一人いた。
『初恋の棘は甘く』(ルビー文庫)これの玖珂という攻め。こいつは過去に受けをレイプしている。
まだいた……
同人誌『無限荒野』の福島という攻めは出会った直後に受けの手を銃弾で撃ち抜いていた。
ああ、こいつら最低だ……

最低な奴らはさておき。
どれだけそういう描写があろうが基本的にハッピーエンド、死にネタは書かないという信条のもとで物語を書いている。最終的には受けも攻めも彼らなりの幸せの中にいて決して不幸ではない。
生死不明なのがいてもほぼ死んでいない。
たぶん死なないと思う。死なないんじゃないかな……ま、ちょっと覚悟はしておけ。
と、さだまさしさんの『関白宣言』みたいなことを言っても仕方ないけれど、おそらく大丈夫。
とはいえ、ストーリーの性質上、どうしても暴力的な描写があるお話がある。そういうのを全部ひっくるめて『痛い本』『痛い話』と最初にお断りをいれていた。
血の臭いが少しでもすればダメだという読者さんもいるので、注意喚起をしていたのだ。

井上ハルヲ=血なまぐさい話=『痛い本』

こんな図式が出来上がってる気がして、嘘ではないしまあいいかとも思っていたのだけれど、でも、先日そうじゃないよと言われてはたと気づいたのだ。

「痛みを乗り越えた先に愛がある話」

ある方にそう言われて「それだ!」と思った。

それよ、それ! 何で今まで気づかなかったのアタシィィッ!

思わずオネエが炸裂してしまうくらい目鱗ポロリだった。

どれだけ酷い目に遭っても凜として立つ受けとそれを支える攻め。(攻め受け逆でも)
弱っている攻めを慰め叱咤激励して一緒に前に進もうと言う受け。(こちらも攻め受け逆でも)
これを小説で表現したいのだ。

おまえは文章を書くことを生業にしているのになぜその言葉が思いつかないのだ、井上ハルヲよ。
いっぺん味噌汁で顔洗って出直してきやがれ。

森の賢者にそう諭された気分だった。ありがたし森の賢者。
この森の賢者が白髪の髭おじさんだったら最高に嬉しいが、おそらく違うと思う。そうだったら商業BL界に衝撃が走ること間違いない。

そんなわけで『痛い本』『痛い話』はこれにて封印。
今後は『痛みを乗り越えた先に深い愛がある本』(長げぇ)と表現することにした。
「痛越深愛」勝手な造語だがこういうことなのだ。

二人が痛みを乗り越えた向こうには必ず深い愛があるーー。

BLを愛する乙女(乙男)たちに少しでも内容が伝わるといいなぁ。

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