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思い出

ある日の夢の中、わたしは一匹の猫と向き合って立っていた。
猫はモゴモゴと、何かを話そうとしている。
ん?なに?と耳を傾けながら猫に近づくと、猫は人間語を話したくて話せずもどかしい、と言った風に口をモゴモゴしながら辿々しく「ありがとう」と私に言った。

その猫は私が最後を看取った、ミミちゃんだ。
病気になり治療もしたけれど、病魔の威力にはかなわず、壮絶な最期を遂げた。
ミミちゃんが死んだ後、もっとこうすればよかった、もっとああしてあげればよかった、もっと、もっと、と泉の湧き水のように次々と後悔が湧き出して溢れ続ける日々だった。
私は何度も苦しむミミちゃんの夢を見た。
目が覚めると、胸が痛くてたまらなかった。
そんな夢を見る日が続いたあとの「ありがとう」だった。その日を境に、ミミちゃんが苦しむ夢を見る事はなくなった。

夢だから、私が自分で自分を許しただけなのかもしれない。
でもそれでもいい。
辛い思い出よりも楽しい思い出を。
自分で自分を許してあげたり。
それができないと先を生きていけないのだ。

私たちが一緒に過ごしたかわいくて温かな時間は、時と共に形が曖昧になり、フワリとした柔らかいものへと変わる。
時折取り出して優しく撫でてあげよう。
チクリとした痛みを伴いながら

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