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#3 川の流れに

何日か前に新聞を見ていたら、作家で詩人の寮美千子さんという方の記事が目にとまった。外観が赤煉瓦色で、近代的な建築がとても美しい奈良少年刑務所は2017年まで使用されていた。この刑務所で9年にわたり詩作の授業を行った寮さんと、再犯防止の心理教育に携わる中村正教授との対談があるらしい。何故だかこれは行かないと、と直感的に感じて申し込みをした。当日の講座はほぼ満席だった。
寮さんはとても熱い方だった。東京生まれの千葉育ちで2009年から奈良に移り住んでいるそうで、ほんの少し親近感が湧く。
17歳から25歳までの、罪を犯した男性10人ほどが一つの部屋で生まれて初めて、詩の授業を受ける。刑務所内でここだけは、エアコンも完備されており、靴も脱げる安心で安全な場所だ。ここで、まずはアイヌの絵本を二人ペアで前に出て、お父さん役と子供役になって朗読する。頭にはアイヌのバンダナ(寮さんお手製)を巻き、非常に緊張しながら読む。幼稚園、小学校にもきちんと通えなかったり、今まで学校では前に立つ事も、発表で当てられた事もないような少年達。発表が終わると、その場は拍手に包まれる。他の子達が次々と手をあげて感想を述べる。寮さんが初めて彼らに会った時は、目の焦点が合わずどこを見ているのかわからない、チックが激しくて止まらない、顔に表情がなくただ石のように強ばった顔つき、自傷行為が止まらない、そんな彼らだった。そんな彼らが自分達が発表した事を、仲間がただ受け止めてくれる、共感してくれる、何を言っても怒られない、リラックスできる、この場の力によって初めて心の扉が開かれる事になる。ひとりの人として普通に扱ってもらう事で感情を取り戻し、被害者へ犯してしまった罪について償う、というところまで到達する。心が耕されるって生きる事やな。
寮さんは「恩送り」という言葉を口にしていた。私も少し前にこの言葉を知り、なんて良い響きなんだろうと、とても惹かれていた言葉。『誰かから受けた恩を別の人に送る。恩が世の中をぐるぐる回っていく』
中村正教授が話されていた言葉。「川の流れに例えると、良い置き石を置いてあげると良い方向に流れる。置き石がなかったがために、犯罪に走ってしまったりする」 私は良い置き石を置いてあげられているんやろうか。。
刑務所の一人の少年は1行の詩を作った。彼の頭には父から金属バットで殴られた傷跡が残っており、母が生前に父から暴力を受けていたのに止められなかった自責の念や母への思いを心に込めた「雲」という題名の詩。「空が青いから白をえらんだのです」この発表に共感した別の少年は、生い立ちを初めて告白し、その後は自傷行為が止まり、周囲の人生相談に乗ってあげられるまでになったという。
言葉は人を救うことができる。救われると、光の方へ、明るい方へ自分で伸びていく。(寮さんの言葉)
否定せず、受け止める。 簡単なようで難しいけど、大切。 あー、寮さんに会って話が聞けてよかったなぁ、大きな探し物を見つけたような、この思いをたくさんの人に伝えたいようなそんな午後でした。


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