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豚キムチ

【2020/04/22】

短大生になった。

…と言っても例のヤツで入学式もなくなり、登校する事すら出来ていないので、残念ながらまだ何の実感もわかない。学校からの連絡は来るが今日も明日も明後日も、ただただ届くものを読み、SNSで同級生を探してフォローし、家で黙々と課題をやるのみだ。

でも、僕らはまだ良かった方なのかも知れない。とりあえず受験は終わったのだから。可哀想なのは今年高三、中三、小六、最終学年の受験生たちだ。

参加出来るはずだった最後の部活の大会はことごとく中止、受験範囲の授業も進まず、例年ならば前期の成績をもとに決められるはずの指定校推薦枠も、前期の授業そのものがどうなるかわからないので、どうなるのかさっぱり分からない。中でも今年の高校三年生は特にキツい。なぜなら彼らは、今年からなくなったセンター試験の代わりに始まる、全国初の共通テストを受ける学年だからだ。前例のない試験に何の前情報もなく手探りで挑まされようとしている高校生達に、これでもかとばかりダメ押しのように不幸が襲いかかっている。

「コロナは1年は収束しない」と言われている。下手すると、受験そのものがなくなってしまう可能性もある。そうしたら彼らはまたもう一年苦しまなければならない。いったいいつまで受験の事で悩まなければならないのだろう?早く「受験生」から解放してあげたい。いや、仮に受験が普通に終わったとしても卒業旅行すら出来ないかも知れない。むごい。僕の弟も今年高校三年生なのでドンピシャだ。去年から共通テストの民間試験のことでさんざん振り回されてきたのを、僕も遠くから見てきた。上の人の言ってることがコロコロ変わったり、遠くまで英検を受けに行かされたり。今年の高校三年生、いや、もう、あまりにも不憫すぎるのではないか。

それらの事情から、今年をなかったことにして、「全員で今年一年間をやり直す」という案が出ている。良いなと思った。それなら部活の引退試合も、修学旅行も、卒業式も入学式もやり直せるのでは…

でも、そうなるとまた別の問題が出てくる。それは私達一人暮らしの学生や、親に頼れない学生たちの学費と生活費だ。仮に今年をもう一度やり直せて、国が学費を出してくれたとしても(そんなことをしてくれる事も無さそうだけど)もう一年、無収入で一人暮らしが出来る余裕はとてもじゃないが僕にはない。卒業が延びるという事は、すなわち家賃、光熱費、食費、交通費…もう一年ぶん、余分に生活費がかかると言うことだから…

⭐⭐⭐

既に自粛でバイトがなく学費が払えなくなり、バタバタと奨学金の増額を申し込んでいる学生が大勢いる。僕も予定していた仕事がなくなってしまったので慌てて奨学金の申し込みをしてきた。しかし忘れてはならない。奨学金と言えば聞こえは良いが、これも単なる一時しのぎの借金だ。多額の奨学金を借りて卒業しても、それを返すあてはない。先が見えない。

まだ授業が始まってもいないのに、希望いっぱいの春を迎えるはずだったのに、もう「学ぶ」ことよりも「生き延びる」ことの方で必死になっている。

⭐⭐⭐

今考えると、「仕事や勉強を頑張る事が出来る」「働いてお金を得ることができる」ということは本当に贅沢だったのだなあ。普通に学校に登校して卒業したり入学したり、「だるいなぁ」と思っていたことも、なくなってしまうと、とても素晴らしい事のように思える。人間とは勝手なものだ。誰にも会わず、どこにも行かず、寝て起きて食べてまた眠る。金銭的な面を除いては、ほんの少し前まで、こっちが理想の生活だったような気もするのに。

いつも大切なものはなくなってから気づく。

今こうしている間にも、多くの人が倒れ、たくさんの会社や店が潰れ、たくさんの作品が消え、たくさんの推しが無職になっている。私達はこれからもきっと、多くのものを失ってゆく。

どんなに悔いても、時が戻ることはない。でももしもどこからか天使のぺこぱが降りてきて、「時を戻そう」って言って戻してくれたら、これまでの人生より、もっともっと頑張りたい。

そんな馬鹿な夢をみながら今日もまた

「誰かと会う予定のある前には食べられない豚キムチ」を、ひとり淋しく炒めている。


春名風花


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