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なぜ誹謗中傷に言い返してはいけないのか

【2020/09/12】

最初に訴訟を起こしてから、様々な取材のお申し込みをいただき、色々とお話をしてきました。少しでも同じような想いをしている方々の参考になれば幸いです。

ひとつ終わったからこそこうやって話せてますが、訴訟をすすめている最中は私はどんなに侮辱的な投稿をされても、どんなに煽られても、なるべく何も反応しないようにじっと静かにしていました。今もすすめているものがありますが、そちらも無事に全てが終わるまで何もお話するつもりはありません。なぜなら裁判とは正義が悪をボコボコにするためのものではなく、あくまで結果が出るまでは「どちらも正義」であるからです。

多くの方がなぜか訴えを起こした側の言い分こそが正しく、訴えられた側が完全なる悪人だと思っているようですが、裁判というのはこちらの正義と相手の正義のどちらの権利が客観的にみて守られるべきなのかを第三者を交えて冷静に話し合い、正確に判断してもらうための単なる場所でしかありません。訴えられた側にも反訴する権利があるし、訴えが不当だと思えばやり返すこともできる。どちらが先にはじめるかだけの問題なので、訴えた側と訴えられた側のどちらもが全く同じなんですよね。だからこそ、訴訟をすすめている間、私は絶対に相手に「人として」負けたくないと思うのです。

人間ですから、突然知らない人から「死ね」と言われて思わず「お前こそ死ね」と言いたくなる気持ちはあります。あることないこと言われてたり、大切な人を傷つけられたり。叫び出したくなる気持ちを抑え、落ちついて落ちついてと自分に言い聞かせ、穏やかにやんわりと訂正するにとどめるのは本当にしんどい。ですから、何で言い返さないんだ?言い返しても良いじゃないか!やられたらやり返すことの何が悪いんだ!と言う、復讐や反撃を正当化するような意見が持て囃されるのも分かります。これはきっとやられた人にしか分からないけど、やられている時は死にたくなるほど辛いから。

でも、立場を変えて考えると、きっと本当に私の事が嫌いな人も、それなりに自分なりの正義や倫理観でもって名誉棄損や侮辱をしているんだろうなと思うんです。たとえそれが誤解や思い込みや決めつけや、認知の歪みから来るものであったとしても。初めから悪いことをしようとして悪いことをする人は殆ど居ません。メディアやネットで見かけた芸能人に何らかの不快感を抱き、「自分は正しいことをしている」と思って口汚く中傷することは、その人に取っては、それこそが紛れもなく正当で立派な正義。

それなのにもし、「正しい事をしている」と思って暴言を吐いている人に対して、自分が「正しい事をしている」と思いながら暴言で言い返してしまったら、それは同時に相手の行動(自分が正しいと思ったら他人を傷つけても良い という考え)も、思いっきり肯定することになってしまう。誹謗中傷なんて許せないと思いながら売り言葉に買い言葉で言い返してしまったら、また、それで(自業自得とはいえ)少しでも相手が精神的にダメージを受けてしまうようなことになってしまったら、そこで大きな矛盾が生まれて、自分の中で辻褄が合わなくなってしまうでしょう。

裁判をするモチベーションは人それぞれなので、「誹謗中傷する悪い奴は許せない!!倍返しでこてんぱんにやっつけてやる!!!」という正義感から立ち上がり、訴訟を決意した人にどうこう言うつもりはありません。でももし、自分が「悪」だと認定している相手も、自分と全く同じことを考えていたとしたら?その相手のいる場所から見たら、自分こそが悪に見えていて、相手は悪い奴をやっつける正義のヒーローのつもりでやっているのだとしたら、それと全く同じ理屈で相手に立ち向かうのは、めちゃくちゃ分が悪くないですか?

自分の意見こそが正しいと信じて疑わない人々が、お互いに、自分からみて悪と認定した人を攻撃し、わーわーぎゃーぎゃー争って、強い方が裁判に勝ち、弱い方が負ける。それって自分が勝ってもモヤモヤするし、やむを得ないとは言え自分だって少なからず、相手を傷つけた加害者になってしまう。それで訴訟に勝ったとしても、その結果自分も誹謗中傷をする人間としてデビューしてしまったら…。私は何となく、ちゃんとすっきりしないんじゃないかな?って気がするんです。

私は静かに穏やかに訴訟をすることで、「自分が正しいと思いさえすれば、他人を侮辱したり罵倒しても良い」という思考そのものを減らしてゆきたいと思っています。力比べで争いに勝っても嬉しくないし、たとえ裁判で負けても、誹謗中傷を正当化する人々に、品性で負けるようなことだけはしたくない。10年間ネットの有象無象に散々タコ殴りにされているので、もう充分言い返す権利も、そこそこの暴言を吐く権利もあると思うけど、私は絶対に最後までその権利を行使しないと決めている。私は、どんな理由があろうともいじめを赦さない人間として、本当の意味で、誹謗中傷という行為に完全勝利したい。

普通は示談の際に「この件について、今後お互いに一切他言はしない」という守秘義務契約を交わすのですが、私はこの条項を外さないと示談には応じない、刑事告訴も取り下げない、と言い、田中弁護士を通じて相手方の弁護士さんに、今後、相手の身元が特定されない形であれば訴訟についてお話することが出来るよう、条件に加えてもらいました。その人ひとりがいくら反省して投稿をやめたところで、その投稿を信じてしまった人たちの誤解が消えてなくなる訳ではないし、誤解を解くためにはとても長い時間がかかるから。幸い、いろんな新聞や番組にとりあげていただけたおかげで、少しずつ誤解も解け、生活も元通りになり、友達もつくれるようになりました。学校を卒業する頃には、お仕事も妨害されずに出来るようになっているといいな。何年間も、たくさん心配かけてごめんね。ありがとう、元気にしています。今は引っ越しもして心機一転、お部屋も掃除しまくって、少しだけど部屋を飾る心の余裕もできた。今はAmazonで安くて可愛いインテリアを物色しつつ、ささやかに生活の質をあげることを頑張っているよ。

正しさは人の数だけある。だから自分の正義を他人におしつけてはならない。そして、いかなる理由があろうとも、絶対に他人の権利を侵害してはならない。生まれ育ちも感覚も異なる私たちがお互いの人権を尊重し、社会で共存してゆくために。

難しいけど、いつかみんなでこれを守れるようになったら良いですね。


春名風花🌸


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