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聖夜に思い出す人のこと

聖夜。
12月25日は、初恋の男の子の誕生日だ。

「誕生日おめでとう、そしてメリークリスマス」

とだけLINEを送った。すぐに短い返信が来る。彼らしいな、と思いながらスタンプを送って画面を消した。

小学生の頃から、お互いの誕生日にお祝いのメッセージを送り合っている。手紙、メール、LINEと形を変えながらも15年くらいそれは途絶えることなく続いていた。

元彼の誕生日はろくに思い出せないし、あんなに好きだった人の誕生日さえも曖昧だ。元々、人の誕生日を覚えるのは得意じゃない。それなのに毎年彼のことを思い出すのは、その日付の特殊性や、長年の習慣も関係しているのかもしれない。もはや反射に近い。

彼からも8月、わたしの誕生日になると必ず連絡が来る。短い文章と絵文字。よく覚えているなあと思う。一度そう聞いたら、「そりゃあ覚えているよ笑」と返事が来た。何のそりゃあ、だ。何の笑、だ。何も納得できなかったけれど、きっとわたしと同じ理由もあるんだろうなと思うことにした。

時々、誕生日の連絡ついでに「お祝いするよ」「そろそろ会おうね」なんてやり取りをすることがある。だけどそれが実行されることはほぼない。

ほぼ。一度だけ、わたしの誕生日のお祝いと称してデートをしたことがある。5年くらい前だろうか。車で家まで迎えに来てくれて、水族館に行った。キラキラ光る魚の群れを見たり、飛び回るイルカショーに歓声を上げたりしたあと、もんじゃ屋さんに入った。

ただ、それだけ。手を繋いだり、ましてやキスをすることなんてなかった。ただ遊ぶだけ。車の中で同棲している彼女と別れて引っ越すらしい話を聞いたけれど、そっか、としか返せなかった。彼もそれ以上何も言わなかった。

わたしたちはたぶん、もうずっと前に付き合うタイミングを逃していた。そしてそのタイミングは今も含めてこの先には来ない。お互いに、ずいぶん遠くに離れてしまった。それをふたりともわかっていた。

色素が薄くて、不思議な色をしていた彼の瞳のことを思い出す。小学生の頃は目が会う度にドキドキしていた。

ぶぶ、と携帯が震えて彼の名前と「スタンプを送信しました」の文字が光る。既読を付けてからLINEを閉じた。

いつまで続くのかはわからない。
次の夏は彼から連絡が来ないかもしれないし、次のクリスマスにわたしが忘れるかもしれない。

でもなんとなく、もう少し続いたらいいなと思う。

彼に恋をしていた頃の、わたしのために。

#ノスタルジックウィンター

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