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スピカと引力

スピカ、という星がある。

乙女座のα星。何語だったかは忘れたけど麦の穂先、という意味だった。北斗七星、うしかい座のアークトゥルスと繋げる春の大曲線としても知られている。

実はこの星はひとつの恒星ではなく、ふたつの星でできている。太陽の何倍も大きなふたつの星がとても近い距離でぐるぐる、回っている。大きな星はそれだけ引力も強くなるのに、このふたつの星は衝突することなくものすごい速さで回り続けながら光っている。らしい。

はじめてその話を聞いた時、やけに感動してしまった。強すぎる引力でぶつかったりせず、お互いの力が上手いこと働きあって光り続ける。どちらかが消えてしまうその日まで、なんてすごい。

万有引力、というけれど人間にも引力はあると思う。もちろん物理的なものではなくて、どうしようもなく引き寄せられてしまう、そんな力がある。目と目が合った瞬間に感じる引力もあれば、いつの間にか一緒にいるのが自然になっているような引力もある。でもその強さは人それぞれで、だからこそ苦しい。

なんでこの人なんだろう。眠れないベッドの中、好きな人の背中を見ながら思う夜があった。どこが好きかと聞かれても上手く言語化できる自信はないし、正直好きなのかどうかもわからない。顔が好みなわけではないし、価値観が合っているとも思えない。でも会いに行きたくなってしまう。近くにいたいと執着してしまう。だから、引力だということにした。どうしようもなく抗えない力に引っ張られて、そのひかりの周りをわたしはぐるぐる回っているだけのこと。遠くない未来にバランスは崩れて離れていってしまうことを知りながら、それでも。

引力は、恋愛に限った話ではない。今、仲良くしてくれている友人たちみんなに引力を感じる。それは心地よさだったり、タイミングの良さだったり、いろいろな形で実感している。そして、何がきっかけで離れていってしまうかわからない。遠くの宇宙に飛ばされて二度と会えなくなるかもしれない。そんな危うさを身に染みて感じているから、ひとつひとつの繋がりを大切にすると強く決めている。

もうずっと昔からスピカはふたつの星で、ぐるぐると回っている。といっても350光年離れているというから、今見えている光はそれだけ昔の光になる。だから、今はもうないかもしれない。互いに衝突してしまっているかもしれないし、タイミングが崩れてはなればなれになっているかもしれない。それは誰にもわからない。でもきっと。ふたつの星は今もぐるぐると回り続けている気がする。そうであって欲しい。なんて、身勝手で都合の良い地球人だね。

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