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森のカフェ、できました(絵本)

 ここからちょっとだけ遠い場所。森と海がとなりあっている穏やかな場所に、たくさんの生き物たちが暮らしているところがあります。みなさんは行ったことがあるでしょうか。

春、森はやさしい色の草花で満たされ、海は魚たちであふれます。あたたかな海風が木立の中をふわりと通ると、サラサラと音をたてて木々がくすぐったそうに揺れるのです。

 そんな喜びにあふれた季節なのに、うかない顔をしている動物がいました。この森に住んでいるキツネは、とても淋しがり屋。いつも誰かと話をしていたくて、うずうずしていました。でも森のともだちは、みんな自分のことに忙しくて、なかなか話相手にもなってくれません。

「ぼく、話したいことがたくさんあるのになぁ。楽しそうな遊びだって、いっぱい考えているのに。」

 キツネは、足元にあった松ぼっくりをつまらなさそうにチョンと蹴りました。
 「もしかしてぼく、嫌われてるのかしら…」

 あんまりみんなが遊んでくれないので、キツネはなんだか不安になってきました。そういえば、なかよしのリスにもしばらく会っていません。松ぼっくりがカラカラと崖を転がる音さえ、なんだか淋しく聞こえました。  

「カンガエスギ、カンガエスギ!」  
 高い声がピィピィと木の上から降ってきました。見ると、3羽のセキレイが、ピョンピョンと枝を飛び移りながら笑っています。

「そんなにみんなと話がしたいなら、みんなの方から会いに来てくれるような場所をつくればいいのさ。」 セキレイがつづけて言いました。
「例えば何かのお店を開くとかさ。買い物に来てくれるだろう?」
  お店を開くなんて、キツネは考えたこともありませんでした。
「でも買い物するだけなら、ぼくとゆっくり話をしてくれないんじゃないかな。ぼく、いっぱい話したいことがあるんだ。」

「じゃあ、ゆっくりできる場所がいいね。安心して眠れるお昼寝の場所をつくるっていうのはどうだい?」
「でも… 相手が寝ちゃったら、お話できないんじゃない?」
セキレイは顔を見合わせました。
「…それもそうだね…」

「それなら、ゆっくりできるカフェとかならどう?」

「カフェかぁ!とても素敵だねぇ。ぼく、一度でいいからそういう所に行ってみたいと思っていたんだ!」
 カフェを開くなら、場所はもう決まったようなものでした。キツネは、ぴったりの場所を知っていたのです。海辺から少し離れた丘の上に、三角屋根の小屋がありました。ずいぶん前から誰も住んでいない様子です。緑に囲まれたその小屋は木の香りでいっぱいで、庭からはキラキラ光る海も見えます。キツネはその場所が大好きで、散歩に訪れては、いつか自分の隠れ家にしようと考えていました。 

「ここでカフェができるなら最高だな!」

 キツネはわくわくしてきました。そしてそうと決まれば、今らか掃除をして、もう明日にでもカフェを開こうかと考えました。

 すると、あの3羽のセキレイがやってきて言いました。  
「良い場所を見つけたね!」
「ぼくたちも遊びにくるよ。」
「ところで君のカフェ、メニューはもう決まったのかい?」

 そういえば、まだなにも決まっていません。キツネはさっそくカフェのメニューを決めることにしました。みんなが集まってくれるようなメニューです。でも、どんなものがあれば良いのでしょうか?
 久しぶりにともだちのリスを訪ねて聞いてみました。

「カフェにあったら嬉しいメニュー?そうだなぁ、ぼくなら、木の実がいーっぱい入った焼き菓子なんか最高だと思うけどね。」 
 リスは目をキラキラさせながら言いました。

  なるほどと思ったキツネは、急いで三角小屋に帰ると、それから一週間、一生懸命焼き菓子を作りました。あたりには、甘くて香ばしいバターの香りが広がります。

  面白そうだと思ったのか、スズメや小鳥たちが次々に集まってきます。みんなは焼きたてのナッツ入りクッキーを食べて、大満足!これならおしゃべりしながら食べるのにもぴったりのメニューになりそうです。

じゃあ明日からオープンしようと思った、その時です。

 

ツキノワグマがやってきて言いました。
「木の実もいいけど、これだけじゃお腹いっぱいにはならないよ。せっかく海も近いんだ。魚の料理なんかあったら、ぼくは嬉しいんだけど。」

 確かにそうだな、とキツネは思いました。

 そして次の日からまた一週間、キツネはたくさんの魚料理を作りました。 

 パイの包み焼きに、香ばしく焼いたソテー、魚のピザも出来上がりました。

 タヌキや大きなミサゴもやってきて、「おいしい、おいしい」と言って食べました。みなんとても嬉しそうです。

これならみんなによろこんでもらえる。じゃあ、明日からオープンしようと、キツネは思いました。

  そこに双子のウサギがやってきて言いました。
「ナッツや魚もいいけれど、やっぱり野菜がなくっちゃね!緑や赤の色どりだって、お料理には大切でしょ?」

 そうか、確かに野菜を忘れていたな、とキツネは思いました。それからまた一週間、キツネは野菜の料理に取りかかりました。そして、新鮮な野菜をたくさんつかった料理を考えました。色鮮やかなパプリカとバジルをいっぱい使ったソースで、パスタやサラダも作りました。

 「これなら毎日でも食べたいよ!」  野ネズミもやってきて、大喜びで頬張ります。

お料理はどれも完璧です。 さあ、これでようやくカフェをオープンできるでしょうか。

「ちょっと待って!はちみつを使った料理がないじゃないか」 どこからかやってきたテンが言いました。 「おいしい海藻の料理も食べたいな」 カルガモが言いました。 「カキやホタテの料理があってもいいね!」 ウミネコが飛んできて言いました。
 集まってきたみんなが色んなことを口々に言います。キツネはもういっぱいいっぱいです。

「ぼくもう疲れちゃったよーぅ」

 みんなにおいしい料理を作ろうと3週間ずっと働きつづけたキツネは、すっかりすねてしまいました。両手はパイを作った時の粉で真っ白。自慢のしっぽには栗やクルミの殻がたくさんついています。おなかいっぱいの動物たちはなんだか申し訳ない気持ちになって、キツネの仕事を手伝いながら言いました。

「君の料理はどれもとってもおいしいよ。それで、いったいどんなカフェにしたいんだい?」

「ぼくはただ…おいしい料理を作るのもそうだけど…いつのまにかみんなが集まってきて、楽しそうに話をしてくれる、そんな場所にしたいんだ」

「そして新しい友達が入ってきてくれたら、きっともっと素敵だなぁと思っているんだよ」 

 「いつのまにかみんなが集まってくる場所かぁ…あれ?」みんな一緒に首をかしげます。

「それってもしかして、ちょうど今みたいな感じ?…」

カランカラン

その時、ドアを開けて見知らぬネコが入ってきました。「やぁ、なんだか楽しそうだね。ここはなんのお店なの?ぼくたちも仲間にいれてくれない?」

   みんなは顔を見合わせて笑いました。 
 キツネも少し恥ずかしそうに笑いました。

 

「もっとたくさん友達が来てもいいように、新しいテーブルを準備しようか!」

 みんな笑顔でうなずきます。

さぁ、

森のカフェ、本日オープンです。


ーおしまいー

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