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"貴婦人"に魅せられて

大好きな馬がいた。私は彼女に、どうしようもなく惚れ込んでいた。と言っても、私は別に彼女をリアルタイムで応援していたわけではない。私が彼女を知ったのは、引退から7年もの年月が経ってからだった。動画サイトに流れてきたアニメの切り抜きからウマ娘にハマっていた私は、モデル馬のレースもよく見ていた。そしてその中で、彼女の名前も度々耳にしていた。ゴールドシップの同期で、史上4頭目の三冠牝馬で、三冠達成後は男馬に交じって戦い、いくつも勝利をもぎ取った女傑。ただ、当時はまだウマ娘のモデル馬やその直仔にしか興味がなかった頃。あくまでも知識として知っているに過ぎなかった。

彼女をしっかりと知ることになったきっかけは、2022年の2月。G2、京都記念。その頃、とある現役馬に夢中になっていた私は競馬にもハマり、重賞のある週末はテレビで競馬を見るようになっていた。何となく出馬表に目を通していると、その中のある名前に目が留まった。「響きに聞き覚えがある」本当に、そんな直感的な理由だったと思う。その馬の母の欄には、予想通り彼女の名があった。その馬こそ、後の第47回エリザベス女王杯覇者、ジェラルディーナ。当時はまだ、一介のオープン馬だった。競走生活を終えた牝馬が母として血をつなぐことは知っていたが、そこに知っている名前があるのは初めての経験。記録の中でしか知らなかった彼女の存在を、強く意識した瞬間だった。その出来事がやけに印象に残り、その日以来、ジェラルディーナを追いかけるようになった。そして自然と、母である彼女にも興味を示すようになっていた。初めて見たのは、あの2012年ジャパンカップ。彼女はあまり派手な勝ち方をするタイプではない。競馬を見るようになったきっかけの馬がかなり派手な勝ち方をする馬だったこともあり、正直少し物足りなさを感じていた。けれど、それ以上に何かに強く惹かれたのをよく覚えている。

少々自分語りになってしまうが、私は生まれ育った環境の影響で、未就学児の頃から男性不信に陥っている。よほどのことがない限り、リアルだろうがネットだろうが、自分から男性に近づくことはない。特に彼女と出会った高校二年生の頃は、中学時代の先生のおかげでおさまりかけていた男性不信を高校の担任の言動によってぶりかえしてしまい、不信を通り越して男性と言うだけで無条件に嫌悪感抱くようになってしまっていた。自分は一生男性と関わることはできない。けれど、男性と全く関わらず社会生活を送るなど不可能。他の悩みも重なり、かなり思い悩んでいた時期だった。きっとそのせいだろう。男馬を相手に真っ向から勝負を挑み勝利をもぎ取る彼女の姿に、どこか憧れのような感情を抱いた。自分は男性と戦う勇気などない。逃げるしかできない。けれど彼女は違う。彼女の走りは、当時の私の目には、勇敢で、たくましくて、そしてどうしようもなく眩しく映った。そしていつの間にか、彼女に、理想の「強い女性」を重ねていた。

彼女をウマ娘で見たい。プロの手で擬人化され、人の言葉を手にした彼女を見たい。そう思うのに、時間はかからなかった。ただ当時は「サンデーレーシングの馬はウマ娘にならない」と言われていた頃。イラスト投稿サイトや掲示板で色んな幻覚作品を見て、時には自分で書いたりもした(なぜかこの頃、『ジェラルディーナの母』として書いた彼女はものすごいギャルママだった)いつか公式でウマ娘になることを夢見て約1年と半年。アニメ3期1話。ネットがドゥラメンテの登場で盛り上がる中、私の真っ先に頭に浮かんだのは「これで彼女もウマ娘になれる」だった。どこか安堵のような感情もあったと思う。ここでドゥラメンテが出なければ、諦めるしかないと思っていたから。そして忘れもしない2023年10月19日、アニメ3期3話。ゴールドシップの口から名前が出た瞬間は、ただよく分からない高揚感だけが残った。そして12話。ヴィルシーナの口にする「彼女」が誰を指すのかは、もはや名前を聞かずとも分かった。このシーンで、彼女が確かにウマ娘の世界に存在することをはっきりと認識した気がする。

待ちに待った3周年ぱかライブ。来るならここしかないと思っていた。けれど発表の瞬間は何か面食らったというか、そこまで喜びを爆発させることはなかった。最初に放った言葉は「思ったより落ち着いてるな」今にして思うと、これは自分の反応と彼女の外見とのダブルミーニングだった。全くもって、地味でも落ち着いてもいないのだが。そんな言葉が口をついたのは、その外見があまりにも想像していたものとかけ離れていたから。これまで数えきれないほど見てきた幻覚は、その多くが縦ロールに大きな帽子。身長も平均的。そこから大きく外れることはないと、心のどこかで勝手に思っていた。素人の妄想など、プロには関係ないのに。けれど翌日以降、時間が経つにつれて徐々に実感が湧いてきた。アニバーサリーストーリーやサポカイベント、ホームページのプロフィール文やボイスから分かる、彼女の内面。高飛車で、冷徹なまでに勝利に貪欲で、敗者に言葉はいらないとまで主張する。とても万人受けするとは言いにくい性格。正直、私も得意ではないタイプだ。けれど今は、慣れなかった外見も、得意ではないタイプの内面も、その全てに魅了されている。この2年間、沢山の幻覚作品を見て、色々な解釈に触れてきた。けれど彼女は間違いなく、私の思い描いた、私の惚れ込んだ「ジェンティルドンナ」そのものだった。

関係各位には、改めて感謝を伝えたい。こうして一番望んだ形で彼女に出会えたのは、他でもない、彼らの尽力のおかげなのだから。ただ私にそれを言葉にして伝えるような勇気はないので、自己満でここに吐き捨ててグッズを買って応援するに留めることにする。ジェンティルドンナ。ウマ娘の世界で貴女に会えたことが、本当に、本当に嬉しい。私は貴女に勇気をもらってばかりいた。せめて、貴女に胸を張れるような女性でありたい。


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