ゆっくり文庫の原作を読もう「シルヴァー・ブレイズ(銀星号事件)」「最後の事件」

ゆっくり文庫原作履修シリーズ。今回は「シャーロック・ホームズの回想」収録エピソード2本の感想を書きます。


シルヴァー・ブレイズ(銀星号事件)

グレゴリー警部が有能!
足跡を保護してるだけでめっちゃ有能に見える(緋色の研究の刑事コンビのせい)。もちろんそれだけじゃなく、調査に必要な被害者の靴や銀星号の蹄鉄を準備した状態で調査に同行するとか、刑事としての基本動作がしっかりしてるんですよね。
基本動作と言えば、グレゴリー警部は受け答えがハキハキしてるので印象がいいのもありますね。みんな、態度だけでもテキパキハキハキしよう。それだけで有能に見える(嫌な気づき)


原作でもこの事件のテーマのひとつは「想像力」でした。
四つの署名でホームズは観察と推理の違いについて語るのですが、そこに加えた重要要素としての「想像力」が提示されるわけですね。

私の理解では、ホームズのいう観察・推理・想像力は以下のような定義です。

  • 観察:五感でわかるデータを集めること、およびデータ(+知識)から単純に導き出せる推測

  • 推理:複数のデータや知識を組み合わせて論理的に(過去の)事実を導き出すこと

  • 想像力:データが足りない状況において、既知のデータをもとに妥当な仮説をたてること、またその仮説のもとではどのようなデータがあり得るかを推測すること

ホームズの名言「粘土が無ければレンガは焼けない」でいうと、粘土が足りないときに粘土を得られる確率を高める能力が想像力。
グレゴリー警部は想像力がないのでセオリーに基づいたベターな捜査にとどまってしまうが、ホームズのような想像力があればベストな捜査方針をとれるということですね。


最後の事件

打ち切りじゃねえか!!

すみません、口が悪くなってしまいました。
でもめちゃくちゃ打ち切りじゃないですかこれ????リアタイ読者だったらTwitterで毒吐くのを我慢できなかったと思いますよ。
歴史に残る大炎上が起きたのも納得でした。なにもかもいきなりすぎる。

伏線いっさいなしでいきなり「この大都会に横行する(発覚した)悪事の半数はモリアーティが仕組んだものだ」ってセリフを言わせる勇気すごいですよ。当時伏線を張るみたいなセオリーがどこまであったかは知らないですけど、とりあえず令和の読者はビビりました。


最後の事件が「うーん炎上やむなし」と思えてしまうの、唐突さもさることながら、言葉を選ばず言うなら「雑」だからなんですよね。

とつぜんホームズと互角の黒幕犯罪者が出てきたと思ったら、なんかいきなりホームズが「モリアーティを排除出来たら僕の探偵業はピークを迎える」「犯罪捜査よりも天の配剤による意義深い問題について考えたくなってきた」的なことを言い出し、よりにもよってワトソンがいないところで相打ちになって死ぬ。

これで心底納得できるファンは悟りを開いてますよ。無理無理。

ホームズはそんなこと言わない(過激派)


そしてこの「無理」という気持ちが、数多の読者の妄想・考察・二次創作の呼び水になったんだろうと思います。

そもそもシリーズ全体がワトソンによる伝記という体裁をとっているので、隠された真相はわりと提唱しやすい環境です。さらに「最後の事件」では、ワトソン自身がモリアーティを観測するシーンが一切ありません。ホームズからの伝聞のみ。
こうなったら「ホームズ生存説」「モリアーティ非実在説」「ホームズ=モリアーティ説」くらい、ファンなら1日で思いつくよねとなります。

当時のホームズ考察スレの伸びはすごかっただろうな…。たぶんうみねこEp8リリース直後くらい荒れたと思う。Wikiを読んでも当時の熱量を垣間見ることしかできないやつ。
実際はカフェとかで対面で議論するか手紙のやりとりくらいしかないので、Wikiすら残っていないのが悔やまれますね。(ホームズ考察勢の研究者はいるんでしょうけど)


ちょっと脱線しましたが、要はドイルがホームズを雑に殺さなかったらシャーロキアン活動があんなに盛り上がり続けることはなかったんじゃないか、ということです。
ホームズが生きている可能性を血眼になって探す過程が、ホームズシリーズをメタフィクション的に楽しむ文化を作ってしまったというか。
うん、モリアーティはすごいキャラクターですね…。


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