あらすじ

リョーコとリオは幼なじみで春から高校生。
入学生の帰り道、二人は共に何の部活に入るか悩んでいる。

(リオ)「リョーコは高校で何したいの?」
リオの唐突な質問にリョーコはふと思い出す。
(リョーコ)「私、映画作ってみたいな」
中学時代からアニメや映画ばかり見ていたリョーコは
”自分でも何か作りたい”という感情がふつふつと湧いていたのだ。
しかし、いわゆる映画研究会のような部活は同好会含め、この学校にはなかった。
(リョーコ)「まあ、そんな簡単には行かないか。もしあったとしても初めは先輩のお手伝いとかだろうしねぇ〜」
とリョーコが諦めようとした時
(リオ)「無いなら、自分たちで作っちゃえばいいじゃん!
そしたら先輩もいないんだし、私たちの自由だよ!」とリオが提案。
(リオ)「ふふふ…そして組織を結成した暁には、我々のみが利用できるなアジトを…」
リオは自分たちだけの部室が欲しいらしい。
まあ気持ちは分からんでは無いが厨二病が抜け切れていないリオのことなので
きっと何か良からぬことを企んでいるに違いない…とリョーコは察した。


ということで次の日、
空いている場所がないか探すために部室棟に足を運ぶ二人。
しかし、どの部屋の入り口にもしっかりと部のネームプレートが貼ってあった。
(リョーコ)「そんな都合よく空いてる所なんて無と思うんだけど…」
(リオ)「え〜!アジト作りたい〜!こことか良いじゃん!日光が当たってなくて、闇のオーラを感じる」
(リョーコ)「おもいっきし生物部って書いてあるんですけど」
(リオ)「そう!それが疑問なんだよ!部活動紹介の時に生物部なんてあったっけ?」
言われてみれば確かになかった気がする。もしかして今はもう使って無いのだろうか…?
恐る恐る教室を開けると、部屋の中はホコリだらけで
空っぽの水槽に、図鑑が大量に並べてある本棚が見える。
(アンナ)「あれ?もしかして新入部員ですか?」
突然の後ろからの声にびっくりして振り向く
(リオ)「ひえー!勝手に侵入してこの部室を使ってやろうだなんてそんなまさか!」
もろばれである。しかもリオのやつ新入と侵入を勘違いしてるみたいだ。
(リョーコ)「すみません。私たち新しく映画研究部を作ろうと思っていて、使ってなさそうな部室がないかと探してたのでつい…」
(アンナ)「なるほどー!そうだったんだね。この部室も半年くらい使ってないからねぇ今から掃除しようかなって思ってたところ」
(リオ)「え、生物部って活動してないんですか?」
(アンナ)「そうだねぇ。先輩たちも卒業しちゃったから、今は私一人で特に何もしてないんだよねぇ…」
この人は2年生の浅川アンナさん。去年先輩が受験勉強で引退してからというもの、一人では何をすれば良いかも分からず活動しないまま半年経ってしまっていたらしい。何か飼育してるわけでもなく、今年度で部を畳むつもりだという。
(アンナ)「まあでも、せっかく来てくれたし、一緒にお掃除手伝ってくれない?」
侵入者という立場でありながら、先輩の頼みともなると断れるわけもない。
埃をかぶってしまってる大昔の資料なんかを整理しながら3人は雑談を続ける。
(アンナ)「2人は映画を...研究?するの?」
(リョーコ)「あぁまあ研究するというか、既存の映画を見たり、実際に自分たちでちょっと作ってみたりとか、そんか感じですかね。」
(アンナ)「へー!ステキだね〜。いいなあ〜まさしく青春って感じ」
(リオ)「でしょでしょ〜先輩!そしてここを我がアジトにするために改造して…闇の結集社を作って…あ、なんなら先輩も入ります?」
(アンナ)「え?私も入って良いの?やったー!」
アンナ先輩がまさかの乗り気だったのでリョーコは驚いたが、
リオの話についていける人間はそうそういないので仲良くなれそうな予感がして少し安心した。

そんなこんなで少しだけ仲良くなった3人は、掃除を終えて一緒に下校することに。
しかしその帰り道、道端に黒い猫が倒れているのを発見する。
アンナ先輩がすぐに駆け寄る。
(アンナ)「轢かれてるわけじゃないみたい。でもものすごく弱ってる…」
(リオ)「えっこうゆうときってどうすれば良いんですか…!?」リオがあたふたしている。
(アンナ)「普通だったら動物病院へ連れて行けばいいんだけど、
日も落ちちゃってるし今の時間あいてる場所って近くにはなさそう…」
(リョーコ)「そんな〜!」
(アンナ)「でも大丈夫、私こうゆうのには慣れてるから」
そういってアンナは猫を抱え上げて、3人はその場所から一番近いリオの家へ向かった。
アンナの早急な看病により、リオの膝の上でぐったりしていた猫も少し元気を取り戻したようだ。
(アンナ)「栄養不足だったみたいだね。ご飯べさせたからしばらくしたら眠りにつくんじゃないかな」
(リオ)「アンナ先輩すごーい!お医者さんみたいですね〜」
(アンナ)「えへへ、私、実家が牧場でね。いろんな動物と触れ合ってたからなんとなく動物が喋ってることが分かるんだ〜」
(リョーコ)「え!ホントですか?ちなみに今なんて言ってるか分かります…?」
(アンナ)「う〜ん、そうだねぇ。直接言ってるわけじゃないけど、リオちゃんの膝の上があったかくてとても安心してるみたいだよ!」
(リオ)「なんだお前〜!もっと正直になれよ〜このこの〜!」
リオがデレながら猫を突く
(アンナ)「あ、『それくすぐったいからやめろ』だって」
(リオ)「まったく素直じゃないんだからこのやろ〜!」
と言いつつもリオはこの黒猫が気に入ったらしく今晩はリオの家で保護することに。


次の日の朝、リオとの待ち合わせ場所に行くとそこには昨日の黒猫を抱えたリオがいた。
(リョーコ)「え?まさかその黒猫、学校に持ってくの!?」
(リオ)「だって〜うちでは飼えないし、逃してあげるのも嫌なんだもん!
それに!この猫の名前はラティア って言うんだよ!」
(リョーコ)「え?そうなの?」
(リオ)「「うん!私が昨日、名付付けたの!ほら、ダークな雰囲気とか私とすごく合いそうだし…
右肩に黒猫を乗せて…うんこれはカッコイイっ!!」
(リョーコ)「はぁ..ったくこれだからリオは。で?学校に持っていってどうするつもり?先生も許してくれないと思うけど…?」
(リオ)「「ふっふーん!それがとっておきの場所があるんだなぁ〜!」
(リョーコ)「とっておきの場所?」
(リオ)「「そう!昨日の生物室だよ」

というわけで黒猫のカゲは生物室で秘密裏に飼われることになった。
リオのわがままはリョーコが説得しても聞いてくれないのでアンナに相談して止めてもらおうとしたが
(アンナ)「えー!ステキ!これでやっと生物部っぽいことができるね〜!しかもしかも秘密で飼うってのがスリルあるって言うか〜」
(リオ)「そうなんですよ〜!先輩分かってるぅ〜!」
むしろ逆効果であった。
ここまでくると止めようがないのでリョーコは諦め、ネコを勝手に飼うことに加担することに。
(リオ)「先輩!この猫の名前、ラティアって名付けたんですよ!どうです?カッコイイでしょ??」
(アンナ)「あ、そういえばこの子の名前は昨日教えてもらったんだった!」
(リョーコ)「え、それはその先輩の動物と喋れる能力ってやつですか?」
(アンナ)「そうそう〜」
(リオ)「他の生物と喋れる能力…うー!羨ましい!リオもその能力欲しい〜!」
(リョーコ)「で、この猫の名前は何だったんです?」
(アンナ)「え〜っとねぇ、『カゲ』だったかな?」
(リオ)「えー!ラティア じゃないの!?つまんな〜い!」
カゲがリオにシャーッと威嚇する
(アンナ)「あははっ!『俺の本名だぞ!ダサい名前つけるな!』だって〜」
(リオ)「お前〜ご主人様に向かってその口の聞き方はなんだ〜!!」
(リョーコ)「アンナ先輩、他にこの猫のこと分かったりします?」
(アンナ)「そうね。確かカゲは小さい頃お母さんとはぐれちゃったらしいんだぁ…
だからまたお母さんと会えないかいつも探して回ってたらしいよ」
(リョーコ)「へ〜そうだったのか。カゲも寂しい思いしてたんだなぁ」
(リオ)「そうだ!だったらみんなでカゲのお母さんを探しに行こうよ!」
(リョーコ)「え、探すだなんてそんな無茶な…」
(リオ)「どうせそこまでやることもないんだし、ほら映画の撮影のついでにね!」
(アンナ)「それステキね!みんなで色んなところ回って!楽しそう〜!」
まあいろんな風景を撮っては見たかったし、ついでなら悪くないかとリョーコも賛成する。
カゲも自分に協力してくれるなら悪い気はしないといった態度で賛成のようだ。
(リオ)「よ〜し!反対意見がないと言うことで、カゲの母親を探すことをこの部の当面の目標としま〜す!
と、いうことは…これから旅に出かけるとなるとどんな敵が現れるか分からない…!みんな心して準備をするように!」
(アンナ)「はーい」

とまあこんな感じで、生物部とも映画研究部ともいえない謎の部活動が始まってしまった。
放課後になると毎日この部室に集合し、みんなで談笑したり映画を見たりして、
休日には少し遠くの町までみんなで出かけて遊ぶようになった。(一応母猫を探すのが目的ではある。)


時は流れ9月
夏休みも終わり文化祭が近づいてきた。
文化祭こそは自分らで作った映画を上映したい…!と当初は意気込んでいたものの
特に作品を作るためといった撮影はしておらず、
結局、今まで撮った映像をつなぎ合わせて振り返るような身内用の動画を作って
外には公開せずに部員たちのみで楽しむことになった。

(リョーコ)「じゃあ再生するよ〜」
「ちょっと待って!カゲがいない!」
「え〜さっきまでその辺うろちょろしてなかった?」
「どこ行ったんだろう…」
部員たちが探そうとしたとき、カゲがタイミングよく部室に慌てて入ってきた。
「こらー!カゲ遅刻だぞー!」
「よし、全員揃ったし、電気消すよ〜」
昼間でも薄暗い生物室の中で小さなプロジェクターで壁に投影された映像に
それぞれの部員が目をやる。

部員たちは夏休みの間、様々な場所を冒険した。
近くの住宅街を始め、河川敷や商店街、夏の合宿と言う名目で海が見えるところまで旅行にも行った。
リョーコのビデオカメラにはそれらのたくさんの景色や楽しく遊ぶ部員たちの姿が記録されていた。

(リョーコ)「なんかこうして一つに繋げると…しみじみしちゃうね」
(アンナ)「この半年、とっても楽しかったなあ。」
(リオ)「結局カゲのお母さんは見つからなかったけどね〜」
(リョーコ)「あれ、どうしたのカゲ?なんだか元気なさそうだけど」
(リオ)「ふふふ、さてはお前、さっきのを見て感動したのか?...お前も隅におけないなあ〜」
(カゲ)「ミャ〜〜」
(アンナ)「え!? カゲ、ホントなのそれ?」
(リオ)「どうしたんだ?」
(アンナ)「カゲが、お母さんに会ったって」
(リョーコ)「うそでしょ?文化祭に来てたってこと?」
(アンナ)「そうみたい…でも声をかけても返事をしてくれなかったって」
(リオ)「え?なんでだよ。もうカゲのこと覚えてないのか?」
(アンナ)「そうかもしれない…しかも首輪がついてたってさ」
(リョーコ)「ってことは誰かに拾われて、今は飼い猫ってこと?」
(アンナ)「たぶん…ね」
(リョーコ)「そっか…。残念だったな。カゲ」
カゲを慰めようとするも、カゲはそっぽを向いて小さい声で泣いた。
(リョーコ)「なんて言ったの?」
(アンナ)「えーっとねぇ…
『母親探しはもうごめんだ。別に寂しくなんかない。俺にはいつでも帰ってこれる場所があるからな』だって!」
(リオ)「カゲー!お前ってやつはほんとによぉ〜!」
リオはカゲに飛びついて頭をわしゃわしゃと撫でる。
(カゲ)「シャーッ」
(アンナ)「ふふふ『やめろー!』って怒ってるよ」
(リオ)「ほんっと素直じゃないんだから〜」
(アンナ)「でもカゲの言う通りだよね!私もみんなと出会えてとっても嬉しかったもん!」
(リョーコ)「うんうん。私もみんなと色んなところで美味しいもの食べれて幸せだったなぁ」
(リオ)「今度はまたみんなで、もっと遠いところに出かけてみようよ!」
(アンナ)「そうだね、次は冬休み、かな?」
(リオ)「え〜どこ行く?もう楽しみになってきた!」
(リョーコ)「次こそはさーみんなで映画を撮ろうよ〜」
(アンナ)「いいねいいね!」
(リオ)「よーし!じゃあ次はみんなで映画を撮ることをこの部の当面の目標としま〜す!」


こうして絆を確かめあった3人+1匹は、その後も共に活動を続けていったのだった。


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