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naked. #10

いっぷく【一服】
1. 茶やタバコを一回のむこと。また、その一回分の茶やタバコ。

俺には「一服」という概念がない。煙草を吸わないし、ましてや“のんだ”こともない。俺に置き換えると「ひと息」とでも言うのだろうか。俺は休むのが下手だ。物心ついた時から流行りとは無縁でそれは今でも継続している。してしまっている。煙草を始めた理由が“周りが吸ってた”では格好が悪すぎる。と、ともだちが煙草に興味を持つそれを横目で見ていた。今も昔も相変わらず“じゃないほう”である。今ならジム・ジャームッシュのコーヒー&シガレッツを理由にしたいと思っているけど。

今日の暮れ、久しぶりにアコースティックギターをケースから出した。ずいぶんとぼろぼろになってしまった。弦はもちろん錆びていて、ネックは少し反っていた。御茶ノ水で出逢った気がする。とてもいいギターだった。素晴らしい倍音で俺の声を包んだ。「DON'T LET ME,“TOWN”」という音源で遺憾なく鳴っている。駅の路上で雨に打たれたことや、高速バスの移動がハードだったかもしれない。酔っ払って気分がいいとちょっと適当に扱ったかもしれない。ギターを弾かない日なんてなかったね。ベッドで歌いながら抱えながら、そのまま眠ったこともあった。大切にしていた。大切にしていたけれど、大事に出来ていなかったのかもしれない。それは何かに似ていて、涙が出た。恋と別れに似ていると気づいて、涙が出た。ギターからする匂いがいろんなことを思い出させてぼぅっとした。ものすごく抱きしめたいと思う時はだいたいもう叶わない時で、涙が出たね。恋と別れに似ていて思わず涙が出る。生気というのはやはりモノにもあって、どんなものにもあって、彼にもあった。それがとても弱々しくなっていて落ち込んだ。死んでしまう、と思って。悲しくなってしまって今もまだ落ち込んでいる。久しぶりに弾いて歌った。IN MY PLACE をつくったときと同じ窓の外、風が吹いていた。葉が揺れていた。思わず抱きしめて写真を撮った。最期に似ていて、涙が出る。

今からでも間に合うだろうか。触れていられる時間は限りなく優しくしたい。


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