naked. #9

不慮の事故で亡くなったともだちと会った思い出せる最後は、ライブの後の焼肉屋。その頃、俺は歌うことを辞めようと思っていた。「もういいかなと思って」と言った気がする。そこをつつかれ、それに答え、一瞬、彼の眼は揺らいで「それなら辞めた方がいいんじゃん?」と言った。接続詞ひとつ換わるだけで変わる優しさがあるように、語尾に人間性が表れる歌のように、その“じゃん?”に含まれる機微に、俺は俺で、俺の眼は揺らぐ。交わす言葉のすぐ裏っ側には「やめたいわけないじゃん」と「やめたくないくせに」がチラついてて、笑えた。何時も俺を特別期待してくれた人。夢を語らうことができた人。その時も「舞台とかやってみたいんだよなぁ」と言っていた。「わかるわ〜」と言って肩を組んだ。わかんのか?だし、たぶん肩は組んでない。おもむろに立ち上がって、俺は炭で真っ黒になった酒(のようなもの)をトイレで戻し、席に戻ると彼は既に会計を済ましていてギャラの入った茶封筒をくれた。そこから記憶は飛んで、今は家にいて、バッグから出てきたくしゃくしゃの茶封筒で“昨日”を思い出した。五、六千を握りしめて「今日もよかった」なんて言い合って。「バンドマンってやっっすいなぁ。」って、言ったっけ?言ったかもなぁ。そう思うもん。そう思ってるんじゃあ言ったかもな。思ってることしか、言っちゃいけないんだ。

HOLLYWOODというNetflixのオリジナルを観ていて、思い出した。夢というものについて考えた。いつからだ夢を夢と口にしないこの感じ。もしくはできない?この感じ。もっとあったはずなのにな。気がつけばもうすぐ、そのともだちと同じ歳になる。やりたいことは今の方がたくさんある。なんか奥の方が沸々している。もっと若い頃にやれたらよかったと、思う気もするが…思わないっちゃあ思わない。思わないというハッタリなのか、諦めか。どうだろうか。やはりどう考えても今だから解ることがたくさんある。自分のことをオッサンだからって言うヤツとは今すぐ縁を切ってしまおう。そいつがもしバンドやってたら楽器を破壊してあげよう。ポジティブオッサンはオッケー。そんなことより聞いてよ最近は食べごろのアボカドを瞬時に選べるようになったよ。最高だろ?素敵な未来を想像す。

30代って、めっちゃエロいと思う。

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