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岐阜市長良川のニジマス管理釣り場についての論点整理(FB過去記事)

※以下の記事は岐阜市の長良川の鵜飼観覧船乗り場前で,2024年2月にニジマスの管理釣り場がオープンし,2月19日の出水でニジマスの流出事案が発生し,その後再開しない(閉鎖)が決まる初期の段階で,論点整理を行った記事である.facebookで公開設定にしXにも投稿したところ,多くの人の目に触れたようで,公開後にルアー釣り業界,ニジマス業界の方々からいろいろと議論をぶつけられて,社会勉強になりました.
2024/2/25投稿,2/29日最終追記 noteへの投稿時に一部追記

2024年2月1日に岐阜市中心部を流れる長良川の長良川鵜飼観覧船事務所前にオープンした管理釣り場「アングラーズフィッシングパークNagara」について、2月19日頃の出水で釣り場が冠水したり、河川管理者である国土交通省木曽川上流河川事務所から長良川漁業協同組合に報告と再発防止を求める行政指導が行われたり、とオープン早々様々なことが起こっている。また、ニジマスが実質的に放流されることになることの是非についてもさまざまな意見がある。中立的立場から少し頭を整理してみたい。

1.あの場所はどういう場所なのか?

 岐阜市の中心部を流れる長良川の長良橋の南側。長良橋の周辺には、岐阜城のある金華山と岐阜公園、長良川温泉、長良川鵜飼の乗船場、街並みが美しい川原町、鵜匠さんらが住まう鵜飼屋地区などが集まっている岐阜市でも代表的な歴史的風致が楽しめるエリア。
 管理釣り場として利用されはじめた場所は、鵜飼観覧船事務所前で、鵜飼開催期間(5月~10月)は鵜飼観覧船乗り場として利用されている。川底の土砂を動かし、盛り土して小さな堤防を作ってあり、船が出入りするための航路部分を除いて、長良川の普段の流れとは切り離されている。
 今回の管理釣り場(釣り堀)は、下流側はもともと盛り土と護岸で囲まれているので、上流側に仕切り網を張り渡して、生け簀状態にしていた。

岐阜市の中心部,長良橋のたもとにある長良川鵜飼観覧船乗り場のための船着き場を網で仕切って利用する形で,長良川漁協によるニジマス管理釣り場計画がすすめられた.

2.あの場所は一体だれが管理しているのか?

 長良川の河口から56.2kmまでの区間は国土交通省が管理しており、それより上流は岐阜県が管理している。長良川鵜飼観覧船事務所があるあたりは国交省の管理で木曽川上流河川事務所、現場業務は第一出張所が担当している。
 長良川鵜飼のために、長良橋の上下流の左岸側(川の流れに対して左側、つまり南側)一帯は、岐阜市が長良川鵜飼のために長良川を「占用」している。岐阜市から河川管理者である木曽川上流河川事務所に占用許可申請を出して、河川管理者が許可を出している。
 今回の管理釣り場は、当初私は岐阜市の占用許可申請に、3月31日までのニジマス管理釣り場を行うことを占用目的に追加する形での変更申請を行ったのかと思っていたが、占用主体は長良川漁業協同組合のようだ。長良川漁協は今まであの場所を占用していなかったので、今回の占用を認めるにあたって、既にあの場所を占用していた「岐阜市」とはあらかじめ協議がなされており、「木曽川上流河川事務所」が許可を出したのだろう。(推測ですので誤りがあればご指摘ください).

3.ニジマス管理釣り場を「あの場所」で行うことについての様々な意見

2月1日以降、色々な意見を伺った。代表的な意見を列挙する。

  • 長良川鵜飼は例年5月から10月、岐阜公園及び長良川温泉は春と秋の観光シーズンに県外からの旅行客が多い。冬は閑散期であり、冬場にも誘客の材料となる「ニジマス管理釣り場」を既存施設を活用して行うことは良いという意見。

  • 釣り人口が減少し、とくに長良川で有名なアユの友釣り人口が減る中で、釣り人口を増やしたい。そのためには若い年代層に人気のあるルアー釣りができる場所が増えることを歓迎する意見。岐阜市から上流の長良川は、長良川漁協、長良川中央漁協、郡上漁協があり、長良川漁協ではアユの友釣りをする人はかなり減った(私見)。

  • 世界農業遺産「清流長良川の鮎」、日本遺産「長良川中流域における岐阜の文化的景観」など、長良川は岐阜市の歴史文化・自然と人間の関わりを大事にしようとしてきた関係者にとって、長良川のシンボリックなエリアで、日本のどこでもできるであろう「ニジマスのルアー釣り」が行われるという違和感。世界農業遺産指定や日本遺産指定の継続への悪影響への懸念。

  • 産業管理外来種に指定されているニジマスを、実質的に長良川に放流することによって生じるアユへの影響への懸念。アユ以外の長良川の生態系全般に対する懸念。

  • 長良川の美濃市には、長良川の複流路を仕切ってニジマスを釣らせる月見ヶ原FCという施設が既にある。長良川の支流にも同様の管理釣り場はあり、今回の施設が初めてではないから、ニジマス放流への反論があれば他施設に対しても問題提起すべきであるという反論。

4.ニジマスそのものに関する問題

 ニジマスは日本人にとって食用魚としても釣りの対象としても身近な魚であるが、もともとは外来種である。現在、「適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)」に指定されている。
 「産業管理外来種は外来生物法の規制はありませんが、生態系や農林水産業に被害を及ぼすおそれがあるため、外来種被害予防三原則「入れない、捨てない、拡げない」を守ることが必要です。(公益財団法人日本釣振興協会)」
https://www.jsafishing.or.jp/thought/sangyougairai
https://www.jfa.maff.go.jp/.../pdf/naisuimeninfo-7.pdf
 水産庁のパンフレットによると、関係者の役割として、県・市の役割は「地域の外来種対策を推進/漁業や遊漁関係者等の指導・監督/必要に応じて公的規制を措置/適切な管理下での地域振興」とある。漁協や管理釣り場経営者に共通して求められているのは「逸出防止」である。つまり、管理されている範囲からニジマスが逃げ出さないように求められている。
 国立環境研究所のデータベースによれば、「食性:動物食.陸生・水生昆虫,ヨコエビ等の無脊椎動物の他,小魚など利用可能な餌生物は何でも食べる」とある。
 個人的な見解としては、長良川本川では繁殖はしないだろうが、ニジマスの寿命は4年~8年くらい生きて大きくなるし、魚食性が強い(だからルアーで釣れる)ので、管理釣り場から脱出した個体が長良川の下流域に長期間残留する可能性は高いと考えられる。当然、他の生き物への影響はないとはいえないだろう。
上流にも同様の施設があるが、管理のレベルと放流数がどれくらいなのか、情報がないので何とも言えない。

追記 ニジマスの生息適温は21℃くらいまでという情報と25℃くらいまで適応可能という情報もあるが、長良川の岐阜市の区間では8月の日平均水温が25℃を超える日が多い(研究でデータを持っている)ので、長良川漁協の区間では夏は越せない可能性が高い。しかしアユ遡上期の間は生残している可能性が高い。アユへの影響の程度は「わからない」が、逸出するニジマスの個体数によるだろう。
上流、支川では越夏できる可能性がある。しかしニジマスはアユなどと比べてあまり移動しない魚のようだ。出水にも弱いという情報もある。

岐阜市あたりの長良川の水温(2020年の場合)
8月は日平均水温が25℃(赤線)をずっと越しており長良川漁協の範囲ではニジマスはおそらく生きられない。7月までは普通に生きている可能性があり、5月が最も活性が高くなる。上流や支川はより水が冷たいので越夏の可能性はある。 ニジマスが仮に毎年3月31日の管理釣り場の終了と同時に解き放たれるとして、それが長良川漁協さんの区間にとどまっていれば良い(良くないけど)が、長良川中央漁協や郡上漁協の範囲まで広がる可能性がないのだろうか?魚の生態はあまり詳しくないので移動性がどれくらいあるのか知りたいです。

追記2 ニジマスの魚食性はそれほど高くなく、昆虫食がメインである、訂正せよ、という意見もいただきました。ブラックバスと比べれば遥かに食害は少ないという長野県水産試験場の発信、水産庁の産業管理外来種指定も食害より種間競合を重視しているようである。長良川中下流域の夏は越せそうもないので、やはり逸出するニジマスの量的な度合い問題であると考える。

5.今回の出水(2月19日~20日)は異常なものであったのか?

 長良川は大きな流域を持つ(長良橋から上流の流域面積は1608km2)自然河川であり、2月から3月には融雪出水(雨が降って雪が融けることで、雨だけよりも大きい出水になる)がみられることが多い。今年は雪が少なかったが、2月19日の降水量はこの時期としては多かった。異常といえるものであるかどうかは分からない。
 しかし、河川の水位という点であれば、それほど珍しい規模の出水ではなかった。国土交通省が長良橋の上流右岸に設置している「長良」の水位計のデータを調べたところ、今回の出水の最高水位は16.5m程度であった。過去10年の2月・3月の長良の水位計のデータを確認したところ、16.0mを超す出水は10年で10回あった。平均して1年1回である。無論、出水がない年もあれば、一年で2、3回起こる年もある。また、2月より3月の方が多い。
 すなわち、管理釣り場を開いている3月31日までの間に、今回のような出水がまた起こっても全く不思議ではない。加えていえば、河川管理者はこの程度の出水が毎年あることは当然知っているので、釣り場の管理者側に注意を促していた(あるいはそれでも管理をしっかりする、との約束のもとに許可した)のではないだろうか。(私見)

2月から3月の長良川の水位 長良水位観測所2024年は赤線、前年までの十年分と合わせて表示。管理釣り場が冠水するレベルの出水は過去十年で十回。平均して一年一回は発生します。 ニジマス逸出防止を図りながら、出水時に網を撤去する、という河川管理者の占用許可条件をクリアするのは物理的に不可能である。

(後日追記 河川管理者(木曽川上流河川事務所長良川第一出張所)の許可条件に,出水時のモノの撤去に加えて,ニジマスの撤去も許可条件に入っていたようであり,岐阜県・岐阜市・国土交通省の中では,河川管理者であり最後に話をもってこられた国土交通省が最も良識を持って本事案にあたっていた,と筆者は考えている.)

6.出水時は本来どうするべきなのか?

 木曽川上流河川事務所長良川第一出張所から長良川漁協に行われた行政指導(報告を求める内容)では、「出水時に撤去すべき網が撤去されていなかった」ことをとがめる内容であったが、どうやら占用申請時の約束としては、出水時に網が流れないように撤去することが謳われていたようだ。網を撤去することを前提とすれば、出水時にニジマスが長良川に流出することも前提となっていたようだ。
 河川管理者は、河川法において「河川環境の整備と保全」を河川管理の目的にうたっているが、外来種問題や生物多様性の問題、漁業資源等の問題については、環境省や水産庁の見解がさまざまなので、ニジマスが長良川にばらまかれることについては明確な意見をもっていないのかもしれない。(個人的な推測)

(後日追記再掲 河川管理者(木曽川上流河川事務所長良川第一出張所)の許可条件に,出水時のモノの撤去に加えて,ニジマスの撤去も許可条件に入っていたようであり,岐阜県・岐阜市・国土交通省の中では,河川管理者であり最後に話をもってこられた国土交通省が最も良識を持って本事案にあたっていた,と筆者は考えている.)

7.出水後はどうするのか?

 管理釣り場を囲っている盛土は、岐阜市の長良川鵜飼観覧船事務所が管理しており、例年、出水によって壊れると市の予算で修繕を行っている。
 今回の出水で盛土の下流側が流出した部分についても、既に岐阜市から工事発注がなされている。(2月23日時点で、3月31日までの工事期間の看板が掲示されていたのを確認)破損した網は、管理釣り場の運営者の方々が修繕していた。
 鵜飼観覧船乗り場の盛り土の修繕は毎年行っているが、長良川漁協が行う管理釣り場を継続するために、冬季の出水に対しても岐阜市の予算で修繕工事を行う必要があるという構図になってしまっているようである。
 また、運営者さんのインスタグラムによると、再度ニジマスの補充の放流を行う計画であるようだ。(2月25日時点の情報 ⇒その後中止を決定)

8.管理釣り場の開催期間後のニジマスはどうするのか?

 3月31日までの開催期間が終わると、仕切り網は撤去されるため、釣られずに残ったニジマスは長良川に放流されるのと同様である。
 当初の放流量は、3000m2の管理釣り場に対して1万5000匹、その後毎週補充して、出水時点で1万9000匹。また補充するそうなので、それなりの数が長良川に毎年放流されることになる。釣り人が釣り尽くしてくれることは期待できないので、あるいは終了時に全て取りつくすことが管理の項目に入っている可能性はある。

9.河川区域での商業行為を可能としたのは何か?

 なぜ河川区域で商売できるのか?という点については、岐阜市による「ぎふ長良川鵜飼かわまちづくり計画」が背景にある。
https://www.city.gifu.lg.jp/.../1006653/1006655/1006658.html
 岐阜市の「かわまちづくり計画」が河川管理者である国土交通省に認可された際に、同時に、「都市・地域再生等利用区域の指定」を受けている。これによって、河川区域内でも商業利用が可能な道を開いたのである。この計画の実現には、岐阜市役所や国土交通省の尽力はもとより、長良川界隈でエリアの価値を高めるためにさまざまな実践を続けてきたプレイヤーの方々の努力がある。
 しかし、本制度に基づいて河川区域内で事業を行うことができる運営事業者等の選定については、協議会での議論が必要なはずである。「ぎふ長良川水辺空間活用協議会」の構成員は、岐阜市、金華自治会連合会、鵜飼屋景観まちづくり協議会、川原町まちづくり会、岐阜観光コンベンション協会、岐阜長良川温泉旅館協同組合、岐阜商工会議所、長良川漁協、長良川鵜飼鵜匠、国交省木曽川上流河川事務所、岐阜県商工労働部観光国際局」からなる。
https://www.city.gifu.lg.jp/.../001/006/658/1006658-02.pdf
 管理釣り場は、長良川漁業協同組合が運営し、実際の釣り場運営は別業者に委託して行っているようである。ぎふ長良川水辺空間活用協議会での運営事業者選定に関する議論を確認したい。

10.誰がどう意思決定したのか?手続き論の問題

 長良川漁協による管理釣り場の設置に対しては、少なくとも「ぎふ長良川水辺空間活用協議会」の開催と、長良川漁協と岐阜市、木曽川上流河川事務所の間での占用協議が行われていたはずである。
「ぎふ長良川水辺空間活用協議会」直近の開催記録はない。
https://www.city.gifu.lg.jp/.../1006653/1006655/1006657.html
追記 岐阜県の内水面漁業の規則については2023年7月に規則改正が行われていた。
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/286523.html
 長良川漁協の区間の対象魚にニジマス追加することについての公聴会では、ニジマス追加は小中学校向けの釣り教室だと議事録で説明されている。
 ニジマス管理釣り場の設置に向けた議論は2023年6月から県漁連で始まっており、その後に開催された漁業規則改正に向けた公聴会での公述に欺瞞がなかったかも検証の対象とすべきである。
 岐阜市民にとっても非常に関心が高い事案になっており、Yahooニュース等でも取り上げられ全国から多くのコメントがついている状態になっていることから、岐阜の大事な地域資源であり国民市民の共有財産である長良川の今後について考える材料として、本件については継続的に議論がなされるべきだろう。

追記
 私の立場は河川の専門家として、長良川が治水と環境の両面から良くなってほしいの一心です。極力客観的な情報に基づく整理をしていますが、誤り・異論・ご意見等があればコメント欄にでお知らせください。シェアしていただいて構いませんし、引用も許可します。事前にきちんと良識をもって議論されるべき事案であったと考えます。

追記 2024/2/29 今期の再開はしないそうです。残ったニジマスの回収も始まったとのこと。
ニジマス釣り場、再開を断念 岐阜市の長良川(岐阜新聞Web) https://news.yahoo.co.jp/.../eb97591342253ab7e4a090323906...

追記 2024/3/12最終更新 Xの方に2/27に投稿していた長良川の水温に関する図を追加しました。長良川の中流域でニジマスがどれくらいの期間残存しうるかに関係するものです。

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