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眼底に潜む 老いと病・2~進行したら失明~

2020年に子宮体がん手術のあと抗がん剤治療を受け社会復帰。そのわずか3か月後に視力を失いかねない病と闘うことになりました。1型糖尿病を抱えるがんサバイバーの闘病日記です。

隠れていたヤツラの正体

私は必ず視力を取り戻す、免許証を取り戻す。
運転免許証の更新が不合格だからといって落ち込んでいる暇はありません。私は免許更新不合格の翌々日に眼科を受診しました。
最初に告げられたのは白内障がかなり進行していること。それ以外にも眼底にごちゃごちゃ潜んでいたヤツラはすぐにわかりました。

大学病院の眼科検査室で最新鋭の機械にアゴをのせて窓を覗き込むと赤い光がチカチカして緑の線が交錯します。「眼底検査しますよ」どうやら眼球の底を立体的に捉える機械らしい。パソコンのモニターに、私の網膜の地形断面図がメッシュ状の3D地図のように映し出されます。
白内障の次に告げられた病名は「黄斑浮腫」(おうはんふしゅ)でした。
「眼底の本来くぼんでいる黄斑という部分が腫れて盛り上がっているんです。こいつが視力を低下させているヤツの正体です」
確かに凹地であるべき黄斑が凸状に隆起しています。
 黄斑浮腫って名前は聞いたことがある。よく糖尿病が悪化すると失明するというヤツだったか・・・
「進行状態はすでに初期は過ぎて中等症。重症ではないですけども進行したら失明ですよ。完治は無理でしょうが緩やかに失明の進行をくい止めるって感じですね」医師の言葉は脅しと慰めをごちゃ混ぜにしたまま押し寄せてきて、私の気持ちも病気の情報整理も追いつきません。
とにかく私は「糖尿病黄斑浮腫」の中等症で、眼球に注射して治療をする必要があるとのことでした。

黄斑浮腫との闘い方

糖尿病黄斑浮腫とは網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出すのを促すVEGF(血管内皮増殖因子)という物質によって引き起こされます。この物質の働きを抑える薬剤を眼球に注射して血液成分の漏れを抑制するのです。

注射は1本5万円、両目で10万円。これを月に一回数か月続けます。
医師は「なんだか知らないけどこの薬は安くならないんですよ、こういう注射ほど早く値段を下げるべきなのに」
高額療養費制度を利用すれば少しは安くなるものの、毎月数万円単位の
医療費がかかるというのです。
この高額な注射で腫れが引けば視力の低下はくい止められるかもしれませんが、完全に元通りになるとは言えないというのです 。

落ち込む暇もなく 、はい次。
「網膜の毛細血管から出血したあとがありますね。
これはレーザーで焼いて固めておきましょう。これは糖尿病網膜症。
こいつも糖尿病の合併症として悪名高いヤツです」
おおっ、いつの間に出血していたのか、眼底で何が起きているのかなんて自覚症状もないし、自分の目じゃあ眼底なんて見えないし…
仕事を休んでがん治療をしている間に、眼底ではひそかに恐ろしい病が進行していたのです。

「基礎疾患」が恐ろしい理由

なぜ「基礎疾患は怖い」と言われるのでしょうか。
中でも真っ先に名前があがるのが糖尿病です。血管が脆くなり毛細血管から出血しやすくなります。それが一番早く表れる部位が眼底の網膜です。
糖尿病網膜症は50代から60代が失明する原因の一位です。
また外科手術の際には血が止まりにくく傷の縫合も治癒が遅くなる傾向があります。心筋梗塞などで血液がサラサラになる薬を服用している場合はこの薬が妨げになります。逆に薬を止めれば血栓が出来やすくなるため、術後の安静にすべき時期に脳や心臓や肺などで血栓が詰まったら一発でアウトの可能性もあります。
糖尿病は免疫力も低下しやすく、感染症特に肺炎にかかりやすい。肺炎で水が溜まると肺の重みが心臓を圧迫します。血液やリンパ液の循環も滞留し臓器不全が起こります。自らの肺の中で溺れるようなものです。肺の水を抜くための利尿剤などの薬も腎臓や肝臓に負担がかかります。
病気治療と基礎疾患の連鎖には「薬の副作用」も大きく関係するのです。

糖尿病は1型と2型に分類されています。
生活習慣病といわれる2型は甘いものや塩分の高いものを食べすぎたりお酒の飲みすぎなど、まさに不摂生な生活習慣が蓄積して起きる成人病です。
一方の1型糖尿病は先天性で私もこの1型糖尿病です。
coffeeはブラック。ファストフードは嫌いでハンバーガーもフライドポテトも食べません。食事の味付けは薄味、マヨネーズはかけない。それなのになぜ私が糖尿病なのか。先天性であるが故に、まさに野生の防衛本能が働いて、体に危険な食べ物を避けてきたのかもしれません。
しかし・・・今は一日四回も毎日血糖値を計測してインスリンを注射して規則正しく禁欲的な生活を送る日々。
これでバイクも乗れず、視力も失って、抗がん剤の副作用で手足もしびれたままで、何を楽しみにすればいいのでしょう。
とにかくあきらめず前に進むしかありません。(つづく)

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