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ごめんねオナラしたの僕なんだ

誰しも授業中にオナラを我慢したことがあるだろう。無いとは言わせないが、生理的なもので仕方ないということは大人になった今だからわかることである。だがもし中学生が授業中に放屁しようものならあだ名はオナラマンになり、一族はオナラ臭いと不名誉な扱いを受け、住んでる街を追放され、末代までオナラを我慢できない呪いにかけられることなど容易に想像できる。なんとしても45分の授業を耐えねばならぬのだ。

中学1年生の時、経験したことがない屁意(オナラをしたいという欲求)に襲われたことがある。あれは数学の時間、開始15分あたりでオナラをしたくなった。休み時間トイレに行っておけば、と後悔してももう遅いがなんとしても我慢しなければと思い必死に肛門を締め付けた。解く余裕がない2次関数、滲む脂汗、オナラと肛門とのひりつく死闘が繰り広げられる。第1ラウンドの猛攻をなんとか凌ぎ束の間の休息後、第2ラウンドのゴングが響く。もう勘弁してくれ、肛門は力を入れすぎたせいでピクピクしているし、お腹はギューギューなっている。次にこの問題を解く人を当てようと出席番号で呼ぼうとする先生。なんとか自分を鼓舞し必死に戦った。2次関数は相変わらず解けていないが1つ違いの出席番号があたったおかげで先生の右ストレートをかわせた。今さらだがセコンドいれてトイレに行けばよかったとは思うまい。授業中にトイレに行くは行くで恥ずかしい思いもするのだ。授業時間残り20分、どうか持ってくれよこの身体!

一瞬の気の緩みも許さない中、無慈悲にも第3ラウンドが始まった。もう無理、締めすぎてもはや体内に格納されつつある肛門を必死に締め上げ椅子にお尻を、と言うより肛門を精一杯押さえつけなんとか耐え凌ごうと思った。
もうやめて!肛門括約筋のライフは0よ!!とふざける余裕もないまま張り裂けそうなお腹をよそに突然限界は訪れた。

ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

日常では聞くことのないだろう甲高い爆音が鳴り響いた。時間にして3秒くらいだったと思うそれは永遠にも感じる間を置いて教室を静寂に包んだ。
最大容量までお腹にチャージされた空気は、限界まで締め上げた肛門を椅子と密着させていたせいで真空となった空間を突き破った結果、ギリギリ聞き取れるくらいの高音で、淀みのない一直線の爆音となり教室を響かせた。
心電図が止まった時の音を想像してもらうとわかりやすいと思う。あれを100倍高く大きく長く、そして元気にした音だ。もっとも心臓が止まりかけているのは私だが。
そしてほんのりとオナラともうんちとも取れる匂いが漂ってきた。

理解するのに時間がかかったが紛れもなく私の肛門から放たれたものだった。ゆっくりゆっくりと狭い通り道から放出され続ける空気を感じながら、これ俺の?という気持ちだった。途中で止めることなどもはやできず、ただ流れ続ける空気を感じることしかできなかった。
認めたくない。あんな高く大きく長い音を誰がオナラと思おうか。

一通り空気を出し切った開放感とともに頭が真っ白になった。クラスメートは一瞬何が起こったか分からずにポカーンとしていた。それはそうだ、聞いたことない音のはずだから。
10秒ほどの静寂の後に、出音はあっちか、と言わんばかりに一気に視線が教室後方に集まった。
終わった。犯人探しが始まるんだ。言い訳も頭に浮かばない中、
「今の音何?」
「オナラじゃない?」
「オナラにしては高すぎるだろ」
「授業中に聞いたことない音色の笛吹くな」
と、ひそひそと聞こえてきた。
なんでオナラってわかるんだよあの音を。到底オナラとは思えないぞ。人死んだと思えよ。先生に至っては
「教室で吹き戻しを吹くな!いや、吹き戻しなのかあれ」
とか言っていた。先生なりのフォローかマジだったかもしれない。

どうしようもなくなり正直に「笛の音でも吹き戻しでもないです。私のオナラです。」と言おうか迷ったその時、クラスの目立ちたがりのアホが言った。
「おいS!屁こくなよ!!笑」
そう、このS君、いわばクラスのお調子者で紛れもなく陽キャ、そしていじられ役でもあった。なんという幸運、私の後ろの席だったのだ。こんなおもろい屁こくのS君に違いないというアホのいじりだった。神はここにいたかと思った。

S君は、
すまんぺ!とか
俺じゃねーし!とか
あれ、オナラ?とか
あれがオナラなのか戸惑いながらも、「屁こいてごめんねごめんね〜!」とU字工事みたいなことを言いながら、周りがこれ以上深掘りしないようにおふざけという形で収集をつけてくれた。
いやほんとにごめん!聞いたことない笛の音を奏でたのは俺なのに!!と心の中で頭が擦り減りそうなくらい土下座をした。
かく言う現実の私は、我慢しすぎて真っ赤でもあり、青春時代の終了を悟り蒼白となった顔面は一人紅白状態だったと思う。なんもめでたくないのに。

休憩時間すぐにS君に謝った。正直に言った、あの音の正体は俺やと。そしてあれは紛れもなくオナラであると。
S君は、そんな気したわ、てかあれほんとにオナラ?どうやって出すん?と笑い飛ばしてくれた。出し方も教えた。
さらに真の陽キャS君、こんな話のネタになることを一切他人に言わなかった。そのおかげでほとぼりは一瞬にして冷めた。
というか、あんなに「私が屁をこきました」って顔にかいてあるやつ一発でわかるはずだが、クラスメートは知らんぷりしてくれていたんだと思う。みんなありがとう。まじで。それか本当にオナラと思われていないかだが。
ただこの事件の後、当初お付き合いしていたクラスメートの女の子と連絡が疎遠になっていったのはまた違う話だが、きっとこのせいでないと願いたい。

とまあ、しんどいことも仲間のおかげで乗り越えることができました!めでたしめでたし的な話ではあるが、今となっては、人間から発っすることができる一番高く大きな音を長時間奏でた男としてギネスに認定してくれてもいいんだぜとも思っている。あの時録音できていればそれはもう孫の代まで語り継いでもらって、うちのじいちゃんケツからとんでもねえ音出せるんだぜってその音を聞かせながら友達に自慢してほしい。一躍近所のヒーローになれるだろう。なんなら緊急地震速報のアラート音とかに設定してほしい。あれ怖いんだよね。
大人になった今だと、正直に私がこきましたと、失敗やミスはなる早で報告することが一番大事だと思える。それが歳をとるってもんだ。

屁で大地を揺らすことができる大屁こきこと妻にこの話をすると、毎回お腹が攣るってくらい笑ってくれる。さすがのオナラチュード6.9(オナラマグニチュードのこと。6を超えるともなると家財の落下の恐れあり)を記録した妻でもそんな音出した事がないと負けを認めざるを得ないほどらしい。こんな恥ずかしいことも、手押し相撲とか指相撲とか亜種の国技では勝ち目のない私が唯一妻に勝てるものとなった。
失敗に塗れ続けた人生だがこうして一人でも笑わせられれば良かろうもんなのだ。



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