技術

その日も、私はMくんに愚痴っていた。

「あいつがまたミスしてたから、すぐ直すように言ったんだよね。その修正作業なんてたいした時間かからないハズなんだけど、30分くらいたっても持ってこなくてさ。だから、いよいよ席に見に行ったんだよ。そしたら、あいつ、全然違うことやっててさー!ふざけんなっつーの!!」

怒って、まくし立てる私に、彼はこう言った。

「え、全然違うことって何?テトリス?」

それで、もう笑ってしまった。
怒っていたのも忘れて、
「ハハハ!いや、テトリスって!!でも、ドラクエだったかもしれんわー。」
と、返していた。

で、愚痴終了。
しかも、笑って、最後には怒った理由自体どうでもよくなっていた。

彼はこんな風に私の怒りをスッとかわすのが、本当に上手だ。ただ右から左に受け流すのではなく、同調して一緒に怒るのでもなく、かといって反論するのでもなく、笑いに変えることで怒りを忘れさせる。
実はこの方法、かなりの高等技術だ。

上手くやらないと、さらに怒らせてしまう可能性もあるからだ。相手の怒りのボルテージを見て、笑いに変えても大丈夫か、一瞬の判断が必要だ。

Mくんは、あの時絶妙な判断をした。さらに、「テトリス」を出してくるあたり、センスが抜群。真剣に仕事の話をしている時に、急にゲームの名前を出す。しかも、かなりオーソドックスなもの。そのギャップが笑いを生む。

こうした彼の機転の利かせ方が、どれほど私を救っていることか。
基本的に神経質でマジメな性格のせいで、仕事中はキリキリしがちだ。ホント疲れる。そんな時に、彼がちょっと笑わせて、肩の力を抜かせてくれると、また仕事に取り組む気力が湧くのだ。

かつて、入社後の研修初日、県内の同期社員たちと何人かの上司たちの前で、自己紹介をした。
その時私は、自分の名前のイニシャルにかけて、3つのYを大事にしたい、というなんともジジくさいスピーチをした。その3つのYが、「やる気・余裕・ユーモア」だ。(いや、ホントにジジくさいな。)

やる気を持つのは当然。精神的、時間的に余裕を持って行動してれば、いい仕事ができるはず。さらに余裕があれば、ユーモアを持って楽しく働くこともできるはず。
とかいう論理だったと思う。

新入社員の時の自分が言ってた、余裕とユーモア。
Mくんを見習って、もっと身に付けなくては。

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