傘泥棒

「問題のあるレストラン」での例え話が秀逸だった。

傘立てにビニール傘が並んでる。最初に、傘泥棒が来て、傘を盗んで、さして帰る。その後に来た人も、傘をさして帰る。でも、それはその人の傘じゃない。その人の傘は盗まれた後だから 。
その次に来た人も、その次の人も、別の傘をさして帰る。そして最後の人は、傘が一本も残ってないから、傘を持ってきたのに、雨に濡れて帰らなきゃいけない。
2番目3番目に来た人たちは、わざとじゃないけど、でもやっぱり傘泥棒だと思う。責任があるとは言わない。謝れとは言わない。でも、その傘が本当に自分のものかどうか確認すべきだったと思う。濡れて帰った人のことを想像すべきだったと思う。

悪さをした人が一番悪い。でも、それを問題視しない人も、悪さに加担してるのと同じだ。
ということの例え。

このドラマ、脚本が素晴らしく、心に留めておきたい台詞がたくさん出てくる。今回も、この傘泥棒のくだりが胸に刺さった。以前に、私も似たような状況になったことがあったのだ。

近所のラーメン屋に夫と歩いていった。小雨が降っていたので、傘をさして。夫の傘は、ビニール傘だった。
そのラーメン屋には、入り口が2ヶ所あり、私達は裏側のドアから入った。そこの傘立てに傘を入れた時、確かに私達の傘2本しかなかった。
そのドアの近くの席に座ったので、出入りを見ることができた。すると、私達より先にそのドアから出ていったカップルが一組いた。その男の子は、そのお店のバイトを終えて、待っていた彼女と帰っていったように見えた。
私達が帰ろうとした時、夫のビニール傘がなくなっていた。私達が来てから、そのドアを出入りしたのは、バイトくんカップルだけ。彼らが傘泥棒なのは間違いない。
そこで、お店の中に戻り、事情を説明。すぐに、非を認め、謝罪の上、新しい傘とラーメンの無料券をくれた。
お店の対応は良かったけれど、何となく後味が悪い事件で、しばらくそのお店には行けなかった。

あの時は、たまたま傘泥棒を特定できる状況だったし、しかもそれがお店のアルバイトの子だったから、お店に文句も言えた。もし、そうじゃなくて、傘立てに他にも同じビニール傘があったとしたら、それをささずに帰ったかどうか、分からない。

でも、やっぱり、数百円のビニール傘でも、泥棒は泥棒だ。盗まれたから、盗んでもいい、なんて理屈は通らないし、自分もしたくない、と思う。

きちんと、これは自分の傘じゃない、と言いたい。そして、他人の傘をしれっとさすくらいなら、雨に濡れて帰りたい。

悪いことは悪い、と言う。自分も加担してないか、誰かが悲しんでないか、自分の犠牲になってないか、想像する力を持つ。
なかなか難しいけれど、大切にしたい矜持だ。

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