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嗚呼、憧れのアメリカ~NY編(3)

ニューヨークの夜を楽しみたい。
でも、危険はぜったい回避しなくてはならない。その警戒レベルを上げざるを得ないのは、女一人旅の残念ポイントだ。
夜間一人で出歩くのは危険なので、旅行会社主催の夜景ツアーに申し込んでいた。本当は、SATCの世界にいる気分を堪能するために、オシャレなバーでコスモポリタンでも、といきたいところだが、夜景を見るだけで我慢しておこう。

妥協の末のツアーだったが、内容は大満足だった。専用車で効率よく夜景スポットを巡れたし、写真をガイドに撮ってもらえたのも良かった。そう、一人旅だと写真が風景だけになりがちなのだ。

3日目の最初に訪れたのは、自由の女神と、復興の道を歩み始めたグラウンド・ゼロ(世界貿易センター跡地)だ。

自由の女神像があるリバティ島へは、船で向かった。

この船に乗る際のセキュリティーチェックは、すごく厳しかった。たかだか数十分乗るだけなのに、列に並んで、一人ずつ上着と靴を脱がされ、荷物の中身も検査された。私はコートのように見えるシャツ型ワンピースを着ていたため、それも脱げと言われて驚いた。いや、これ脱いだら、裸だから!と断ったが。
テロから8年たっても、この厳重な保安体制。この旅において、テロがこの国に与えた影響の大きさを最も実感した出来事となった。

船上から見えるマンハッタン。あの中に、ツインタワーがあったのだ。

自由の女神像も、テロ以降、展望台への入場は禁止されていた。私が行った2009年からまた入場できるようになっていたが、事前の予約制となったため、外からの見学だけにとどめた。
それでも、彼女の威光は十分に感じられたし、その美しさに圧倒された。

映画「タイタニック」でも、自由の女神像は象徴的に登場する。生き残った者たちが、彼女を見て、アメリカに辿り着いたことを知る。多くの犠牲者を出し、自らも傷ついているが、新世界で生きていこうと決意する。そんな場面。
実際に多くの移民たちが、同じように見上げたであろう。

彼らにとっても、アメリカは憧れの国、もしくは希望の国だったはずだ。でも、成功できた者ばかりでない。差別や偏見も強い中で、生きていくことすら厳しかったに違いない。鬱屈した思いは世代を超えて受け継がれ、テロにつながったのかもしれない。もちろん移民だけがテロリストになるわけではないが。

自由とは素晴らしいが、厳しいものでもある。

自由の女神像、そしてグラウンド・ゼロを見て、そんな風に考えた。

めずらしく神妙な気持ちになりながら、地下鉄でホテルに戻る。そんな時に、電車の中で、欧米人の男性に「どこどこに行くのは、この電車でいいのか?」と訊かれた。いや、知らんし!私、どう見ても観光客でしょ!
彼の意図するところはよく分からないが、明らかにアメリカ人じゃなさそうでも、道を尋ねるというのは、それだけ移民が多いということかもしれない。

その日はホテルから歩いて、MOMAに行って、現代アート鑑賞。
さらに翌日は朝から、自然史博物館を鑑賞。ここは、映画「ナイト・ミュージアム」を観てから、どうしても行きたかったところだ。

ここでのハイライトは、やはり恐竜。
恐竜の謎にみちた生態とフォルムが好きだ。ずっと見ていられるなぁと思った。

この日は、驚くこともあった。国連の会議が行われていた時期で、各国から要人が集まっていたのだが、ホテル近くで、オバマ大統領が乗る車に遭遇したのだ。規制線が張られ、やけに警察車両と見物人が多いなと思っていたら、誰かが「Mr.President!」と言っている声が聞こえて、事情が判明した。
私も規制線の中で、彼の車を待った。

何台かの黒塗りの高級車が目の前を一瞬で通りすぎ、どれに大統領が乗っていたかも分からなかった。でも、すごく興奮した。大統領に遭遇する機会など、日本にいても訪れない。たかだか5日程度の旅行で、そんな幸運が舞い込んだのだ。舞い上がって、手を振り声をあげた私はやはりミーハーだ。

こうして、ニューヨークへの一人旅は無事に終了した。

LAで過ごした時と比べると、社会人になり、結婚もした。生活スタイルは一変しているし、色んな経験を経て、精神的にも成長しただろう。一方で、アメリカも9.11以降、一変した。自由に移民を受け入れ、アメリカン・ドリームを信じられた時代は、あの時本当に終わったのではないか。

変化した自分は、変化していく世界の中で、それでもしなやかに、旅を楽しめていると思った。自分とは違う文化を受容すること、それはきれいごとでは済まなくて、とても難しい。でも、私は、NYの街を歩く時、感じた「自由」の空気を信じたい。

「あなたはあなたの好きなように生きていい。」

それは、決して、自分だけの好き勝手な自由を謳歌するということでなく、他者の在り方を認める、その第一歩になると、信じたい。

終わり。

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