5月④わたしに会うまでの1600キロ

邦題が悪い。
いきなり文句で申し訳ないが、この映画の原題は「WILD」シンプルで力強い。それなのに、この邦題じゃ、出来の悪い自己啓発本のタイトルみたいだ。

特に、わたしに会うまで、が悪い。自分探しを声高に宣言するのって、もうダサくないか?
私は常々思っていた。インドに行ったり、お遍路さんに行ったり、富士山に登ったり、そのくらいのことで、人生観変わるとか新たな自分を見つけるって、ホントかよ?なんかちょっと深そうな感想言いたいだけじゃない??と。

だが、この映画の主題も、ざっくり言うと「自分探しの旅」なので、ダサい邦題もまぁ仕方ないか、とも思う。
主人公の女性は、最愛の母親の死をきっかけに自暴自棄になる。セックス中毒、ドラッグ中毒、自らの浮気が原因で離婚、と絵に描いたようなドロ沼の人生。
そんな彼女が、母の望んでいた「自分」を取り戻すために、過酷な旅に出る。それが、メキシコ国境からカナダ国境までアメリカを縦断するトレイルを1600キロ歩くという旅。

これは実在の人物の伝記を基にしたストーリー。その女性を演じるリース・ウィザースプーンがとても上手い。あのキューティ・ブロンドでカワイイ弁護士を演じていたのが嘘みたいに、ほぼすっぴんで、厳しい自然と対峙する、力強い姿を見せてくれる。まさかの野グソまで披露。まさに、体当たりの熱演だ。

劇中に登場する、アメリカの砂漠、山岳、森林が確かにwildそのもの。本当にハンパない。そんな中をバックパックを背負って、女1人歩く。過酷すぎる。
途中で水が無くなったり、出くわした怪しい男にレイプされそうになったり(きちんと逃げられたけど)、雪道やガラガラヘビ、とにかく色んな困難が襲いかかる。
私なら絶対こんなこと、やりたくない。

だが、きっと、生半可な旅では、自分を変える事ができないくらい、彼女の人生は荒れ果てていた。だからこそ、2分ごとにもう止めたいと思いながらも、決して歩みを止めなかった。元の人生に戻っても地獄。前に進むしかない。

1人歩き、美しい景色に癒されつつ、人生を振り返る。嫌な思い出が多い。フラッシュバックみたいに、挟み込まれるそれらの映像は、ただただ痛々しい。その痛みを乗り越える力になるのが、やはり母親の存在。
母親を失望させてしまうような今の自分を、絶対に変えたい、変えよう、そんな強い意志が、彼女をトレイルのゴール地点にたどり着かせた。

具体的にどう変わったのか、は映画ではあまり描かれていない。最後のモノローグで、再婚して子供を授かった、と語られるのみだ。

旅は道具に過ぎず、自分を変えるのは自分の意志でしかない。インドにも、四国にも、富士山にも、アメリカの荒野にも、そんな力は転がってない。どこかに行けば、解決するなんて、嘘だ。それは、「変えたい」と思った瞬間に、今いる場所でもできることだ。

私も旅が好きだけれど、自分の人生も好きだ。
だから、私にはハイリスクな1600キロは必要ない。
それが、この1本の映画を観て、見つけた「わたし」だ。

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