見出し画像

教訓のスペイン(1)

自分のお金で行った最初の海外旅行は、スペインだった。

人生初の海外旅行は、中学1年の時親に連れていってもらったグアム。2度目が、大学2年の春休みのスペイン旅行だ。
高校からの友達2人と春休みに海外に行ってみようというプランが持ち上がり、私ともう一人の子が第二外国語でスペイン語を勉強していたため、行先はスペインに決まった。
メンバーは、運動神経抜群で人見知りのシホ、朗らかで末っ子気質のジュンと、短気でせっかちな私。高校時代3年間同じクラスで、仲の良い5人グループの一員だった。シホとジュンは横浜、私は神戸に進学したが、休みごとの帰省には顔を合わせ、お互いの一人暮らしの家を訪ねるなど、交流はずっと続いていた。

旅行の計画は、私が横浜に行き、皆で旅行代理店を訪ねるところから始まった。学生に人気で、手頃な価格が売りのH.I.S.だ。確か、予算は15万程度だったと思う。バイト代を貯めたものだし、できる限り旅費は節約して、現地での食事や買い物に使いたい。頼りない感じの若い男性店員にアドバイスをもらいつつ、マドリッド・バルセロナの2都市を巡るの6日ほどのツアーに申し込んだ。それだけで、大人への階段を一歩上がったような、誇らしい気持ちになる。
ガイドブックを買ったり、スーツケースを姉に借りる算段をつけたり、何を着るか真剣に悩んだり、慣れない海外旅行への準備も楽しかった。

私は神戸から一度長野の実家に戻り、旅行前日に横浜のジュンの家に行った。パッキング済みのスーツケースは、実家から成田空港に送っていた。ジュンのアパートに、シホも来て、3人で最終の打合せを兼ねた前夜祭だ。
ウキウキと、お金やパスポートなど持ち物を点検していると、大変な事実が発覚する。
・・・私のスーツケースの鍵がない。
持ち物のどこをどう探しても、ない。見つからない。青ざめて、私は実家の家族に電話した。すると、なんと自室に鍵が転がっている、との衝撃の報告。パスポートと財布だけは忘れちゃダメと念入りに持ち物チェックをしたのに、スーツケースに鍵を閉めて、無事発送した後の安堵感からか、鍵の存在をなおざりにしていたのだろう。

ショックだった。自分はしっかりしている方だと思って生きてきた。こんな凡ミスを犯すなんて、信じられなかった。これから海外旅行に行くのに、出だしからつまずくなんて。この先本当に大丈夫なのか、不安で仕方ない。

さて、どうする。もう出発前日の夕方。これから、宅配便で成田空港あてに送っても間に合うかは微妙。ならばいっそ、鍵の開かないスーツケースは捨て、必要な物は買って間に合わせるか。服はシホやジュンが貸すと言ってくれた。
でも、初めて友達と行く海外旅行で、借り物の服ではどうにも楽しめない気がした。写真を撮っても、自分らしくなくて、嬉しくないだろう。

そこで、3人で考えた苦肉の策が、空港近くの鍵屋さんに、明日の朝空港に出張してもらい、鍵を開けてもらおう、というプラン。さっそくタウンページで調べ、めぼしいお店に連絡すると、「現物を見てみないと分からないが、鍵は開いてもスーツケース自体壊れる可能性もある、それでもいいならやりましょう」との回答を得た。もしスーツケースが壊れても、空港で買って詰め替えればいい。大事なのは中身なのだから。
翌朝、予定より少し早めに空港に向かった。鍵屋さんは約束通り空港に現れ、見事に鍵を開け、スペアキーも作ってくれた。私にはその鍵屋のおじさんが神様に見えた。(今は顔すら全く思い出せないけど)
こうして無事に、スーツケースも中身も使える状態で旅立つことができたのだった。

ほぼ初めての海外旅行で、出発前にいきなりの大ピンチ。でも、よくこんなに的確な解決策を思いつき、実行できたと思う。
3人寄れば文殊の知恵、まさに、である。
ピンチを乗り切れたことで、自分たちへの自信が生まれていた。
私たちなら、大丈夫。きっとこの旅を成功させることができる、と。

ただ、ピンチもこれだけじゃあ終わらないのが、この旅である。
神様は、私たち3人にまだ試練をお与えになるのだ。

つづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?