舌戦

高校時代からの友達に、ジャックという男がいる。
もちろん本名ではない。生粋の日本人だ。

ジャックと豆の木、から来ているあだ名だが、似ているのはジャックではなく、豆の方だ。
顔が細長く、あごがしゃくれているので、豆のさやに似ているのだ。

ジャックは、とにかくよくしゃべる。芸能人で言うと、大泉洋だ。よくしゃべるだけじゃなく、話し方も言ってる内容も個性的だから、面白い。
そして、彼は人見知りも、物怖じも一切しない。

そんな男だから、高校時代からよく目立っていた。モテるという訳じゃないが、人気者だったと思う。
私も、クラスは別だったが、一年の頃から友達だった。

彼は、当時から同級生の子と付き合っていて、そのまま結婚した。もちろん、その奥さんも友達だから、今は地元に残る他の同級生同士の夫婦を交えて、家族ぐるみのつきあいがある。

先週末にもその仲間と集まった。
夫が別の飲み会に行っていたので、私は一人で参加。
友達の家で、子どもたちも全員集合のカオス状態に、遅れて入っていくと、さっそくジャックの声がかかる。
「おおー、来たな!なに今日ひとり?去年は、海外どこいったんだよ?」
「いや、待て待て。今、着いたばっかりだから。まず、喉を潤させてよ。」
「あ?そうか、そうか。まぁ、飲めよ。お酒?なに?飲めないの?車置いてっちゃえよー。」
「ちょちょちょ、いきなりウルサイ。ちょっと黙って。」

大体いつもこの調子で、私とジャックのケンカのような会話は始まる。もちろん、ケンカしてるわけではないのだが、二人ともせっかちで早口気味なので、舌戦のようになってしまう。

この日は、家主のTくんの同僚のシモちゃん家族も来ていた。私はその家族に会うのは初めてだったが、T夫妻からよく噂には聞いていた。
私も人見知りしないので、挨拶した後は、会話の折々に彼らにも話しかけるようにしていた。
ただでさえ、同級生が多い中で、シモちゃんは私達と同じ高校の1個下だが、その奥さんは別の高校出身。つい内輪ネタばかりになって、疎外感を感じさせてしまうのはよくないと思ったのだ。

ジャック夫妻は今、自宅を建築中で、自然とその話が多くなり、私といえば家作りのパイセンぶっていた。
たてもの探訪で、大衆車がガレージに停まってたら、大体もうダサいって分かるね、と毒づいた時、ジャックにつっこまれた。
「おいおい、T子さん(シモちゃんの奥さん)びっくりしてんじゃねぇか。ごめんね、T子さん、この人ちょっと毒入っちゃう人なの。」

また、私がT子さんが長野県の北部の出身と知り、速攻で、シモちゃんとの馴れ初めを聞き出そうとした時も、ジャックにつっこまれた。
「おい!そんな個人情報聞き出そうとしてんじゃないよー!T子さん、あれでしょ。こういう人、辞典では見たことあるけど、本当にいるの初めて見たって感じでしょ。なかなかあなたみたいな人いないんだから、びっくりしちゃうよ。辞典の説明の2番に、書いてあるんだよね。やたら個人情報を聞き出すって。」
「そうそう、で、例文に『で、どうやって知り合ったの?』って書いてあるのね。ってなんだよ!事典に載ってるって!そんなに珍しい種じゃねぇよ!!」
と私も負けじとノリツッコミ。

と、そんな風にギャーギャーうるさいジャックと私。
でも、彼もサービス精神旺盛なので、あえてそうして場を盛り上げているのだ。
実際、周りは、私達のケンカのようなやりとりを聞いて、爆笑していた。
おっとりしたシモちゃんとT子さんは、確かに少し驚いていたようだったが、ニコニコして、私の質問にも答えてくれた。

どんなにいじられても、ジャックと話すのは楽しい。そして、その会話を皆が笑ってくれるのも、すごく嬉しい。

ジャックのような稀有な男(私を珍種扱いするけど、ジャックも相当珍種だ)と友達になれて、良かった。
この仲間と、この楽しい時間を、いつまでも大切にしたい。

歳をとっても、ババァ!ジジィ!と言い合って、笑っていよう。

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