パブコメ11中野弁護士

家族法制の見直しに関する中間試案に関する意見   提出日:2023年1月23日

氏名:中野浩和
性別:男性
職業:弁護士、弁理士

1 「第1」「1 子の最善の利益の確保等」について
(1)意見
 子の最善の利益の判断要素として、父母の一方が他の一方に無断で子を連れて別居した場面においては、子を連れて別居する合理的理由の有無を判断しなければならない旨の規定を入れるべきである。
(2)理由
 現状の裁判所実務における「子の最善の利益」概念は、一方の親が合理的な理由なく他方の親に無断で子を連れ去ること(以下「実子誘拐」という。)により形成された監護状態であろうとも、かかる監護状態を継続させることが「子の最善の利益」に資するとする。
 上記に関連し、「第3」「4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素」「(注1)」には、「父母の一方が他の一方に無断で子を連れて別居した場面」を、一律に実子誘拐とするか、一律に緊急避難とするかについての記載があるが、ナンセンスである。なぜならば、合理的理由の有無により、実子誘拐か緊急避難であるかが分かれるからである。
 上記の子を連れて別居する合理的理由の有無を判断しない裁判所実務は、子の引渡を求めて人身保護請求をした事件で、最高裁が「夫婦がその間の子である幼児に対して共同で親権を行使している場合には、夫婦の一方による右幼児に対する監護は、親権に基づくものとして特段の事情がない限り、適法というべきである」(最判平成5(1993)年10月19日民集47巻8号5099頁)との判断を根拠とするようである。
 しかしながら、合理的理由もなしに、親子を引き離すことは、子に対する虐待であり、引き離された親に対する人権侵害である。裁判所実務が実子誘拐により形成された監護状態を維持することは、子の利益に反する行為により形成された監護状態を追認するものであるから、誤りである。かかる誤りについては、2022年11月の国連自由権規約委員会からの総括所見、2020年7月の欧州議会からの実子誘拐抗議決議においても、指摘されるところである(末尾に付した参考資料①②参照)。かかる国際的要請からも、人道的視点からも、裁判所の誤った運用を正すべく、先に「(1)意見」述べた規定が必要である。

2 「第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し」「1 離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否」及び「2 親権者の選択の要件」について
(1)意見
 【甲①案】が妥当である。
(2)理由
・単独親権制度では、離婚により親権を失った親の所に子が同居親から虐待を受け逃げてきた事案において、当該非親権者の親が子を助けることが困難である。(「2018年2月子どもの人権委員会『子どものスピーチ』原文」参照https://con-rights-child9.localinfo.jp/posts/7136647/)
・養育費の自発的支払いを促す法的根拠、すなわち親権者としての義務が必要である。親権者であることが、養育費の支払い根拠となり、養育費を払わない親が減少し、ひいては子どもの貧困問題にも資することが期待できる。
・現状(単独親権)片親や継父母による児童虐待や無理心中等の悲惨な事件が多発するところ、監視の目が多い共同親権の方が、そのような悲惨な事件が起こりにくくなる。
・養育費の取り決めをしていない理由として「相手と関わりたくない」が母子家庭では一番多いところ(厚労省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」より)、原則共同親権となった場合、そのような同居親のわがままが通らなくなる。
・虐待や悪意の遺棄等著しい非行のある親に対する効果としての「親権喪失」(民法834条)と、親として非行がある訳でもないのに離婚という親子関係とは無関係な事象での「親権喪失」を同じに扱うことは、平等とは言い難い。
・子の最善の利益に資する親は二人親である。
・他人に対し暴力を振るう親は、例外的に親権を与えるべきではない。
(3)単独親権を維持すべき理由に対する反論
 離婚後共同親権に反対する理由の1つである“家庭内暴力(以下「DV」という。)から逃げることができなくなる”という理由について以下検討する。
ア 立法事実
 法務省家族法制部会の参考資料2-1【協議離婚に関する実態調査結果】(https://www.moj.go.jp/content/001347779.pdf)によれば、
調査対象を協議離婚を経験した30代及び40代の男女の調査において、
Q17で別居前に話し合いをししていないと回答した145名(全回答者数430名)中、Q19.別居した相手と話し合わなかった理由はなぜですかとの問いに「DVや子どもへの虐待等の問題があり話をする余裕がなかったから」「話をすることが危険だったから」と回答した件数は計12名である。
 上記実態調査結果から、離婚時において、いわゆるDVから逃げる必要のある割合は、12/430=約2.7%と見積もることができる。
イ 単独親権を維持すべき理由に対する反論の理由
・同親権創設とDV被害者保護は全く異なる事件の制度設計である。DVを理由に共同親権を否定するのは普通の家庭の親子関係を破壊するおそれがある。
・例外的事案を救うために、DVとは関係の無い大部分を犠牲にすることは、合理的ではない。対応策は別途考えるべきである。
ウ DVから逃げる必要のある案件の対応策
 外国には、DVから緊急避難する必要のある場合には、緊急避難後2週間以内に、暴力があったことを示す証拠提出が義務付けられている国もある。DVは、人に対する暴力なので、警察が扱うことも多い。日本においても、同様にすれば良いだけである。
 DV事案については、親権を喪失するという多大な不利益を課す以上、司法審査を経た単独親権とすべきである。

3 「第2」「3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律」について
(1)意見
 監護者の定めは不要である。【A案】も【B案】も不適切である。
 親権者間の合意が得られない場合、裁判所が、当該事項について親権を行う者を定めるべきである。更には、事後的に、非合理的な親の親権をはく奪するべきである。
(2)理由
・監護権を必ず定めることは、単独親権制の維持である【乙案】と実質的に変わらない。先に述べた【甲①案】とすべき理由がほぼ妥当する。
・監護者とは、子を監護している事実状態と考えるべきである。
・別居親が重要事項決定権を持ち続け、嫌がらせ的に引っ越しや進学にも口を出し続けられる制度とすべきではないので、そのような親は子に対する権限者としてふさわしくないからである。

4 「第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し」「1 離婚時の情報提供に関する規律」について
 講座の受講は、新たな利権を生むだけなので、義務とするべきではない。裁判所作成の面会交流ビデオをWEB公開すれば足りる。

5 「第3」「2 父母の協議離婚の際の定め」「(1) 子の監護について必要な事項の定めの促進」について
(1)意見
 共同養育計画書の作成を、協議離婚の要件とするべきである。
 共同養育計画書は、公正証書とすべきである。
(2)理由
・共同養育計画があった方が子の最善の利益に資すること、共同養育計画なしでは子の最善の利益を確保することが困難だからである。
・養育費の支払い、面会交流の実施を担保するためには、公正証書が望ましい。

6 「第3」「3 離婚等以外の場面における監護者等の定め」について
(1)意見
 監護者の定めは不要である。

7 「第3」「4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素」「(1)監護者」について
(1)意見
 仮に、監護者を定めるとしても、先に「第1 親子関係に関する基本的な規律の整理」「1 子の最善の利益の確保等」において述べた通り、裁判所は父母の一方が他の一方に無断で子を連れて別居した場面において合理的理由の有無につき判断しなければならない旨の規定が必要である。
 また、親子交流(面会交流)の許容度を、監護者としての資質として判断する旨の規定(フレンドリーペアレントルール)が必要である。
(2)理由
 父母の一方が他の一方に無断で子を連れて別居した場面において、合理的理由の無い子連れ別居は実子誘拐であって子に対する虐待であるからである。
 「(注1)」には「⑤他の親と子との交流が子の最善の利益となる場合において、監護者となろうとする者の当該交流に対する態度を考慮することについては、これを肯定する考え方と否定する考え方がある。」とあるが、大部分の場合において、親子交流は子の最善の利益に資するからである。

8 「第3」「4」「(2)親子交流(面会交流)」について
(1)意見
 月1回2時間の面会交流では、足りない。監護の分担といえるくらいの面会交流の頻度が必要と考える。子が3歳になるまでは、子の記憶力が3日程度しか持たないため、託児所への送り・迎え等頻繁に会うことが望ましい。
 (2)理由
・最良の親は二人親だからである(原則)。

9 「第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設」「1 第三者による子の監護」について
 直系尊属(祖父母)に関する規定は、別居親に準ずるものとするべきである。

10 「第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し」「3 親子交流に関する裁判手続の見直し」について
 親子交流(面会交流)の許容度を、監護者としての資質として判断する旨の規定(フレンドリーペアレントルール)が必要である。

11 「第6 養子制度に関する規律の見直し」「1 成立要件としての家庭裁判所の許可の要否」について
(1)意見
 【甲案】① 配偶者の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする、及び乙案には反対である。
(2)理由
 離婚後、非親権者の知らない間に子が他人の養子になること対しては、その正当性を担保する為に、司法審査を経るべきだからである。

12 法制審議会家族法制部会の委員の身分に対する意見
 法制審議会家族法制部会の委員には、公金から補助金を得て弱者を救済する民間団体の関係者が名を連ねている。これらの団体は、救済対象者数を増やした方が、補助金の増額につながるため、救済対象者数を増やす方向のインセンティブが働き、合理的な制度設計に資することが期待できない。
 したがって、公金から補助金を得ている民間団体関係者は、利益が相反する者として、委員から排除するべきである。

【参考資料】
①2022年11月4日、国連自由権規約委員会から日本に対してされた総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)には、以下のことが記載されている
「44 児童の権利 ...委員会は、国内及び国際的な『実子誘拐』(parental child abduction)の頻発と、締約国による適切な対応の欠如に関する報告を受け、懸念を抱いている。
45. 締約国は以下をすべきである
(b) 法律を改正し、子を家族から離す明確な基準を確立し、それが正当かどうかを判断するために、全ケースに強制的な司法審査を導入し、子及び親の意見を聞いた上で、子の保護と子の最善の利益のために必要な場合にのみ、最後の手段として子を親から離すことを確実にする
(c)『実子誘拐』の事例に適切に対応するために必要な措置を導入し、子の監護に関する決定が、国内であれ国際であれ、子の最善の利益を考慮し、実際に完全に実施されることを確保すること。」
https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CCPR%2FC%2FJPN%2FCO%2F7&Lang=en

②2020年7月8日に、欧州議会において、賛成686、反対1、棄権8票で採択された、実子誘拐抗議決議(以下、「EU決議」という。)には、以下の記載がある。
「1.日本における実子誘拐と、関連する法律や司法決定が全国的に施行されていないという事実による結果として苦しんでいる子どもたちの状況について、懸念を表明する。 日本にいる欧州連合市民の子どもたちが、自分たちの権利を守る国際協定の規定による保護を享受できなければならないと勧告する。
2.欧州連合の戦略的パートナーたる日本が、子どもの拉致の件において国際法規を遵守する気がない様子である事に遺憾を表明し注目する。 たとえば、1980年のハーグ条約に基づく子の返還に関する手続など、日本および関連国のその他の裁判所から言い渡された決定が日本で効果的に執行されるように、国の法的枠組みを改善する必要があると勧告する。
3.子供達のための人権原則は日本政府による国家的行動に依存しているという事実を強調する。多くの立法および非立法措置が、両方の親に対する子供の権利を保護するために、ことさら必要であることを強調する。 日本の当局に対し、実子誘拐被害親に裁判所が認めたふれあいと訪問権、およびそのような親が日本に居住する子供たちとの有意義な接触を維持する権利について、効果的に執行するよう要請する。 これらの決定は常に子どもの最善の利益を念頭に置いて行われるべきであることを強調する。
4.時間の経過が子どもにとって、また子どもと誘拐被害親の間の将来の関係に長期的な悪影響を及ぼす可能性があるため、子どもの誘拐事件は、迅速な対応が必要であることを強調する。
5.実子誘拐は、子どものウェルビーイングに害を及ぼすことがあるとともに、長期的に有害な影響を与えることがあるという事実を指摘する。 子どもの誘拐は、子どもと誘拐被害親の両方にとって精神障害の問題をひき起こすことがあることを強調する。6.1980年ハーグ条約の主たる目的の1つは、子どもの誘拐の直前の常居所たる国への迅速な返還を確実なものにするための手順を確立することにより、以って実子誘拐の有害な影響から子ども達を保護することであることを強調する。」
https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2020-0182_EN.html

以上

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