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「名誉男性」はどこから来たの?
先日、私はこのようなツイートを投下した。
これ調べてみたら、こういう記述があった。2004年の記事。https://t.co/koRBDmws6I
— happy_world (@happy_world2) October 16, 2020
さらに2005年に上野千鶴子氏が新聞への寄稿で「名誉男性」という言葉を使っている。https://t.co/EgKHzfFRLc
したがってアンチフェミの造語というのは根拠がないし、フェミニストも積極的に使っていた。 https://t.co/q4wPZ4N9Uw pic.twitter.com/Ry09JF7vXZ
引用RTした元ツイートは削除されてるが、それは内容に理解していただいた旨のコメントをいただいているので、そのことは別に思うところはない。
私がこのつぶやきで言いたかったのは2つ
1.「名誉男性」と言う言葉がアンチフェミという証拠はみつからない。
2.フェミニストも「名誉男性」と言う言葉を積極的に使っていた。
という点である。現在アンチフェミ側で「フェミニストが異を唱える女性の権利についてないがしろにする」という揶揄で「名誉男性」と言う言葉を使うことは承知しているし、フェミニスト側が古くからそのような用途でも使っていたかは調べきれてないし不鮮明である。例に上げた用途とその用途は異なるのだが、意味の変遷の歴史経緯までは調べるにいたらなかったし、用途というより「言葉」の問題にのみ着目したものであった。
なにせ15分で調べたので、脇の甘さはお詫び申し上げるしかない。
が、まあ軽いツッコミのつもりだったし、特にその後話題が長引きもしなかったのでこの話はこのまま流れるかと思ったが、翌日、このような引用RTが入っていた。
@dabadatw @mihoimiofficial
— 普々々(ふみ) (@runyarunya12129) October 16, 2020
ねぇ〜、ホイル氏〜。昨日君に話した奴。こんなんなってるー何故か上野千鶴子氏が使っているってだけでフェミニストも積極的に使っていったってなってるんだけど〜。該当記事は2005年10月31日毎日新聞夕刊だけど、どう見てもネオリベを批判するために上野千鶴子氏が使った https://t.co/l9dNf45LDK
上記の私の脇の甘かった部分に対してツッコミが入った形である。
一連のツッコミ、いくらか引っかかるところはあるが(後述)確かに分かる範囲だけでも明確にしておいた方がいいとは思われるが、ただ、実際に「名誉男性」と言う言葉がいつから、誰に、どのような意味で使われていたかとなると、おそらくインターネット普及以前からである。
調べるとなると専門外の自分には膨大な労苦が伴うことが予想され、正直困ったなと思っていた。(おそらくツッコミ者に出典等を問うてもあまり明確なものは出そうにないとも思った)
が、ちょうどその頃に、以下のツイートがTLに流れていたのを目にしていた。
2009年にコロンビア大学で開催されたシンポジウム「Arendt after '68」で、フェミニスト(に位置付けてもいいと思う)であるスピヴァクが行った講演のタイトルが「An Honorary Male」。訳すると「名誉男性」になる思うんやが…#何か見た
— 🍃将鼓🍃ネトウヨアルバイトリーダー (@shoukootaden) October 16, 2020
あれ? もしかして「名誉男性」って日本で生まれた言葉じゃないんじゃないの? 海外で生まれた言葉を翻訳、輸入したものなんじゃない? と思い、"Honorary Male"で検索したところ、英語Wikipediaに以下の項目があるのを見つけた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Honorary_male
"An honorary male or honorary man is a woman who is accorded the status of a man without disrupting the patriarchal status quo. Such a woman might be considered "one of the guys" by the men she associates with"
(拙訳)honorary maleまたはhonorary man(日本語に訳すとどちらも「名誉男性」になってしまう)とは、家父長的なそれまでの地位を崩すことなく男性の地位を与えられる女性のことである。そのような女性は、彼女とつきあいのある男性からは「男の一人」とみなされるかもしれない。
この記述を読む限り、「旧体制に適応せざるを得なかった女性」というニュアンスよりは「旧体制の維持に協力する女性」というニュアンスが読み取れるように思える。
英語Wikiは続けて「名誉男性の歴史上の例」を上げていくのだが、言葉自体の発生は書いていない。ただ、参考文献として上げられている中で一番古いのは1980年"Queen Elizabeth I and the Persistence of Patriarchy”であり、検索すると"honorary male"という語は確かに使われているようである。 Wikipediaの記述やこの本のタイトルを見る限り、名誉男性という語は家父長制に付随して取り扱われたようである。
この本が最初の出典かどうか、google scholarで調べてみると、"Honorary Male"あるいは"Honorary Man"という語は、1970年代にかなり頻繁に使われていたことがわかる。
検索で見つかった最も古いものは1967年の"Afghanistan: A Study of Political Developments in Central and Southern Asia."だが、内容は表示されないため、この中で本当に"Honorary Male"という言葉が使われていたかは不明である。
いずれにしても1970年代には既に頻繁に使われており、家父長制に関わる語であるということは、本邦のアカデミズム系フェミニストがこれを知らなかったということはありえそうにない。英語の"Honorary Male""Honorary Man"を翻訳したのが最初と見るのが妥当だろう。
意味合いについては当時の用途までは調べてはいないが、英語Wikipediaの記述を読む限りは批判的意味合いが強いように思う。ゆるく見ても家父長制の犠牲者という意味合いと家父長制への加担者という批判の「両義的」(どちらでも使いうる)であろう。
とすると、
1.「名誉男性」はおそらく海外の"Honorary Male"あるいは"Honorary Man"の日本語訳である。
2.批判的意味合いは元々の"Honorary Male"にも含まれうる。
ということが推測される。
日本の「名誉男性」という語の発生は海外のそれとは独立している、ということであれば、是非ご指摘をいただきたい。
以上。
余談
本題ではないが、17日の指摘ツイートについて、ぶら下がっているリプライ含め漠然と書いてある内容に違和感を感じた。
その違和感を言語化すると以下のような内容である。(この件について考えるためにメモを書いていた)
1.私は言葉の発生について云々しており、意味の変遷については言及していない。
2.続くピッピちゃんさんのレスによれば「男女雇用機会均等法以降」男によくついてこられるなという意味で使われてたと記憶してるっていうんだけど、
2-a.女子高生(くらい)のピッピちゃんさんが直接見聞きしたはずはないから誰かからの伝聞のはずだが出典が不明。
2-b.それが正しいとしても「二度の意味の変遷」が行われたことになるし、一度目の変遷はそれこそ「フェミニスト」が行っており、これはフェミニストが積極的に言葉を使っていたということになる。
2 -c.その時期の発生とすると、まだその時期は「アンチフェミ」という明確な概念はなく(反フェミニスト側からの発生だとしても)アンチフェミニスト由来とは言えない。
3.いずれにしてもアンチフェミニストからの発生という明確な典拠が文中に存在していない。
補足:検索すると2016年に小林よしのり氏が今のような「男性社会にこびる女性」という意味での名誉男性を行っておりそれ以前に現在の用途への意味の変遷が起こったと思われるが、2017年などには男性社会に過剰にこびる女性を指しての(フェミニズムよりの立場からの)用途が確認されており、本来の用途からアンチフェミが意味を捻じ曲げたとするには不自然な経緯になっている。
注:メモ中の補足で触れている事柄については、以下のURLのものである。(今見ると劇の方は初演は2017年ではなく2015年となっている)
https://yoshinori-kobayashi.com/11523/
https://natalie.mu/stage/news/249122
まあ、こういうことを書くから「ロジハラ」とか「シーライオニング」とか言われるのだが、私は上記のことについて問い詰めるためにこのnoteを書いたわけではない。そのつもりもない。
よってこれはあくまで余談として記載するにとどめる。
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