コミケ西遊記ーオタク同一性の危機ー

 人生初のコミケに行った。脱コミケ童貞には、23歳の一般オタクとしては遅すぎるような気もするが別にそんなんどうだっていい。オタクというアイデンティティを選択して、今を生きる以上、コミケにはいかんとなあ、というなんとなくのイメージがあった。だがそれもどうだっていい。行きたければ行けばいいし、行きたくないなければいかなければいい。
 俺はたぶんオタクだと思う。key作品に感動してAIRからやり始めたり、とある魔術の禁書目録とか、物語シリーズを耽溺して読んだり、深夜アニメ見まくったり、押井守作品にはまったり、グレッグイーガン読んだり。世間一般の人は、「そんなもの」に時間をかけずに、現実世界に当たり前のように適応する。だから、「そんなもの」はいらない。
 俺は現実世界になかなか上手く適応できない。だからオタクなのか、オタクだから(つまりは逃げるために虚構に逃げ込んでいるから)適応できないのか。卵が先かニワトリが先かという問題になってくる。愚問だと正直思うからどうでもいい。それはコインの裏表であり、認識の仕方の問題であることに気が付いたからだ。裏面は、「クソ陰キャ」で「コミュ障」で「根暗」で「大学ぼっち」、表面は「誇大妄想狂」で「何者でもない」。
 これを自己啓発セミナー的文脈に当てはめれば、物事は「考え方次第」となる。ク〇くらえ。そんな言葉で片づけられるほど甘い話じゃない。
 つまりは俺は今回のコミケで、自身のオタクとしてのアイデンティティを確かめにきたとも言える。正直、23にもなって素直に高校生が主人公の俺TUEEEEEEEEEに共感というか、ついていけない。てか世間のムーブメントの速さについていけない。俺はオタクなのだろうか。オタクとはなにか。謎だ。少なくとももう、世間のムーブメントに対して素直に乗れるほど馬鹿ではなくなってしまった。というより中途半端ではあるが、少しずつ社会に溶け込んできたのだと思う。俺は自分のできる範囲で本当に少しずつ、人との絆を回復し輪を広げてきた。ここでは詳細は言わない。だが、去年よりは少しはマシな状況だとは思う。だからなのか、最近は自分のオタク性とは何なのかを翻って考えるようになった。「その答えを出す一環としてコミケに参加した」と言ってはこれは誇張しすぎだろうか。案外そうでもないように思う。
 そんなよしなしごとを考えながら、水上を滑るように進んで往くりんかい線の車内でオタク達と囲まれながら、外を眺めていた。水面は光を帯びて美しく輝く。海を見たのはいつ以来だろうか。きれいだなあ。レインボーブリッジが見える。あれがパトレイバー2で反逆の自衛隊員によって落とされたのである。これも妄想。
 そして国際展示場駅。地下鉄から、エレベーターを上がる途中に知らんスマホゲームの広告。なんか胸がでかい。そしてでかでかとヘブバンの広告。これしか知らん。駅をでる。人多!!!てかもう一回言うね。人多!!!そんで暑い!その時俺はコミケ参加の事前チケットを持っていなかったから、当日券が目当てだった。そんなわけで、こんな炎天下の中並ぶことになったわけである。係員の誘導に従って、歩く、歩く、歩く。まだ、歩くの?そしてたどり着いた当日券の列。やはり人は多い。そして真夏の日差しは容赦なく降り注ぐ。そう、まるで第二次世界大戦のドイツ軍のMG42の機関銃掃射のように・・・。緊急搬送される古のオタクたち、担架は埋まり、死体には蛆が湧く。そして処理に困った衛生兵たちは穴を掘りそこに放り込む、という白昼夢を見た。そんな白昼夢を見るぐらい暑かった。まともな思考を期待できないほど暑かった。当日券の販売は12:30から。あと、1時間待つのかよ。どう時間を潰したものかと思ったが、読みかけの村上龍の「コインロッカーベイビーズ」がある。読む。あれ、おかしいな。同じページをずっと読んでいるような。アカン!脳みそが動かん!しょうがなく、ラジオを聞いて時間を潰す。小川哲のラジオ。でんぱ組のみりんちゃんが出ている。誰だ。
 そんなこんなで時間を潰し、やっと列が動く。よく見る東京ビックサイトの遠景が見える。ああ、取り敢えずはチケットは買えるな、と安心。

よく見るやーつ

 入場用のリストバンドを売り子のお姉さんから買うと、左手につける。汗でぬめってなかなか付かない。いや、これ汗じゃないな。日焼け止めだった。いや、汗と日焼け止めが混じったなにかなのかもしれない。取り敢えず汚い。リストバンドをつける。リストバンドをつけて周囲を見ると、銃撃されたトランプ大統領の如く右手を(左手だっけ)コミケ会場に吸い込まれていく方々が。俺もトランプ大統領の顔真似、じゃないポーズだけ真似て入場する。

引用:https://www.cnn.co.jp/photo/35221471.html

 入る途中には、ブルアカだかなんだかのキャラクターのコスプレをしている人がいたり、初号機がいたりとカオス。早くも洗礼
 今回の狙いはserial experiments lainという俺が大好きな作品のキャラクターデザインをした、つまりは創造神である安倍吉俊先生の新刊と鉛筆画をゲットすること、コスプレを見ること、フォロワーのK氏と会うことだった。

 ↑別に見なくていいです。「面白く」はないので。でも俺は面白かった。

 結果は・・・全部達成。やったぜ。

成果物がこちらになります。

実は評論系のコーナーも気になっていたから、立ち寄ってみたりした。京大、阪大、名古屋大のSF研の方々が同人誌を出していらっしゃった。
ウラヤバシイ!!!!(羨ましい)。うちにゃ、そんなもんない。あーあータックルはするし、ヤクはやるし、いいとこねえなあ。うちの大学。
 そしてJJのブースへ。めっちゃ優しい。少ないながらも還元する。JJブースの近辺でK氏とは待ち合わせのため、待つ。どんな人なのかと想像していた。会ってみたら想像していた通りの人でなんだか安心。これでケンシロウみたいな人が来たら俺泣いてた。
 K氏とはともに行動しながら色々と話す。ブースを移動していると、K氏が誰かに話しかけられていた。スマホを見ながらあれやこれやと身振り手振りで伝えているおそらく東南アジアの方。二人して聞いていると、どうやらスマホの画像の人物を探しているらしい。今目の前のサークルがその人なのかどうなのかがわからないと。目を向けると、コスプレイヤーの綺麗なお姉さん方がいる。確かに格好変わってたらわからんか。我ながら思い切って受付のお姉さんに聞いてみたら、どうやらその二つ隣りに座っていたオレンジ色の髪(スマホの画像だと青の髪だった。コスプレしている対象が違ったのだろう)の人がその人だったみたい。見つかってよかったあ。わざわざ遠方から来たわけだし。
 ともにコスプレブースに移動する。まさかの屋上。これコスプレイヤーの人死なない?大丈夫?タオルに帽子、日焼け止めという完全装備の俺でも暑いのに、コスプレイヤーの方々は場合によっては強化外骨格つけたり、しかのこのこのこしたり、AUOになったり、水着になったり、あっ、Angel Beats!のユイいる。普通に嬉しい。てか暑い。暑い。どれくらい暑いのかといえば、小学校の真夏の屋外プールぐらい暑い。こんな中2,3時間立ったり、ポーズ取ったりするの?ええ?
 そして列をなすカメラマンたち。明らかに肌面積が大きい方々が長蛇の列。やっぱエロが人を惹きつけるのか、という真理を再確認する。俺はそんな中、グーグルクロームとゲッタンのコスプレをしている方々の控えめな列に並び、パシャリ。ありがとうございました!!暑そうだった。
 K氏とは、帰路が違うためここでお別れ。北海道からだからなかなか機会がないとは思う。会えてよかった。

げっだん
なぜそれを選んだ。


 帰り道。ゆりかもめに揺られて、もう一度水面を滑る。水面を眺める。同じ水面なのに違う印象を受ける。
 人生においては大胆さを発揮しなければならない局面というのが度々ある。その度に僕は重要な決断をするにはあまりにも勇気とコミュニケーション能力が不足していて、行動ができなくて、その度に自己嫌悪に陥っていた。それに比べて今日はどうか。こんなクソ暑い中、歩き、人に会い、コミュニケーションを取り、普段だったら(大学)、考えられないようなアクティブさである。
 明らかに僕はオタ活においては有り得ないほどの行動力とコミュニケーション能力を発揮できる。そのことにコミケに行って気がついた。このことは大事な気付きのように思う。だが、はじめに言ったように、僕はもう無邪気なオタクカルチャーへの耽溺はできない。勿論時々アニメも見るし、ゲームもする。けど、見るコンテンツもやるゲームも当然だけど変化した。斜め系主人公にはもう自己投影できないし、おそらく見ることも叶わないだろう。受験という現実を知った今だと痛すぎて。
 じゃあ、今までの遍歴を無視するのかといえばそれはそれで違うような気もする。あまりにも世間の人は「ああ、わたしにもそんな時(そんなことで悩んでいたこと)あったよ~」と言う。だけどそこにあるのは、過去の「弱かった自分を乗り越えた自分」というある種のナルシズムのようなものと、(気のせいかもしれないが)そんなことで悩んでいるあなた子供ねえ、というマウントである。
 これはありふれたセンチメンタリズムなのか、アダルトチルドレン的なものへの執着なのかはわからない。だけど、少なくとも自身のオタク性はコインの裏表であり、強みでもあり弱みでもある。そんな風に思った。そして少なくとも僕が本当の意味で力を発揮できるのは、カルチャーの力を受け浮力を得た時、つまりオタク的である時だというのは事実だ。
 この事実を確認できただけでも、コミケに行った甲斐はあったと思う。










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