24.しあわせの第一歩

 初めてM学園に登校したのは、夏休みの補習授業。
まだ制服がなかったけど、夏休み中のため私服でよかった。

私は水色のワンピースで登校した。
母はよく私の洋服を作ってくれたが、着れなくなった着物で作ってくれることが多いので、この日は買ってもらったワンピース。
手作りの服でなくて、ちょっとホッとした。

「まさえちゃんは女の子なのにピンクが本当に似合わないわね。
水色や紺の方がよく似合うわ。」
と、母が言って買ってもらったものだ。

わたしってピンクが似合わないのか…

と、その日からピンクが嫌いになった。

西浦からバスに乗り、武蔵境で電車に乗り換える。
最寄りの駅から私はワクワクしていた。

学校の門を入って、噴水を通り、校舎の右側は事務所。
今日は他の生徒と同じ、左側を通って小学校の入り口に行く。
大きな玄関。
買ってもらった真っ白な上履きに履き替えて、3階まで行く。

各踊り場には、グレーの水飲み場(手洗い場?)があり、5つくらい蛇口がついており、そこにはレモン石鹸がぶら下がっている。

3階に上がると踊り場のすぐ前、左から3番目が4年生の教室。
ここまで来るのにドキドキした。

大丈夫かな
仲良くなれるかな
いじめられないかな

あんなにワクワクしていたのに、心配になってきた。

この日の登校は、5〜6人だったと思う。
それが私にはかえってよかった。

その日の補習授業は算数と社会。
最初の学校は、担任がいないことも多かったし、2番目の学校で使っていた教科書はM学園で使っているのとは違うし…
授業の進み方もやり方も違うから(それだけではないけれど)何やっているのかさっぱりわからない。

Gくんが教科書を見せてくれた。
私が初めて口を聞いたのが彼。

最初に社会の小テスト。
地図記号が書いてあり、何を示すかを記入していく。
方位記号が私にはわからなかった。
『矢印』と書いた。
先生が
「これは方位を示す記号です。」
と教えてくれた。
あまりのバカさに情けなくなった。
ホント、情けなくて今でも忘れない。
方位記号を見る度に思う。

でも、誰も私を笑わなかった。
Gくんが色々教えてくれた。

なんて優しいんだろう…

こんな優しい人たちのいる穏やかな学校は初めてだった。

私は思い出していた。
ついこの間までいた公立の学校でもらったメッセージカード。

登校最後の日に担任のM先生が、
「みんなで書いたのよ。
新しい学校でも元気でね。」
とメッセージカードを渡してくれた。

5サイズくらいの色画用紙に書いた、一人一人のメッセージ。
いじめっ子集団くんたちも、私の悪口を言っていた子も、仲良しだった子も…
みんなが書いてくれたメッセージは、いい言葉しかない。
その事にとても違和感を感じた。
きっと先生がそう書くように言ったのだろう。

『転校しちゃうの寂しいわ』
『とっても楽しかった!』
『また一緒に遊ぼうね』

うそばっか!

本当はこんないい事思ってないでしょ!!

ここは、男の子も女の子もみんな仲がいい。
そこに一番驚いた。

午前中の授業が終わり、お弁当を食べてから、先生がみんなをお隣の駅近くにあるプールに連れて行ってくれた。
そこは大きなプールが一つしかない。
井戸水を使っているとのことで、めちゃくちゃ水が冷たい。

先生には不安な気持ちがわかったのだと思う。
常に私を気にしてくれていた。
先生が泳ぎ方を教えてくれた。
あれだけプールに通ったのに、全然身についていなかったみたい。

『ナイショだよ。』
先生がみんなに、口に指を立ててそぉ〜っと言った。
そして私たちにアイスをご馳走してくれた。

先生がナイショって言っていいの⁇
でも、わたしはちゃんとナイショにするから安心してね。

家に帰って、母に話をした。
母はニコニコして私の話を聞いていた。 

初めて会ったみんなと一緒に食べたアイス、とっても美味しかった。
みんな笑顔で接してくれたことが何より嬉しい。

夢のような一日だった。

ナイショだよ…

…続く……🍦


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