バターとマーガリンの違い

春の陽気を感じる良い朝だ。こういう日は少し活動的になりたくなる。今日は久しぶりにお菓子でも作ろうか。クッキーなんかいいかもしれない。レシピは、薄力粉、砂糖、卵、バター(マーガリンでも可)。ふむ、バターをマーガリンで代用可能ということは、性質が似ているといこと。でも名称が違うということは何かが違うということ。いったい何が違うんだ。こうしてはいられない。早速調べてみよう。

原材料の違い
〇バター
原料材料:牛乳、食塩
〇マーガリン
原材料名:食用植物油脂、食用精製加工油脂、粉乳、食塩 / 乳化剤、香料、着色料(カロテン)

 なるほど、原材料が全く違うのか。しかし、植物油脂のほとんどは常温で液体のような気がするが、製造方法が関係しているのだろうか。さらに調べてみよう。

◇製造方法の違い
〇バター
 牛乳からクリームを分離して攪拌し、乳脂肪を凝集させてつくったもの。
〇マーガリン
 大豆油や菜種油などの常温で液体の油に対し、人工的に水素を添加することにより常温で固体の脂に変化させてつくったもの。

 なるほど、水素を添加することで液体の油を固体の脂に変化させることができるのか。化学とは不思議なものである。もう少し調べてみよう。常温で液体の油と常温で固体の脂はいったい何が違うのだろうか。

◇脂肪の違い
 食品中の脂肪には主に不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の2種類がある。不飽和脂肪酸には一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸がある。
〇一価不飽和脂肪酸
 この種類の不飽和脂肪酸には、分子構造中に二重結合が1個だけある。常温では普通液体である。オリーブ油に含まれるオレイン酸が代表的な一価不飽和脂肪酸である。
多く含む食品)アボカド、ナッツ類、シード類、菜種油、魚油など
〇多価不飽和脂肪酸
 この種類の不飽和脂肪酸には、分子構造中に二重結合が2個以上ある。常温では普通液体である。サバに多く含まれるDHA、EPAのオメガ3が代表的な多価不飽和脂肪酸である。
多く含む食品)魚、アマニ、植物油(べに花油、ひまわり油、コーン油)
〇飽和脂肪酸
 この脂肪酸は、分子構造中に二重結合がない。室温では固体のことが多い。動物脂肪に多く含まれるパルミチン酸やパーム油に多く含まれるパルミチン酸が代表的な飽和脂肪酸である。高温でもかなり安定しているので、調理中に壊れる心配が少ないため、お菓子製造などによく使用される。

 つまり、一般的に脂肪酸の分子構造中に二重構造が少ないと常温で固まりやすく、逆に二重結合が多いと常温で液体になりやすい。液体の植物油を使って固体のマーガリンを作るためには、この二重結合をなくしてやればよい。そこで植物油に水素を添加することで分子構造中の二重結合の場所を単結合に変え、もともと液体だった植物油に固体の特性を持たせることが可能になったということだ。これがマーガリンの秘密だったのだ。とても画期的な方法だと思う。例えば、飽和脂肪酸の量を調整することによってマーガリンの硬さや滑らかさを調整することもできるし、ケーキ用、食パンに塗る用など必要に応じて様々な特性をもたせることができる。

 しかし、この水素添加には一つ問題があった。水素添加を行うと一部の二重結合がシス型からトランス型に変化してしまう。このトランス脂肪酸が心臓疾患や脳卒中の原因となるLDLコレステロールを増やす懸念があるためだそうだ。自然界に存在する脂肪酸の多くはシス型らしく、このようなトランス脂肪酸は、人体に入った時に代謝されにくいため、上記のような健康疾患が起こるらしい。シスートランス異性とは懐かしい。高校化学以来久しぶりに聞いた。

◇シスートランスとは
 化学構造の中に基準となる点(原子)、線(結合)あるいは面があり、その基準に対して同じ側あるいは隣り合う位置をシス、反対側になる位置をトランスとして区別することによって生ずる異性。

 確かに、同じ分子式を持つがシス型のマレイン酸とトランス型のフマル酸では、融点も大きく違うし(マレイン酸約130℃、フマル酸287℃)、シス型の脂肪酸とトランス型の脂肪酸では特性が大きく違うのかもしれない。

 もちろん、このことに対してマーガリン製造業界が静観していたわけではない。水素添加による従来の方法でなく、加工技術に改良を加えることによって以前よりはるかにトランス脂肪酸含量の少ない製品を製造している。
◇平成18・19年度調査(100gあたり)
〇マーガリン 
 トランス脂肪酸:8.7g
〇バター 
 トランス脂肪酸:1.9g
◇平成26・27年度調査(100gあたり)
〇マーガリン
 トランス脂肪酸:0.99g
〇バター
 データはなかったが、製造方法が大きく変わっていないので、1.9gだろう。

マーガリン製造業界ののトランス脂肪酸を低減する努力が感じられる。ネットで少し検索をかけると、マーガリンのトランス脂肪酸について書かれた記事が多かったが、この調査を見てみると、バターの方がトランス脂肪酸が多いことになる。

 WHOの基準によれば、心血管系疾患リスクを軽減し、健康を増進するための勧告基準として、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるように指示している。
 日本人の食事摂取基準2020によれば、男性で約2,650キロカロリー/日、女性で2,000キロカロリー/日である。このカロリーの1%未満であるから、男性は26.5キロカロリー/日、女性は20キロカロリー/日がトランス脂肪酸の目標基準となる。脂肪酸のカロリーは1gあたり9キロカロリーだから、男性は約3g、女性は約2g未満が目標基準となる。
 

最後に食品のトランス脂肪酸の量についてまとめてみよう。これからの食事の際は少しは気を配りたい。

◇食品中のトランス脂肪酸含量(100gあたり)
基本的には、平成26・27年度調査のものだが、その年度のデータがないものは平成18・19年度のものを引用

〇牛ハラミ:    1.2g
〇輸入牛サーロイン:0.8g
〇和牛肩ロース:  0.68g
〇牛乳:      0.089g
〇生クリーム:   1.1g
〇アイスクリーム: 0.34g
〇食パン:     0.03g
〇クロワッサン:  0.54g
〇即席めん:    0.10g
〇マーガリン:   0.99g
〇バター:     1.9g
〇ドーナツ:    0.3g
〇菓子パイ:    0.58g
〇チョコレート:  0.19g

もうお昼か。お腹がすいてしまった。クッキーづくりはまた今度にしよう。

◇参考資料
農林水産省 すぐにわかるトランス脂肪酸
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/


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