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着実なリバウンドに入ったシンガポールのMICE産業

<2019年を上回ったF1観客数>
コロナ前は、シンガポール経済の大きな柱の1つだったMICE産業。昨年4月に国境を再開してから、徐々に息を吹き返しています。10月にはフォーミュラ1シンガポールグランプリも2年ぶりに開催され、3日間の観客数は30万2,000人と、2019年の26万8,000人を上回る盛況となりました。

<2025年にはコロナ前の水準へ>
2022年のMICEイベント数は、シンガポール観光局(STB)のイベントリストに掲載されているだけで76件。そのうち、オンラインだけだったものは5月に開催された医学学術会議のみで、それ以外は、対面開催あるいは対面とオンライン両方のハイブリッド開催でした。このリストに掲載されないイベントも多数あり、年間のイベント件数は公表されていませんが、2022年6月の報道によると、1~3月だけで150のイベントが開催され、3万7,000人が参加しました。2021年は年間で200イベント、参加者は4万9,000人でしたので、力強くリバウンドしていることがわかります。

イベントの参加者数をみると、2~4月頃に開催されたイベントは、コロナ前のイベントに比べると参加者数が半分程度ですが、9月以降になると、コロナ前の9割程度まで達しているものもあります。さらに11月に開催されたSingapore Fintech Festival は2019年を上回る参加者数を達成しおり、シンガポール観光局では、MICE産業は2025年には、コロナ前の水準に戻ると予想しています。

<MICE産業に様々な支援>
STBではコロナで打撃を受けたMICE産業を支援するための様々なプログラムを用意しています。Business Event in Singapore(BEiS)プログラムでは、イベントの内容、参加者数や参加者のプロフィール、イベントの規模、期間等を審査したうえで、イベント費用の一部が補助されます。他にも、条件を満たしたイベントについては、アトラクション、チームビルディング、ダイニング等を無料で提供するINSPIRE Global 2.0(In Singapore Incentives & Rewards 2.0)プログラムや、チャンギ空港グループ、セントーサ開発公社、携帯電話キャリアのスターハブ等のパートナー企業から割引や特別待遇を得られるSingaporeMICE Advantage プログラムもあります。

<ネットゼロ(※)を目指すMICE産業>
また、今後、欠かせないのは、サステナブルなMICE産業への取り組みです。
シンガポールのMICE産業はコロナ前からサステナブルを目指してきました。STBは2013年にMICE産業のサステナビリティ・ガイドラインを発表。2017年からはこのガイドラインを基にした認証制度も実施し、サステナブルなMICEイベント運営を促してきました。

さらにサステナブルなMICE産業を加速するため、STBとSACEOS(MICEの業界団体)は、2030年までにシンガポールがアジア太平洋地域の先進的なサステナブルMICEデスティネーションとなり、2050年までにMICE産業でネットゼロを達成するためのロードマップを、2022年12月に発表しました。

具体的な目標として、①2023年までに観光産業界が容易に適用できる一連のサステナビリティ基準を策定し、2024年までに国際的に認知されること、②2025年までにMICE会場とSACEOSのメンバー企業の80%が国際的またはシンガポール国内(またはその両方)で認められた持続可能性認証を取得すること、③2050年までのMICE業界によるネットゼロの達成を掲げています。

もちろん、サステナブルなMICE産業を目指してしのぎを削る国は多数あり、競争は熾烈です。シンガポールがコロナ前のような活気のあるMICEデスティネーションとしての地位を維持できるか、注視していきたいと思います。

【来場者で賑わうFood and Hotel Asia】

※ネットゼロ
様々な方法で物理的に温室効果ガスの排出量を削減し、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計を差し引きゼロ、正味ゼロ=ネットゼロにしようとする考え方。2050年までにネットゼロを目標にする国は日本を含めて多数。

(シンガポール ビジネスサポーター 碇 知子)

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