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インド政府が目指すデジタルヘルスケア・エコシステム

<インド政府のデジタル公共基盤>
インドでは、政府主導で「インディア・スタック(India Stack)」というオープンAPI(※1)を公開することで、インドの個人識別番号制度Aadhaar (アダール)をベースとしたデジタルサービスの利活用を促進しています。
このインディア・スタックの医療分野を司る「ヘルス・スタック(Health Stack)」が、コロナ禍におけるワクチン接種や遠隔医療の促進において、大きな役割を担いました。
(※1)API:Application Programming Interface
ソフトウェアやアプリケーション機能を 共有する仕組みのこと。
 
<「ヘルス・スタック」とは>
2021年9月27日、インド政府は、オープンで相互利用可能なデジタル・ヘルスケア・エコシステム構築のため、 Ayushman Bharat Digital Mission(以下、ABDMと記す)を発足させました。ABDMは、全国の医療関係者が相互利用可能なデジタル・ヘルスケア基盤の整備を促進し、患者の利便性向上を図ります。
「ヘルス・スタック」の要となるHealth IDは、14桁の固有番号で構成され、Aadhaarや運転免許証と紐づけて、Webやモバイルアプリで簡単に作成することができます。例えば、インドの政府サービスポータルサイトCo-WINは、インドの様々な政府機関によって提供されているサービスへシングルウィンドウ(1回の入力・送信により、複数の類似手続を同時に行えるようにするもの)でアクセスすることを可能にしており、Health IDと紐付けてCOVID-19のワクチン接種予約や履歴を管理することができ、2022年8月現在で、20億回超の接種実績が登録されています。
 
<ヘルス・スタックを担うインドスタートアップ>
「ヘルス・スタック」によってスタートアップの参入障壁が低くなり、リープフロッグ(※2)現象が起きるのも、インドの特徴と言えます。特に、以下3つのスタートアップは注目に値します。
(※2)リープフロッグ:技術革新が一気に進展するさま。
 
1. DRiefcase
インドで初めてABDM展開が承認された個人健康記録アプリ。ユーザーとその家族が医療記録を一元管理し、インターネットでアクセス可能。
2. Docprime health locker
全ての健康記録を安全に電子的に管理し、ユーザー同意のもと、医師と共有することが可能。Co-WINの予防接種証明書を取得・保存することも可能。
3. Eka Care
患者の健康記録を管理するアプリを開発し、現在、50万人近くの慢性疾患の患者が自分の健康記録をデジタルで保存することが可能。
 
インド政府は、現在、個人情報保護法案を国会から取り下げて、データプライバシー、インターネットエコシステム、サイバーセキュリティ、通信規制、非個人データの利活用も含めた、包括的な法案を提出する方向です。このように、センシティブな情報の利活用を促進するためにエコシステムを整備し、利用規制を走りながら検討していく取り組みは、規制強化やベンダーロックイン(他社の参入が困難な状態)がDXを阻害する要因であることに気付かされます。今後も、インドが様々な分野でどのような飛躍を遂げるのか、目が離せません。

【出典:Ayushman Bharat Digital MissionのHPより
https://www.india.gov.in/spotlight/ayushman-bharat-digital-mission-abdm 】


(インド・チェンナイ ビジネスサポーター 田中 啓介)

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