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9-08「窓から夕日が差し込んでいる」

連想ゲームふう作文企画「杣道(そまみち)」。 週替わりのリレー形式で文章を執筆します。
9周目の執筆ルールは以下のものです。
[1] 前の人の原稿からうけたインスピレーションで、[2]Loneliness,Solitude,Alone,Isolatedなどをキーワード・ヒントワードとして書く
また、レギュラーメンバーではない方にも、ゲストとして積極的にご参加いただくようになりました!(その場合のルールは「前の人からのインスピレーション」のみとなります)
【杣道に関して】https://note.com/somamichi_center


【前回までの杣道】


窓から夕日が差し込んでいる。窓の外側にてんとう虫がとまっている。猫にてんと虫の場所を教えようと声をかけるが、猫は言葉を理解しない。猫は鳴き声をあげる人間に気が付き、こちらに顔を向ける。てんとう虫には背を向けて座っている。「うしろ、うしろ」としつこく言えば言うほど、猫は呼ばれているのだと思い、最後にはこちらにやってきてしまった。

「志村、うしろうしろ」をリアルタイムで見たことがある年齢ではないが、高校生のとき、自己紹介で「好きな芸能人はいかりや長介です」と言った男子がいた。なんとなく笑ってしまたったのだけど、その男子から「笑うところじゃない」とピシャリと怒られた。笑うタイミングは今でも難しい。まわりの女子はよく笑うから、なんとなく自分もよく笑うようにしていた。周囲のために笑うようになったのは、中学生くらいだった気がする。適当に、なんとなく笑う感じかな?と思ったら笑って、ときどき間違ったことを恥じた。

中学に入学したタイミングで、いまでも覚えていることが2つある。1つは入学してすぐのテスト。選択問題ばかりで、質問文がすべて「このなかから適当な答えを選びなさい」だった。さっきまで小学生だった私は適当=いいかげんな、という意味でしか使ったことがなかった。適当には、合っているという意味もあるらしいと知って、なるほどとなった。だから私は好きな言葉を聞かれたときには、「適当」と答えるようにしている。

そしてもう1つは、中学に入学にして、誰もやりたがらない係があって、他薦で決めようということになった時のことだ。今思うと、最悪のアイディアだ。そもそも複数の小学校から来ていて、お互いのことを知らなかった。そして最悪なのは、他薦で決めようとなったとき、私自身も疑問を持たず、「よく知らないけど、おとなしそうな○○さんに入れておこう」と思ったことだ。そして集めた票を開いた結果、選ばれたのは私だった。

おとなしそうで、誰もやりたがらない仕事を、やらせるのに適当な人間として、一番票を集めてしまった。それよりも、人に向けた悪意をこういう形で自覚することになったことに驚いた。他人への悪意なんて、小さいものなら違和感もなく通り過ぎていく。自分に跳ね返った時に「あれは間違いなく悪意だ」と気が付く。悪意はこうも無意識だ。

大人になった今も、適当に笑うようにしている。在宅ワークで、パソコンの前に座ってニコニコしている。話をしている人が緊張しないように、こちらが聞いていることがわかるように。全く笑わない人もいるけど、そういう人はたいてい、適当なタイミングできちんと言葉でフォローしてくれる。そう、私は口下手なものだから、余計にへらへら笑っている。

目の前にいる猫は喋らないし、笑わない。ただ身体がそこにあって、時間の概念も理解していないらしいと聞く。体温は人間よりも1~2度高く、心臓の鼓動も少し早い。そのぶん、早く死んでしまうので、私はとても悲しい。それでも、彼が私の話を聞いている時は分かるし、聞いていない時も分かる。内容は理解していないけれど、声色は分かってくれる。外にてんとう虫がいると教えても、こっちに来てしまう彼。そのディスコミニケーションが愛おしい。彼の身体がそこにただ存在していること、それだけで祝福なのだ。


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